第107話 ソウルフード


「ええっ!?」


これこれ!

僕が期待していた反応はこれなんだよね!


僕が東京に行った時も似たような反応したから、もしかしたらと思って全国にある『WON』を選んでみたけど、まさかここまで驚いてくれるなんて、選んでよかったぁ。


「日向じゃ駐車場でお金取られるところなんてあまりないよね」

「あー、一応日向駅の近くにあるよ。と言っても日向に電車で来るような人が止めているんだろうけど。でも、都会にあるようなバーが上がるような料金所は僕の知る限りないかな」

「凄いですね。車を何時間も停めることができるなんて」

「いやいや、僕たちからしたら車を止めるだけでお金を取られるって方が異常だよ」

「そこはもう田舎と都会の違いだな。それで、入り口が間違ってないのはいいんだけど、駐車場ってどこに止めればいいんだ? 店が多すぎてどこに止めればいいのか分かんないんだけど……」

「そうですね……」


どうしよう……。


ただ駐車場代がないことを見せたかっただけに、『WON』で何をしようか考えてなかった!

お昼の場所はあそこに決めてるし、ここは『WON』のほかにもお見せがたくさんあるけど遊ぶために来るような場所じゃない。


『WON』に関して言うんだったら中で遊べる場所と言ったらゲームセンターくらい?


宮崎や延岡の『WON』だったら店の中に有名な店舗があるけど、日向の方にはそれがないんだよねー。


「……あ、そ、そこのガソリンスタンドに来たんですよ。この車、最初見た時にガソリンがなかったので!」

「あ、ホントだ。それならそうと早く言えよ! 中にどんなお店があるのか気になって仕方なかったじゃねぇか!」

「す、すみません」


気づいてよかったー!

たまたま見えたガソリンのメーターが少なかったのと、嵐子さんがまだ日向市に詳しくなかったおかげでなんとかなった。


なんせここに来るまでにガソリンスタンドがいくつもあったからね。


「お兄ちゃん……」

「どうした来夢?」

「……何でもない」


来夢はあきれているようだけどうまくいったから問題ない!


さて、ガソリンを入れ終えたら昼食の時間。


ここに関しては嵐子さんに頼まれてすぐに行くことを決めた場所。

僕がこの町で一番大好きな店で、何度も行きたいお店でもある。


「『天領うどん』?」

「はい、日向市民のソウルフードって言うやつです! ここのうどんがなんとも……!?」

「来夢ちゃんも来たことあるの?」

「うん! ここはうどんだけじゃなくておにぎりやおでんもおいしいんだよ! その上に安い! だから昼食の時とかにお兄ちゃんと歩いていくんだ」

「うどんにそば……!」

「太陽。よだれ垂らすなよー」


あー、店の駐車場に入っただけでお腹空いてきた!


車の外に出ると、おいしそうな匂いが外に充満している。


店の中に入ると匂いは威力を増して、空腹度が一気に膨れ上がる。


「いらっしゃいませー! ご注文はお決まりでしょうか?」

「天領そばの大盛りとおにぎり一皿でお願いします」

「私はかけうどんと牛めしで、後このおでんでお願いします」


僕と来夢はすぐに商品が決まったけど、今日初めて来た嵐子さんと太陽ちゃんは未だに品書きと睨めっこしていた。


ここのメニューはかけうどんや肉うどんと言ったどこにでもあるものがほとんど。

ご飯ものに関しては僕の頼んだおにぎりや来夢の頼んだ牛めしの他にもいなりずしがあるくらい。


だからそう悩むものじゃないと思うけど、やっぱり初めてのお店だとどんなものか気にあるのかな?


「私決めました! ざるそばの大盛りと天領うどん大盛りお願いします!」

「……マジで」


天領そば大盛りとおにぎりを頼んだ僕が言えたことではないけど、太陽ちゃんってもしかして大食い?


普通一品におでんかおにぎりを買うだけでお腹にたまるものなのに、まさかうどん・そばを二つも買うなんてっ……!?


