忙しい日常
第106話 大都会と田舎の違い
六月。
その言葉を思い浮かべた時、人は何を考えるんだろう。
梅雨? 衣替え? 夏の始まり?
概ねこの三つくらいじゃないかな。
僕は何かって?
僕が思い浮かべるのは当然『梅雨』
言ってしまえば、僕は雨の日が大好きで大っ嫌い。
雨の日が好きな理由はシンプルに雨音が心地いい音色になるのと、外が暗いから。
雨粒が地面や家の窓、屋根などに当たる音はとても心地よく、心がとても安らぐ。
更に昼間だというのに雲が太陽を隠しているから、真っ暗でもなければ明るいわけでもない外の世界の色が、とても心地いい。
逆に嫌いなわけは外に出ると濡れるし蒸れる。
服なんかは雨や汗で臭くなるし、靴の中には水が入って気持ち悪い感触が足を襲う。
傘という手荷物が増えるし、さしたところで完全に雨を防げるわけではない。
防げるのはせいぜい頭と顔くらいかな。
結局方より下部分のどこかは濡れるようになっている。
合羽なんてもってのほか。
雨は防げるかもしれないけど、100パーセント蒸れる!
だから僕は雨が好きで大っ嫌い!
まぁ何が言いたいかというと……。
「来夢、今日って何月の何曜日だっけ?」
「六月の土曜日だけど……」
「今日の天気は?」
「快晴じゃん。外見たらわかるよね」
「因みに明日の天気は?」
「確か天気予報では雨って言ってたよ」
「明日は来夢も行くんだよね?」
「うん。太陽も楽しみにしてた」
何が言いたいかというと、せっかくの天気が明日には台無しになってしまう。ということ。
何で今日に限って快晴なの!
快晴なのは明日でいいよ!
いや、今はそんなことよりも計画を練り直さないと。
「で、どうするのお兄ちゃん」
「ど、どうするって何が?」
「お兄ちゃんのことだから、日向市のことがよくわかるような場所を選んでると思うけど、そこって雨が降ったらいけないような場所ばっかなんじゃない?」
「うぐっ!?」
完全にばれてる。
そう。
僕が選んだ場所は車で移動出来て、尚且つ近くて太陽さんでも楽しめそうな場所。
それを踏まえて考えた場所は……ほとんどが外。
日向にも日向にしかない建物とかはあるけど、服屋やショッピングモールはどこにでもあるような大型店しかない。
いや、日向にとっては大型店かもしれないけど、東京から引っ越してきた彼女たちからしたら小さいと思う。
「普通に『WON』や『エニシロ』とかでいいと思うけど」
「一応それは最終手段ね。僕が嵐子さんに頼まれてるのって『太陽さん』が楽しめるような場所をメインにお願いって言われてるから」
「ふーん。で、お兄ちゃんって太陽のこと何か知ってるの?」
「いや、運動が好きって言うこと以外はあまり知らないかな」
「じゃあこの際に教えてあげる。太陽って田舎っぽさ、つまり都会にないようなものが好きなんだよ」
「都会にないようなもの?」
「うん。だから初めて一緒に帰った日なんかはずーっと田んぼを見ていて、時間かかったんだよね~」
「田んぼを見続けるって……」
「まぁ、そのことは置いといて、これって田舎が大好きで東京に行ったことのあるお兄ちゃんしか出来ないことなんじゃないかな」
「僕にしか……確かにそうかもね。でも僕が好きなのは否かじゃなくて日向市、だからね」
「一緒じゃん。それじゃあ私部屋に戻って作業しないといけないことあるから、明日、楽しみにしてるね」
「任せなさい!」
さてと、雨が降ったときように別のプランも考えておこう!
……なんかデートの計画考えているみたいで少し恥ずかしいな。
その日の雑談配信は、来てくれた視聴者さんとデートの話で盛り上がった。
そして日曜日。
今日の天気は曇り時々雨で、降水確率は60パーセント。
昨日の天気予報に比べたらかなりマシになったけど、それでも今に降り出しそうな感じがする。
静かに曇り空を見上げていると、大きな女性が近づいてきた。
って、でかい!?
多分180センチくらいあるんじゃないかな……。
大きな胸が僕の目の前に来るし……。
「あの、初めまして、ですよね?」
「あ、はい。初めましてです。私、水無月嵐子の妹の水無月太陽と言います。妹の来夢さんには学校でよくお世話になっています」
「あ、うちの来夢がどうもお世話になってます。来夢の兄の久藤保仁です。今後も来夢のことよろしくお願いします」
「任せてください! あと、私に敬語は必要ないですよ。お兄さんの方が年上ですので」
「わ、分かったよ」
それにしても本当に、いろいろと大きい子だなぁ。
「お兄ちゃん。何処見てんの?」
「ら、来夢……」
来夢の視線が痛い。
でも仕方ないと思う。
僕も一応男の子なんだし、僕の視線の先にそれがあるんだもん!
