第98話 特訓
ハリンさんとの特訓を始めてから1週間がたった。
僕はいつも通り、木土曜日に配信、火日曜日に動画投稿。
そして新たな試みである昼のゲリラ配信に関しては水曜日に配信して成功することができた。
因みにハリンさんに関していうと、現在配信を停止してもらっている。
というのも、今は台本作成に力を入れてもらいたいというのと、今の状態で配信しても今後の伸びが著しく低いから。
そして何より、ハリンさんのチャンネル登録者数は4人だけど、そのうちの1人である僕以外、嵐子さんの親、獅喰蓮さん、妹さんと身内だったこともあって、今ハリンさんのチャンネル登録者に配信を見て登録してくれた人が僕以外にいないということが獅喰蓮さんによって発覚した。
まぁ、配信停止に関してはハリンさんも納得してくれたから問題なかったけど。
そんなハリンさんは今現在台本を作っては僕に見せてを繰り返している。
「こ、これでどうでしょうか?」
「拝見させていただきます」
因みに台本の課題は僕の初配信の台本作成。
僕の初配信をハリンさんに見せて、どこからどこまでが台本で、何処がアドリブかを見極めてもらっている。
これは配信の流れを見て、どういうところで台本が必要になるのかをつかんでもらいたいという狙いがある。
「……うん。50点ですね」
「あぁ!? 今回は自信が会ったのに! 今度はどこがダメだったの!?」
「はい、最初の部分はある程度問題ないです。ですが後半部分。質問のところとかですね。これに関しては全部が全部アドリブ、というわけではありません。この中のいくつかはあらかじめ来ることを予想してメモを作ってましたね」
こうして思い返してみると1ヶ月とちょっと前なのにもう懐かしい。
あの時は炎上して大変……じゃなかったなー。
狙ってたって言うのもあるけど、それもあって登録者数が一気に増えて言った感じだったし。
「本当にこんなことしてて台本作成能力が上がるの?」
「確かに何かを身に着けるのに対して実践に勝るものはありませんが、身に着けるに対しても土台をしっかり作らないと意味がありませんからね。では再びお願いします」
「は~い」
さてと、ハリンさんが台本作成能力を身に着けている間に、僕もある程度進めていないと。
ハリンさんのモデルに関して、今はまだ内緒だからハリンさんの前では作業できない。
でもその分、ハリンさんの今後のプロデュースを考えることはできる。
後はハリンさんがどれだけの期間で技術を向上させて、配信者としての心得を身に着けるかだけだね。
せめて6月の半ばまでに身に着けてくれて、しっかりとした活動開始は7月から。
少し時間はかかるけど、これならある程度は登録者数も増えてくれるはず。
これが僕の見立てだった。
だけど、僕の考えはいい意味で裏切られた。
「…………ハリンさん。合格です」
「やったー!!」
それは最後にダメ出しをしてから4日たった金曜日。
月曜日にダメ出しをしてから、ハリンさんがうちに来ることがなくなり久しぶりに来たと思ったら、できた台本をいきなり見せてきた。
最初はこの4日間何をしていたか気になっていた。
僕の言った通り配信もしてなかったし、動画も出していない。
もしかしたら諦めちゃったんじゃって言う考えも頭をよぎった。
けどまさか4日かけて土台を完成させるなんて……!?
「どうやってこの台本を考えたんですか?」
「なんていえばいいんだろう。4日間ヤマトの配信を見ながら考えてを繰り返したら自然にかな? あ、昨日の配信の台本も作ったけど見る?」
「お願いします」
ノートには昨日の配信の台本がしっかり書かれていた。
昨日の配信は雑談配信。
内容はここ最近の出来事や、今後の目標など。
そしてこの配信は台本とアドリブを混ぜ合わせながらした配信。
なのにハリンさんの作った台本は8割がたあっていた。
繰り返していた僕の初配信ならともかく、昨日したばかりの配信まで読み取るなんて。
これは合格以外の何物でもない。
「では、次のステップに移りましょうか」
「ということは台本作成!?」
「あ、それはいいです」
「……え、どうして!?」
「もともと台本作成能力を身につけるには、今やっていた課題だけで十分なんですよ」
「でも、もっと時間がかかるんじゃ……」
「ええ、本来はこの後に他の配信の台本も作ってもらおうかと思ってましたけど、昨日の配信の台本を作ってきてくれたおかげで必要なくなりました」
「台本作成は……」
「それは一度作って、自分で声出しをしながら修正していった方がいいですね。その方がハリンさんのためにもなりますし、僕が手直ししたらヤマト色になりますので」
それに、この短期間でここまで成長する人を1か月以上も野放しにしておくなんてもったいないもんね。
「では次に配信者としての心得です。言っておきますけど、今のハリンさんにはこれが一番欠落しています」
「っ!?」
まぁ、本人は気づいてないでしょうけど。
「まず一つ目にハリンさんに足りないのは、視聴者に対しての思い、ですね」
「思い?」
「はい」
これは僕がハリンさんの配信を見て、うすうす感じていたものであり、ハリンさんがVtuberを始めた動機を聞いて、確信に至ったもの。
「ハリンさんの目標は何ですか?」
「姉である獅喰蓮を超えること」
「そうですね。ですがそれを意識しすぎるがあまり、ハリンさんの配信は視聴者のための配信になっていないんです」
そう。
ハリンさんの配信は視聴者に対してのリスペクトというものがものすごく薄い。
配信の時も、話は面白いのに視聴者のコメントは全く読まないし、ゲームで負け続けると、なかなか見に来ない人に対しての愚痴をはくことがある。
これは配信者として欠点以外の何物でもない。
「ハリンさんって配信するとき獅喰蓮さんのことを考えてませんか」
「……」
「考えてますね。それが悪いとは言いません。ですが、配信するときは視聴者さんのことを考えてあげてください。ハリンさんの配信を見に来ているのは獅喰蓮さんではなく視聴者さんですから」
「うん」
……流石に言いすぎちゃったかな。
なんかものすごく静かになった。
でも僕は心を鬼にしてもハリンさんを一流の配信者にするって今決めた!
だから、手は抜かない。
頼まれたわけではないけどね!
「では次の課題です。今度は自分の配信を見て、その時の心情を書いてきてください。そして、自分の現在地点を見直すこと。今のハリンさんにならできます。頑張ってください」
「……そうね。お姉ちゃんを超えることに固執しすぎてたかもしれないわ。ヤマトの言う通り、自分の現在地点を見直してくる! また来るわね!」
「はい」
心配、いらなかったかな。
今のハリンさんなら大丈夫そう。
しっかりと自分の現在地を見直して、そこから何かを学ぶ。
昔母さんに教えてもらったことが役に立ってよかったー。
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