第92話 告白
配信が終わったときにはすでに10時を回っていた。
「凛音さん、できれば足をどけてくれると嬉しいんですけど……」
「うん。ヤダ!」
「や、ヤダって……ちょっ!?」
凛音さんは立ち上がったと思うと、そのまま僕を抱えてベッドに寝転んだ。
僕も一緒に。
「あの、いったい何を……?」
「抱き枕になってくれるんでしょ? 今日はもう離さないよ」
「いや、なりますので話してください。電気も消さないといけないし。逃げませんから!」
「だ~め。離さない」
あ、この人配信が終わる前と同じテンションだ。
酔ってる……わけないよね。まだ未成年だし。
じゃあ深夜テンションなのかな?
とにかく、ここを何とか抜け出さないと!
変な目に合うことはないと思うけど、電気消したい!
「凛音ちゃん。明日朝の9時に家出るから帰る準備はしっかり……あら」
母さん!?
見られた、恥ずかしい!
「すみません。撫子さん、私今日はヤマトくん離したくないので電気消してもらってもいいですか?」
「まさか私に頼み事するなんて、歯磨きはしたの?」
「しました!」
「した……」
「ならいいわ。それじゃあ二人ともおやすみなさい」
「おやすみなさい」
「……お休み」
電気は母さんに消されてしまい、部屋は一瞬で暗くなる。
でも後ろに凛音さんがいるのは肌で感じる。
というよりもさっきから鼻息が首筋あたりに当たって、眠れる気がしない!
「ヤマトくん。私ね。ヤマトくんのことが好き」
「……」
「うんん、違うかな。私、久遠保仁くんのことが好き」
「っ!?」
人生で初めて『僕』に対して好きって言われた。
シチュエーションや雰囲気なんかはよくわからないけど、ヤマトではなく僕に対して。
「私、こんな気持ちになるの初めてかも。多分これが初恋」
「……どうして僕に何ですか?」
「何でだろうね。ただ、初配信の時に私のことを好みのタイプって言ってくれた時から気になりだして、凸したときに保仁くんが本当にいい人だって思って、初めてリアルで対面して、しばらく一緒に過ごしたり、撫子さんに保仁くんの話を聞いて、完全に理解した。私、保仁くんに恋してるんだって」
「……そうですか」
こうして面と向かって言われると恥ずかしい。
長く凛音さんの演技を見てきたから僕にはわかる
これは凛音さんの本気の言葉、決して演技じゃない本心。
「私恋したことなかったから先輩女優の恋する気持ちがわからなかったけど多分こんな感じなのかな? 一緒に好きな人といて、とても安心するようでドキドキする。今の私ってそんな感じ。ねえ、保仁くん。今、君はどんな気持ち?」
「……」
「ドキドキ? それともハラハラ? もしかして何も感じていないとか?」
僕の気持ち、そんなの決まってる!
「モヤモヤです」
「モヤモヤ?」
「はい。抱き着かれてるのもそうなんですけど、急に好きって言われて何が何だか……。ただわかることが一つ、凛音さんの気持ちに嘘偽りがないってことだけ。だからモヤモヤです」
「そっか。少し遠回しに行き過ぎたのかな。今まで演技で言ったことはあっても、私の本心で口からは言ったことなかったし」
「凛音さん?」
「そうだよね。いつまでもくよくよしてたらダメだよね」
「あの~」
さっきから何を言ってるんだろう。
遠回しって何が?
凛音さんが本心から言ったことのない言葉って何?
頭が追い付かない!
