第90話 オフコラボ feat. 飛鷹凛音 前編


凛音さんがうちに訪れた翌日。


家で焼き肉を食べた後、長時間移動のあった母さんと凛音さんはお風呂に入って早い時間に睡眠に入り、僕と来夢は自分の作業をそれぞれ行った。


因みに凛音さんが寝た部屋は僕のベッドの上で、僕が寝たのは200万円のソファの上。


一度ソファの上で寝るということをしてみたかったとは言え、こんな形で思いがかなうとは思わなかった。


寝心地に文句なかったけど、起きた時思った以上に体が硬くなっていて、やっぱり寝るのならしっかりしたベッドがいいなと思った。


朝になり来夢は学校に、母さんと凛音さんは今後の打ち合わせなどがあるみたいでスタッフさんの止まっているホテルに行っている。


僕はというと、配信の告知を済ませ、最近はまっている絵描き。


昨日の夜に雨猫ハリンさんが配信していて、リアルアカウントの方で視聴していたけど、やっぱり見に来ている人は少なかった。

というよりも僕以外おらず、ただ永遠と一人でゲーム配信をしていた。


時間的にも『ガーデンランド』さんや『ごろろっく』さんと配信時間かぶっていたからそれが理由でもあるかもしれないけど、誰一人いない中実況配信をするなんて普通にその勇気に尊敬する。


本人は配信しているときに僕が来た瞬間、大きな声で喜びながら誰も来ないことに愚痴ってたけど……。


特に、「この絵のせいか! 絵のせいなのか!?」と、言いながら「仕方ないだろ! 金がないんだから!?」と嘆いていた。


正直酔ってるのか気になるところだったけど、あれはあれで面白かったから僕は気にしない。


でも、その言葉を聞いて改めて今の環境に感謝した。


そしてこうも思った。

もし、今描いているこの子をハリンさんにプレゼントしたらどう思うのかな? って。


と言っても2Dと3Dの動かし方も学ばないといけないからしばらく時間かかっちゃうけど……。


あと、義姉さんの方にも教えてもらえるかの確認を足らないと。

授業料もそこそこの値段出すことできるし、大丈夫だと思うけど……。


「……よし、描くのは1回止めてみんなが考えてくれた明後日配信予定の新衣装イラストの厳選しとこ!」


確かトリッターで【#ヤマト新衣装】で投稿されてるって義姉さん言ってたっけ……。


トリッターで調べてみると1万を超える数のイラストが投稿されていた。


中には真面目に描かれたものやおふざけで書いたものや。


これは……なんで女の子になってるんだろ?

これに至っては既に人間じゃないし、頭に天使の輪着いちゃってるし。


この絵に関してはなぜか巨乳。

僕一応15歳って公言してるのに……。

ロリ巨乳狙ってるのかな?


……年齢制限あり?

僕は見れないけどいったいどんな絵を描いたのか逆に気になる……。

見ないけどね。


何はともあれ、描いて投稿してくれた人には感謝しないと。

この中から数十個。できれば全部紹介したいけど、流石に時間が足りないからなー。


面白いやつと、真面目に描いてくれたやつ、これをメインに分けていこう……!


色々と作業しているうちに母さん、凛音さん、来夢が帰ってきてのんびりとできる時間は過ぎていった。


そして——。


「凛音さん、準備は大丈夫ですか?」

「はい、ヤマト様と一緒に配信できるんです。昨日のうちからコンディションは整えてます」


口調が違う。

オフの時の口調ではなく、いつもヤマト(僕)と話すときの口調。


問題ないみたい!


「そうですか。じゃあ配信始めます」


僕と凛音さんの初オフコラボがスタートした。



***


『お帰りなさいませ、ご主人様。本日は僕の配信に来てくださりありがとうございます。あなたの執事、神無月ヤマトです』



ただいま!

今帰ったぞ!

オレのヤマト!

私のヤマトよ!

違う! 僕のだ!

みんなのヤマトよ!

そうだそうだ!



『僕はみんなのものですよ~』



だよね!

ヤマトが言うなら……

親衛隊はヤマト様の意見を尊重します!



『ありがとうございます。早速ですが、トリッターで告知した通り今日は緊急オフコラボになります』



すでに4度目のオフコラボ……

今度は誰だ?

ヤマトは今実家……ということは今回も前回と同じ撫子ママ?

恋夢ちゃんこい!



『それじゃあ、今日のスペシャルゲストの方に挨拶してもらいましょう。お願いします!』

「はーい! 皆さん、ヤマト様は私のものですよ。女優やってる神無月(・・・)凛音でーす!」

『はい、僕はみんなのものです。というわけで女優の飛(・)鷹(・)凛音さまが来てくれました。決して神無月じゃありませんよ』



マジか!?

想定外!

しれっとヤマトが突っ込んでる。

ヤマトはみんなのものだ!



いきなり台本にないことをぶっこんで来るなんて……、盛り上がったから問題ないけど。


『オフコラボすることになった経緯を話しますと、凛音さま、昨日今日僕の家に泊まってます』



は?

はい?

空耳かな?

マジ?



『マジです。母さんと一緒に来たので……』



あ、何だ……。

ああ、撫子ママと一緒か

住所特定して突撃したのかと思った。

なら安心か。



『さすがの凛音さまでもそこまではしないと思いますよ。……しませんよね?』

「う~ん、後半月以内にヤマト様からの連絡が何もなかったらしてたかもしれないですね?」

『……だ、そうです』



ヤマト引いてる。

流石にこれは引くは……

やっば!