「あ、来夢ちゃん! 今日はよろしくね!」
「うん! 私も太陽と一緒にお出かけできて嬉しいよ!」
凄い変わり身の早さ、尊敬に値する。
「おーい、車持ってきたぞー」
「あ、嵐子さん、おはようございます」
「おはようさん。それじゃあ太陽と来夢ちゃんは後ろな」
「え、僕が助手席なんですか?」
「当り前だろ、お前意外に誰が道案内するんだ」
「た、確かに」
そう言われると納得。
僕は嵐子さんの乗ってきた軽自動車の助手席に座って、車のナビを見る。
最初に行く場所は、僕も来夢も一度は行ったことはある場所。
というよりも、僕の住んでいる地域の子供は絶対に行ったことのある場所。
小学一年生の時にね。
「で、何処に行けばいいんだ?」
「じゃあここをまっすぐにお願いします」
「オッケー!」
ゆっくりと車は発進していく。
最初は身長が届くのか気になっていたけど、ちゃんと足がついてるし小さくてもくるまって運転できるんだ。
「え、お兄ちゃん。まさかあそこ?」
発進してすぐに、声を出す来夢。
やっぱり気づくよね。
というよりも、今から行く方向で近くに行けるような場所なんて1つしかない。
車を運転すること5分くらいで目的の場所に着いた。
そこは1つの小さな山。
「やっぱりここなんだ」
「これが見せたかったもの?」
「はい。僕たちの住む地域の子なら一度は来たことのある場所です」
「この山に何かあるんですか!?」
この山になにかあるのか。
答えは1つ。
「この山には何もありません!」
「じゃあなんで来たの!」
「えーっと、この山は私たちの通ってた小学校の最初の遠足の場所で、名前を『熊田神社』またの名を『ちゃわん山』と言います」
「え、どうして『ちゃわん山』なんですか!?」
「見た目がお茶碗っぽいかららしいよ」
うん。懐かしいなぁ。
確かここでお弁当を落として……なんか涙が出てきそう。
そう考えるとここってあまり良い思いでないんだよねぇ。
「それじゃあ次の場所に行きましょうか」
「え、もう?」
「はい。雨が降る前に回りたいところがありますので」
車に乗って次に向かう場所は、僕たちのいる『ちゃわん山』とは全く反対の方にある小さな公園のその横にあるある場所。
別に日向市にしかないものって言うわけでもないけど、逆に日向市だからあって珍しいものがあるんだよね。
昔はなじみ過ぎていてあまり違和感を感じなかったけど、今思うとなんで日向市にこんな場所があるんだろうって思う。
そこは車で十数分行った場所にあった。
「ここって、ストリート? ですか?」
「と言っても、ゴールは1つしかないけどね」
目的の場所にあったのはバスケットコートの半面。
逆方向には海へとつながる川が流れている。
これのバスケット場をストリート? っと言っていいのかわからないけど、日向にしては珍しく何であるの、と思ってしまう場所。
まだ母さんたちがいた時にボール遊びで来たことがあるんだよね。
「嵐子ちゃん! ボールある!?」
「あるよ」
「遊んでもいい?」
「どうするの保仁」
「問題ないですよ。むしろそのために来たまでありますし、この後に行く場所はどれも室内なので」
「だってさ」
「それじゃあ遊んでくるね! 行こっ、来夢ちゃん」
「うん!」
「2人とも! 後ろの川には気をつけなさいよ!」
「はーい!」
来夢と太陽ちゃんは元気よくバスケットコートへと走っていく。
この場所って夏休みや休日は地域の小中学生が遊んでるから、なかなか遊べる機会ってあんまりないんだよね。
「日向にもバスケコートってあったんだな。小さいけど」
「そうなんですよね。前まではあまり気にもしてなかったんですけど、日向じゃ珍しいですよね」
「まぁな。それよりもなんでこの場所にしたんだ。車で通って分かったけど日向市にも市民体育館あっただろ? そこなら雨を気にする必要なくないか? それに近いし……」
嵐子さんの言ってることは間違いじゃない。
僕たちの家より近いのは市民体育館の方で、ちゃんと屋根もあるから雨の心配もいらないんだけど……。
「あそこ、予約が必要なうえにお金取られるんですよね。それに体育館シューズがないと使うことできませんし、飲食禁止です」
「普通じゃね?」
「そうかもしれませんけど、僕としては楽しく遊ぶのにあまりお金を使わないでほしいんです。それに、せっかくならこういう場所があるってことも知ってほしかったんで」
「なるほどな」
2人がバスケットコートで遊び始めてから十分くらいたったころ、空から水の粒が降り始めた。
「来夢! 太陽ちゃん! 雨が降ってきたから戻って来て!」
「はーい!」
2人はバスケをするのをやめ、走りながら車の中に戻ってきた。
「ふぅ、また来ようね、来夢ちゃん!」
「え、う、うん……」
笑顔で誘う太陽ちゃんに対して、苦笑いを浮かべる来夢。
気持ちはわかる!
ここまで来るのに自転車で20分くらい自転車使わないといけないし、楽しく遊んだ後はまた自転車をこがないといけない。
アウトドア派の太陽ちゃんには何ともないかもしれないけど、どちらかというとインドア派の来夢にはきつい!
頑張れ来夢!
「それで、次はどこに行くの?」
「えーっと、川を沿うように進んで、最初の交差点で曲がってください」
「オッケー!」
嵐子さんは僕の言った通りの道を進みしばらくすると目的の場所に着いた。
「結局ここに行くんだね」
「そりゃね。もし中高の友達と遊ぶとなったら高確率でここには来るからね」
僕が選んだ三つ目の場所は『WON』。
その店はほぼ全国に広がっている大型ショッピングモールである。
「あ、そこの信号を右に曲がってすぐに左です」
「オッケー」
「……あれ?」
「どうしたの太陽、何か気になるものでもあったの?」
「ね、ねぇ来夢ちゃん、駐車料金所は?」
「……え?」
「そういえばどこにもないな。保仁、このまま入ってもいいのか?」
「問題ありませんよ」
「で、でも料金所がありませんよ! もしかしたらどこかに指定の入り口があって、そこに料金所があるんじゃ……」
「ないから大丈夫だよ」
「ええっ!?」
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