「それじゃあ私はかけうどんでお願いします」

「かしこまりました! 天領うどんとそばの大盛りが1つずつ、かけ2つ、ざるそば大盛り1つ、牛めし1つ、おにぎり1つ、おでんが4つで合計3050円になります!」

「カードは使えます?」

「え、あ、はい……」


しれっとクレジットカードを取り出した嵐子さんを見て店員さんは驚きを隠せないでいた。


それもそうか。

僕たち4人組の中で一番最年長なのは嵐子さんだけど、一番小さいのも嵐子さんだから、それを知らない人から見たらいきなり小学生がカードを取り出したように見えるよね。


さてと、僕たちの値段の計算もしないと。

って言っても、頼んでいるのがいつものだから値段なんてわかるんだけどね。


席に座った僕たちのところに最初にお冷とおにぎりが置かれる。


「嵐子さん、これ、僕たちの分です」


財布の中から1810円を取り出して差し出す。

けれど嵐子さんは受け取ってくれない。


「いや、いいよ。私が払っただけだからな」

「いや、そういうわけには……」

「気にするなって言ってるのに。そうだな、じゃあこれまで世話になったお礼だ。お前にはモデルも用意してもらったしな」

「……そういうことなら」


嵐子さんの言う通りお金を財布に戻しておにぎりにかじりつく。


奢ってもらうならそれに越したことはない。


「こちら牛めしになります」

「ありがとうございます!」


席についてすぐに来夢の頼んだ牛めしが届いた。


普通牛めしを頼む場合、ミニ牛めしとミニうどんなのに、来夢はなぜか牛めしの並とかけうどんを頼む。

更におでんもついでに。


「そんなに食べて大丈夫? 太るよ」

「大丈夫。いつも学校に行くまでたくさん歩いてるから」


それで痩せられるものなのかな。


「それと、お兄ちゃんデリカシーないよ。ね、太陽」

「あ、あはは」

「え……あ、違うよ! 太陽ちゃんはたくさん運動しているから大丈夫だと思うけど、来夢は全く運動してないからでね!」

「だ、大丈夫ですよ! よく言われますので!」

「ほ、本当に?」

「はい! なんだったら保仁さんのも食べてあげましょうか?」

「え、遠慮しておきます!」


天領にざるの大盛り頼んでまだ食べられるなんて……。


「底なし過ぎない?」

「あぁ、太陽はその気になれば一食でご飯3合は食べるからな」

「3合!?」


え、ふつう多くても2合くらいだよね!

それを一食で3号も食べるの!?


「もう、嵐子ちゃん! それは言わない約束!」

「いいじゃん。減るもんでもないし!」

「女の子としての品性が減るよ!」


それにしても、そんなに食べたエネルギーはいったいどこに消えてるんだろう。


3合と聞くと、柔道選手のような大きい体が頭に来るのに、太陽ちゃんはすらっとした体形で少し身長と出てるところが大きいくらいなのに……。


「あ、あの、保仁さん?」

「ん? どうしたの?」

「いや、その~」

「お兄ちゃん、見すぎ」

「え?」

「おい保仁、何人の妹に色目使ってんの?」

「っ!?」


いつの間にか前のめりの体勢になり、太陽ちゃんを見ていた。


太陽ちゃんの顔がどことなく赤い。


「いや、色目使ってるとかじゃなくて、いっぱい食べている栄養はどこに行ってるのかなと思って……」

「おい! 何人の妹を見ながらおっぱいに栄養が行き過ぎてますね。だ! このエロ餓鬼!」

「お兄ちゃんサイテー」

「言ってませんよ!」

「そ、そうだよおねぇちゃん。保仁さんは栄養がどこに行ってるか聞いただけだよ!」

「そんなの、身長とその大きなおっぱいにお尻に決まってるだろ!」

「そうだそうだ!」

「だったら二人がもらってよ、この胸。大きくて肩凝るし、運動するのに揺れるから邪魔なんだよ」

「……来夢ちゃん。どう思う?」

「持たざる者への当てつけですね」

「これだから巨乳は!」

「持つものに持たない者の気持ちはわかりませんよ」


……これが持つものと持たざるもの格差。

見ていてむなしいな~。


「あの、お客様、お食事のお客様もいますので声の大きさを抑えていただいてもよろしいでしょうか」

「す、すみません」


それからすぐに僕のそばと来夢と嵐子さんのうどん、太陽ちゃんの大盛りが届いて、食べるときは静かに食べた。


さっきのお胸戦争? のせいで、悪い空気だったけど、どんな空気になっていても天領うどんはおいしかった。


因みに食べ終えた順は太陽ちゃん、僕、嵐子さん、来夢という順番で、量が最も多く、一番最後に届いたはずの、太陽ちゃんが食べ終わるのが早かった。


「太陽ちゃん、日向市民のソウルフードはどうだった?」

「とても美味しかったです! あれならあと2週はいけましたね」

「うん、たくさん食べるのはいいことだけど、少し控えた方がいいよ。まだまだ行くところはたくさんあるからね」


一応この後もいくつか予定は建ててるけど、


「で、お兄ちゃん、次はどこに行くの?」

「ん? いろいろな場所に行こうか!」


そこから僕は、近くにある大型家電屋さんや、いくつかのスーパー店にドラッグストアと、何処にでもあるような場所を案内して、休日を過ごした。


「いやー、まさか日向にはあんなものまで置いてあるなんてね」

「東京にはなかったんですか?」

「そりゃね。東京と言っても全国のものが手に入るわけじゃないからね」

「まぁ、ですよね」


流石に大型店やスーパーには二人も行ったことあるみたいだけど、買い物をするうえで役に立ちそうなものや場所を教えたらいい感じに驚いてくれてよかった。


特に、二人が驚いていたのはバイトの賃金。

日向の賃金は東京よりも低いみたいで、ものすごく驚いていた。


やっぱりお金が人の感情を大きく外に出すんだと、僕はこの時改めて覚えた。


「それじゃあ、私はこの後配信があるからこの辺で。また明日遊びに行くね」

「はーい。って、えっ!?」


また来るの!?


「あのっ保仁さん! きょ、今日はありがとうございました!」

「あ、太陽ちゃん、気にしなくてもいいよ。これからも来夢のことよろしくね」

「はい!」


太陽ちゃんはそのまま笑顔で家の方に走っていった。


「僕たちも家に入ろうか」

「はーい」


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