流石の僕もこれには引いてしまうよ!


半月後ってことは凛音さまのお誕生日あたりだけど、もし誕生日までに連絡よこさなかったら突撃する予定だったなんて……。


誕生日の日には連絡してあげよ。


『因みに冗談はどのくらい入ってますか?』

「え? 何のことですか?」

『あ、大丈夫です』


冗談なんて入ってないことを察した。

ご主人様たちもすでに察してるみたい。


『と、ところで凛音さま、うちに来ての感想とかは何かありますか?』

「感想ですか……。ヤマト様のお部屋とベッドがいい匂いしたことですかね」



え、嗅いだの?

どんな匂い?

本人の前でそれ言うの?

ヤマトが絡むと凛音のイメージが変わっていく……



『い、言っておきますけどちゃんと洗濯してますからね!』

「因みに昨日は?」

『……』



マジかよ!?

おいおい!

流石にそれはヤバいだろ!

百合か? 純愛か!?



『あの、今日洗濯してもいいですか?』

「乾きます?」

『明日はちゃんと洗濯するので安心してください』

「別にそのまま使ってもいいんですよ。何なら今日一緒に寝ますか?」

『はいっ!?』



ふぁ!?

何言ってんの!?

凛音にとってヤマト様は男性、つまり純愛!

不純異性交遊か!?



『ななな、なに言ってるんですか! たとえ同性でも異性でも流石にそれはまずいですよ!』

「ヤマトくんの方も何言ってるんですか? 先週約束したじゃないですか」

『先週……?』

「はい、私の抱き枕になるって」

『……あ』



確かに言ってた

言ってたな

凛音から逃げるために言ってた

アーカイブにしっかり残ってる



言った。

僕言ってたよ。


確か一緒に寝たことについて問い詰められていた時に逃げるために抱き枕になるって。


凛音さんがうちに来たときキスしてしまったから忘れてた。

何で忘れちゃったんだろう!


「ということで、今日は一緒におねんねしましょうね」

『僕、おねんねって歳じゃないんですけど……分かりました。約束は約束ですからね』

「やった!」



おいおい、マジか

羨ましすぎる……

普通ありえないって

凛音の行動力すさまじい……



『でも一つお願いしてもいいですか?』

「なんですか?」

『背面から抱き着いてください。その、恥ずかしくて、心臓止まっちゃうかもしれないので』

「っ!! もちろん!」



て、照れたヤマトもかわいい……。

照れてる

かわゆすぎ!

こっちまでドキドキした。



「よし! 今日は最高の夜になります!」

『うぅ……』

「いやならいやって言ってもいいんですよー。抱き枕から私と添い寝に変わるだけですけど」

『嫌じゃないです! ただ恥ずかしいんです!』

「ならいいですね!」

『はい……』


諦めよう。

たとえ今日寝れなかったとしても……。


「そういえば、今日撫子さんとヤマト様ゆかりの地って言うのに行ってきましたよ」

『なんですか、ゆかりの地って』

「何でもヤマト様の思いでが詰まった場所みたいです」


僕の思い出?

ずーっと日向に住んでいるから思い出という思いでがあんまり思いつかない。


『どういうところですか?』

「えーっと、大王谷という地区にある洋服店で撫子さんが買い物しているときにヤマト様が迷子になった場所とか?」

『それ昔母さまにたくさん聞かされました。僕記憶にないんですけど、何でも迷子になって交番に連れていかれたって』

「撫子さんも言ってました。交番で見つけてくれた方にどこにいたか聞いたとき、店の後ろにあった崖の上にある住宅街に居たって、どうやって行ったんですか?」

『それが覚えてないんですよ。後ろの住宅って20メートルくらいの高さにあるんですけどね』



え、どうやってそこに行ったの?

マジで迷子?

リアルの話?

作り話じゃないよね?



『マジらしいです。母さま曰くですが』

「真相を知るのは撫子さんだけですね」

『ほ、他にはどんなところに行ったんですか?』

「他には……あ、細島の港に行きましたよ。ヤマト様が好きな場所だって」

『あ~、あそこですか!』


細島地区には港があって、そこに船が停まっていたり、魚釣りをしている人がたくさんいるんだよね。


母さまたちが東京に行った後も義姉さまに無理言って連れて行ってもらったっけ。


たまに釣った魚を貰ったりもしたし、あそこで祭りもよく行われるからお神輿を見に行ったりよくしたなー。


最近は行ってないけど……。


「あとは駅前ですね」

『日向市駅ですか? あそこ何かありましたっけ?』

「ヤマト様ってあそこの前で行われる祭りでひょっとこ踊りしたことあるんですよね?」

『ああ! あります、あります! 父さまと兄さまと一緒に! 踊って、最優秀家族賞取ったことあります!』



ひょっとこ?

あのお面をつける?

よく人前にあまり出ない久遠義明が躍ったなー。

お面付けてるから踊れるだろ。



お面があるからって言うのもあるけど、どちらかというと父さまノリノリで僕と兄さまは巻き込まれた形かな。


音に合わせて踊るように教えられて、父さまは慣れた感じで踊ってて、僕はすぐに踊れた。


兄さまに関しては最初踊れなかったけど、義姉さまが来ると知ってからすぐに踊れるようになっていた。


因みに来夢はこの時まだ小さかったけど、父さんまの腕の中で参加していた。


こうしてみると、思った以上に思いでってあるんだな~。



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