第86話 案件配信 『絶叫、絶叫また絶叫』

え、何今の悲鳴……

耳キーンってなった!

少し音割れしてたよ……

うるさっ!?



『ヤマトうるさい!』

『お、おおお、おばっ、お化け!?』

『はいはい、お化けだね。時間限られてるしさっさと先に進むよ!』

『あ、待って!』


恋夢ちゃんは、僕の前を歩き、先にある部屋を探索していく。

僕も、後ろから部屋を覗きながら、あまり画面を見ないように気を付ける。


『ご、ゴールまだ?』

『まだ。ミッションクリアしていかないと!』

『え、ミッションするの……?』

『するよ! せっかくのゲームなんだからね!』


出来ることならサッと進んで、パッとゴールしたい。

でも恋夢ちゃんじゃそれを許してくれない。


だったらもう慣れるしかないよね!


『よし! こんな幽霊学校さっさと抜け出してやりましょう!』

『あ、ヤマト、後ろ見て』

『え?』


恋夢ちゃんの言われた通り、ゲーム内のキャラを後ろに向けると、そこにいたのは普通の見た目は可愛いのに、懐中電灯を下から写したことにより怖い顔になった恋夢ちゃんのキャラの顔。


いつの間にか恋夢ちゃんを抜かしてたみたい。


『……きゃああああああああ!?!?!?』

『あはは! ヤマトは怖がりだね!』

『もう、やめてよ!』

『ごめんね!』

『次やったら怒るからね!』

『はいはい、もう懐中電灯を使って怖がらせたりしないよ~』



ヤマトがため口で話してるの初めて見た……

怖がり過ぎw

耳壊れかけたわ!

ホラーそんなにダメなんだ……



『あ、ヤマト! 音楽室に着いたよ』

『う、うん』

『ちょっ! コントローラー動かしにくいから手握らないで!』

『ご、ごめんね』


音楽室の中は暗く、壁にはたくさんの人の顔写真が張られていた。

机は後ろに運ばれており、ピアノの周りはそこそこ広い空間がある。


懐中電灯を使いながら周りを探索していると、前の黒板に文字が書かれていた。


【ミッション! 本物と偽物を見極めろ】


『な、なにこれ……』

『何かのミッションみたいだね。本物と偽物……あ、ピアノのところに楽譜がある』


恋夢ちゃんは僕なんかを置いて先に先にと進んでいく。

これ以上恋夢ちゃんと離れたら多分一歩も動けない!


『な、なにかあったの?』

『うん。楽譜があって簡単なドレミの歌なんだけど、ところどころ間違いがあるみたいなんだよね』


来夢から楽譜を受け取り、僕も開いて確認すると、確かに違う。


例えば最初は『ド・レ・ミ・ド・ミ・ド・ミ』なのに『ド・レ・ミ・レ・ミ・ド・ミ』になっている。


他にも似たような感じで……。


『か、返すね』

『ありがと。多分これがミッションのヒントになってると思うんだよね』


【レ】


『え、何!?』


急に【レ】の音が鳴る。

正直僕には何が起こっているのか全く理解できない。


『今私がレのボタンを押したら鳴ったから多分正解なんだろうけど……何も変わらないんだよね』

『押すなら先に言って!?』

『ごめんね……あれ? なんか後ろおかしくない?』

『も、もうその手には乗らないよ!』

『いや、私今目の前にいるじゃん。じゃなくて後ろの絵、一枚だけおかしいんだよ。あんな感じだったっけ? 後ろ見て』


恋夢ちゃんの後ろの方を振り向くと、いくつもの絵が懐中電灯に照らされていた。

その中で一枚、僕の目にもわかる絵がある。


『他の押してみるね』

『う、うん』


【ファ】


音が鳴るのと同時に、両眼を開いていた絵は片目を閉じた。



動いた!

今動いたよね!

マジか……!?

こわっ!



『い、今動いたよ……!?』

『だよね。多分これが本物と偽物だと思う』


恋夢ちゃんは黒板の前に行き、【動かない絵が本物で、動く絵が偽物】と書くと赤丸がつけられる。

そして——、


【ミッションクリア! 後ろを見てみて!】


指示通り後ろを見ると……。


【ぼぉあぁ!】

『きゃああああああああ!?!?!?』


さっきまで動いていた絵が、すぐ後ろまで来て驚かしてきた。


『ちょっ!? お、ヤマト! 抱き着かないで!』

『怖い怖い怖い!?』


急いでコントローラーを持ち、音楽室を出て違う場所に向かう。


あれ、絶対夢に出る奴だよ……!


『ちょ、待って!』

『無理無理無理!?』

『あ、そっちは!?』


テキトーに捜査して入った教室は科学準備室。


こ、ここには変なものないよね……。


【カラカラカラカラ】


急に変な音が鳴り始める。

聞くだけでなんか不気味な音。


『ヤマト、今すぐそこから出た方がいいと思うよ』

『え?』


恋夢ちゃんの言葉を理解する前に僕は気づいてしまう。

ここは科学準備室。だったらあれがあってもおかしくないよね!


【キャッハッハッハ、生の人間だぁ!】


目の前には動く白骨と、臓器が見えた人形。

この二つがいきなり動き出す!


『きゃああああああああ!?!?!?』


とっさにその部屋から抜け出し、別の部屋に向かう。


『ちょっ! ミッションって、待って!』


【キーンコーンカーンコーン】

『きゃああああああああ!?!?!?』


それは何もない廊下で。


【トン、トン、トン、トン】

『きゃああああああああ!?!?!?』


それは体育間の中から。


『あ、顔がない』

『きゃああああああああ!?!?!?』


【私、花子さん。今あなたの後ろにいるの!】

『きゃああああああああ!?!?!?』


それは急に現れたテロップと音声から。


『花子さん×メリーさんって、何故に?』


【あ、目が合った!】

『きゃああああああああ!?!?!?』


それは美術室にある有名な女性の絵と。


『ゲームなのに再現度高くない?』


ありとあらゆる怪奇を僕はゲームで体感してしまった。

あまりの恐怖に、どの道をどういう風に進んだかなんて覚えてない。


だけど何があったかは、はっきりと覚えている。


そして……。


【GAME OVER】


1時間をきってしまった。


『え、お、終わり?』

『終わりだよ。ヤマト逃げ回ってばっかりだったから気づいてなかったかもしれないけど、ちゃんと時間警告あったよ』


終わり……、よかったぁ!


終わりと同時に今回の結果が発表される。


【スコア 50,569点 ミッションオールクリアボーナス +10,000 合計 60,569点】


『え、ミッション全部クリア? 何があったの?』

『ヤマト逃げ回ってばっかりだったから知らないかもしれないけど、ヤマトが行った先全部にミッションがあって私が全部クリアしといたよ』

『恋夢ちゃぁん!!』

『まぁ、ご主人様たちにはどういう感じかは見えなかったかもしれないけどね!』



うん。

全く分からんかった。

一応、恋夢ちゃんの声でミッションがあるってのは分かったけど……

途中から音量下げたわ!

怖がるヤマト様もかわいい!



あ、やってしまった!

案件配信なのに、見てくれてる人が全然内容理解できてないじゃん!


『まぁ、今回は難易度『ノーマル』でホラーが余裕の人には怖くなかったかもしれないけど、難易度は『ゴッド』まであって、それはものすごく怖いみたい!』

『ぎゃ、逆に『イージー』は子供向きってことですね。僕は無理そうですけど……』

『あ、あはは、因みにステージによって出てくるミッションは大きく変わるみたい! 今回のステージ『学校』だったから、七不思議系が多かったね!』

『僕、しばらく学校にいけないよ』

『ヤマト、そもそも学校に行ってないじゃん!』

『……あ、そうだった』


僕学校に行ってないんだから気にする必要なかった。


『み、皆様も夜の学校には注意してください』

『あと、怖がってる人を無理やり肝試しに誘わないこと! 今回は大丈夫だったけど、ショックで気絶したり最悪、取り返しがつかなかったりするからね!』



はーい!

恋夢ちゃんの言うこと守ります!

つまりヤマトみたいな子は誘わないように、と



『皆さん! ぜひ『モエモエ肝試し!』買って遊んでみてください!』

『あれ? モエモエ要素は?』

『ヤマトは先に逃げてわからなかったかもしれないけど、3、4個くらいあったよ』


え、そうなんだ。

じゃあ今度はイージーモードで遊んでみようかな。


っと、そろそろ時間だ。


『ではお時間が来ましたので今日はこれまでにしたいと思います。本日は僕たちと楽しい時間を過ごしていってらっしゃいませ、ご主人様。またお会いできる日を楽しみにしてます』

『みんな、行ってらっしゃい! つぎ合う時まで恋夢の名前忘れないでね!』



行ってきます!

忘れないよ!

また来るね!

恋夢ちゃん。また来てねー!


***


来夢side



案件配信が終わってから、私は自分の部屋でプログラミングの作業をしていた。


一応中学生だけど私にはやらないといけないことがたくさんある。

たくさんあるんだけど……。


「ら、来夢。1回僕の部屋に行きたいんだけど……」

「はいはい」


私のお兄ちゃんが私のそばからなかなか離れようとしてくれない。


というのも、配信が終わってからずーっと私のそばにいる。


例えばトイレでは……


「来夢。トイレに行きたいんだけど……」

「はいはい」

「絶対にそこにいてね」

「いるから」

「来夢ー、いるー?」

「いるよー!」


お風呂では……


「お兄ちゃん。お風呂に入りたいんだけど」

「うん。外にいるね」

「絶対中見ないでね!」

「うん!」


逆の時は……


「来夢、いる?」

「ちゃんといるから、心配しなくていいよ」

「今日はすぐ上がるね!」


そう言ってお兄ちゃんは10分くらいでお風呂から上がってきた。


長風呂のお兄ちゃんにしては珍しく早い。

それほど一人が怖いということ。


料理をしてる時は……


「お兄ちゃん、キッチンからちゃんと見てるからテレビでも見てたら?」

「テレビから、お化け出てきたりしない?」

「しないしない」

「……やっぱりここでいい。来夢の近くがいい」

「まぁ、好きにすればいいよ」


そして、夜の就寝前……


「来夢、一緒に……」

「はいはい、私のベッド少し狭いからお兄ちゃんの部屋ね」

「うん!」


お兄ちゃんの部屋に行き、一緒のベッドで横になる。


「ちゃんと、歯磨いた?」

「磨いたよ」

「トイレには……一緒に行ったね」

「うん!」

「じゃあ寝ようか。お休み」

「お休みー」


親になったとき、子供の面倒を見るときってこんな感じなのかな?


あんまり詳しくは分からないけど、今日のお兄ちゃん、なかなかに可愛かったなぁ。

作業は全然進まなかってけど、これが見れただけでも良しとしよう。


明日になると元に戻るのは少し残念だけど……。


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