「保仁くん。そのままでいいから、頭をクリアにして聞いて」
「は、はい!」
「私、飛鷹凛音はあなたのことが好きです。世界にいるどこの誰よりもあなたのことを愛してます。私と付き合ってください」
「……」
僕は恋愛漫画の告白シーンで告白されたときのされた側の気持ちをあまり理解できなかった。
どうしてしばらくの間を開けるんだろう。
勇気を出して告白しているのに、どうしてすぐに返事をしてあげないんだろう。その間が告白する側の気持ちを苦しめてるかもしれないのに、ってよく思っていた。
僕自身が告白されたことないんだから、された側の気持ちなんてわかるわけがない。
だけど今なら言える。
告白されるのはいつも急で、答えるとき、どう答えればいいのかを考えるのに時間をかけてしまう。
しかも僕の場合は凛音さんの顔を見ることもできず、さらにベッドの中で密着している。
だから嫌でも感じる。
凛音さんの心音が早いリズムでなっているのを。
「……ごめんなさい」
「っ!?」
ああ、付き合えるのなら付き合いたい!
凛音さんが勇気を出して告白してくれたんだから『はい』って返事したい!
「僕も凛音さんのことが好きです。だけど僕にとって凛音さんは憧れの人で尊敬できる人。正直、僕に告白してくるなんて思ってませんでした」
本当にそう!
凛音さんにのめり込んでいた時は妄想をしたことあったけど、敵うことのない未来だって完全に諦めて、目が覚めた瞬間に恥ずかしくなった!
だから、凛音さんが告白してくれた時には本当に驚いた!
嬉しかった! ……でも
「凛音さんは子役の時から役をこなしていて、努力もしている。対して僕も努力はしているけど、やっぱり母さんや凛音さん、Vtuberの先輩方の力が大きい」
僕は、僕はまだ何も成し遂げていない。
そんな、そんな僕が……。
「そんな僕は凛音さんにふさわしくはない」
「そ、そんなこと——」
「だから!」
「っ!?」
「だからもし、僕が最高のVtuberになってその時気持ちが変わっていなかったとき、もう一度告白してくれますか? その時はしっかりと自分の気持ちを答えます」
「うん。いいよ」
「ありがとうございます」
これで僕はもう簡単に人の力に頼ることはできない。
教えてもらえることは教えてもらうし、僕は学びをやめない。
だけど、人の力、能力、知名度には頼らない。
僕は僕の力で最高のVtuberになる!
「最高のVtuberってどうやったらなれるの?」
「そ、それは……分かりません! だけど、絶対になってみせます!」
「私にとってヤマトはもう最高のVtuberなんだけど?」
「だったら、いずれあなたにこう言わせてみせます。『私にふさわしいのは神無月ヤマトしかいない』ってね」
「じゃあ私は『ヤマトにふさわしいのはこの飛鷹凛音』って言えるように努力するわね」
「はい!」
そのあと僕たちは何も言うことなく眠りについた。
不思議と緊張することなく、僕は寝ることができた。
~~~~~~~~~~
「凛音ちゃん! 忘れもない?」
「ありません。しっかりまとめました!」
「ならよし!」
コラボ配信を終えた翌日。
朝早くから僕は起きて母さんたちの見送りをしている。
来夢も見送りたいと言っていたけど、今日は学校だからここにはいない。
「保仁くん。昨日の約束、忘れてないよね?」
「はい。あの雰囲気だったのに忘れるわけないじゃないですか」
「だよね。私も」
まぁ、今日早く起きて、凛音さんから抜け出せずに昨日のことを思い出して恥ずかしくなったのはまた別の話だけど。
「言っておきますけど、僕は常に受けでいるつもりですよ。僕が欲しかったら攻めてくださいね」
「うん。そのつもりだよ。ライバル多そうだけど頑張るね」
ライバル?
あれ、昨日の話って恋愛の話じゃなかったの?
もしかしてそう思ってたのって僕だけ!?
「凛音ちゃん、迎えの車来たから行きましょ」
「はい! それじゃあ保仁くん。またね」
「はい、また」
レベッカさんと母さんはそのまま車に乗り込み帰っていった。
なかなか濃い数日だけど楽しかった。
「さてと、明日の配信準備しますかね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます