第77話 主婦の戦争
「ふんっ! うん。いい朝!」
やっぱり自分のベッドで寝た次の日の朝が、一番目覚めがいいね。
起きてすぐに、目が覚めた。
時間は既に6時を回っていて、いつもなら来夢はこの時間にはもう起きている。
何なら、僕の部屋は2階なのに、すでにお肉の焼けるいい匂いがする。
「来夢、おはよう」
「おはようお兄ちゃん」
来夢は既に制服に着替えていて、その上にエプロンをつけていた。
来夢の制服姿なんて1週間ぶりなのに、2か月ぶりな気がする。
「お兄ちゃんがご飯たけてるから、お椀に入れてくれる?」
「はーい」
僕がご飯をついでいる間に、ウインナーも焼けたみたいでお皿に盛りつけていた。
香ばしいウインナーの匂い。嗅いだだけでお腹が空いてくる。
「昨日のハンバーグで卵使い切ってたから、今日は目玉焼き無しね」
「それはいいけど大丈夫? 学校でお腹すいたりしない?」
「目玉焼きが無いくらいでお腹すいたりしない。最後に荷物の確認したいから早く食べよ」
「はいはい」
今日の朝食はウインナーとお米だけと、少し質素な感じがするけどお米もウインナーもおいしいから問題ない。
逆に、お米とウインナーの旨さを味わうことができてありがたい。
「ご馳走様でした」
「早いね来夢。もう少し時間あるんだからしっかり噛めばいいのに」
「しっかり噛んだけど、やり残した宿題がないか心配だから」
「……あ、日記、来夢しか知らないところ書いてなかった!!」
昨日動画の撮影があって完全に忘れていた。
結局、日記かけなかったんだった……。
「お兄ちゃん……」
「ごめんね」
「別にいいけど、代りに洗い物お願いしていい?」
「任せて、どうせこの後動画の撮影することくらいしかやることないし」
「じゃあお願い」
「はーい」
来夢は食器を水につけた後、駆け足で二階に向かった。
日記はせいぜい6行だけど、少しでも内容が薄かったりしたらやり直しさせられることが多い。
先生によって個人差があるけど、確か今の来夢の担任は兄さんが学生の時からいた先生だったはず。
そしてその先生は普段優しいけど、宿題みたいなやらないといけないことをやらなかったりしたらものすごく怒る先生。
兄さんも日記で手抜きした同級生が起こられているのを目のあたりにしたとき、真面目に日記を書くと誓っていたって言うのを義姉さん伝手で聞いたことがある。
……そんな人が担任なのに、担任が一番見る日記の宿題を僕にやらせてたんだ。
来夢は心が強いなー。
「さてと、僕お食べ終わったし、まずは洗い物して、次に買い物、そのあとに動画撮るでいいかな」
土曜日、日曜日で買い物に行かなかった分、今うちにはお米と少しの野菜くらいしか残っていないから買い物に行かないといけない。
せっかくだし朝から買い物に行こうかな。
「お兄ちゃん! エプロンと三角巾ない!?」
「今日調理実習でもあるの?」
「うん! 午後の授業が調理実習なの忘れてた!」
食器棚の食器を置いていない引き出しから、三角巾と使っていないエプロンを取り出し来夢に渡す。
「あ、これ可愛いやつ!」
「多分大丈夫だと思うけど、変な臭いとかしないか?」
「……うん。何もにおわない。これでいいよ、ありがとう。もう行くね!」
「行ってらっしゃい」
2階に荷物を取りに行き、どたばたと足音を立てながら学校へと向かっていった。
って、もうすぐで7時じゃん。
スーパーが9時に開くから、少し急がないと。
開店直後の時間の方が割引多いんだよね!
急いで洗い物を終わらせ、財布とエコバックの準備を終わらせる。
「……7時半。朝に行くときはいつも開店して数分立ったころに着くし、今日は開店前に行ってみようかな」
歩いていくと遅くても1時間ほどで着くけどすぐに家を出る。
「……あれ? お隣さん引っ越したのかな?」
今まで、見えていた2階のカーテンや表札がいつの間にかなくなっていた。
隣の人とあんまり話したことはなかったけど、普通のご家族だったはず。
引っ越したとするとゴールデンウィーク中ってことになるけど、転勤?
まぁ、どうでもいいか。
知らない人だしね。
そんなことよりも、買い物に行こ!
ゆっくりとスーパーまでの道を歩きながら周りを見ていると、桜の葉が地面に落ちて緑の葉っぱが咲いているのをよく見るようになった。
こういうのを見ると、季節の変わり目って感じがする。
スーパーにつくと、そこには開店前だというのに、たくさんの主婦がたむろっていた。
駐車場は既に満車状態。
中には近所の主婦の軍団もいた。
「おはようございます」
とりあえず、知り合いの主婦さんにはあいさつしないと。
「あら、保くんじゃない! こんな朝早くに来るなんてめずらしいわねぇ!」
「ホントっ! いったいこんな時間にどうしたの?」
「あ、その、買い物をしようと思いまして……いつも朝早くに行くと安いお肉が売り切れているので」
「あらあら、じゃあこの時間は初めてって言うことね」
「仕方ないわよ
「それもそうね。じゃあ保くん。覚悟しといたほうがいいわよ。これから主婦の戦争が始まるから」
え、戦争!?
なんか物騒な単語なんですけど!
僕、ただ買い物しに来ただけだよ……。
「いい、ここのスーパーの月曜日の開店時間は他のスーパーと一味違うわ」
「そ、それはどんな感じに……」
「肉の割引セール、驚異の70%オフよ!」
「……マジですか」
計算が苦手な僕でも70%オフがどれだけすごいかはわかる。
普通なら半額でお得って感じる中で70%オフだとお得では済まない。
実質無料に感じる。
「因みにお魚は60%オフよ」
「それでも普通にお得ですよ」
「そう! だから主婦はこの時間を狙ってるの」
「確かにそれならこの人数は納得ですよ」
話を聞いただけで、今後、僕の月曜日の朝は買い物という予定で埋まってしまっている。
すでに近所の主婦さんたちは獲物を狙うような狩人の目へと変貌していた。
時間が経つにつれ、店の前にお客が増えていく。
中には明らかに運動が苦手そうな主婦さんに子供を預けて並ぶ主婦軍団もいた。
そして、9時になるのと同時に店がオープン。
それと同時に主婦さんたちは店内へと向かっていく。
それぞれ進む場所は違うけど、誰一人として雑貨やお菓子売り場などには向かわない。
お目当ての場所は青果コーナー、精肉コーナー、鮮魚コーナーのどこか。
もちろん僕は精肉コーナー。
人が多いのは嫌だけど、安くでお肉を買うためなら少しくらい我慢できる。
主婦さんたちは急いで入るものの決して走ろうとしない。
早歩きで歩いていく。
『本日もご来店いただきありがとうございます。月曜恒例! タイムセール! おひとり様お一つになりますので、ルールをしっかりと守り、お怪我の無いようにお買い物くださいませ』
ちゃんと購入制限はあるんだ。
それはそうだよね。
購入制限が無かったら買いたい放題で、あまり人に行き渡らないだろうし。
「保くん。ここからは列が形成されるからおばちゃんの前にきなさい」
「え、いいんですか?」
「ええ、おばちゃんは毎週買ってるし、こういうのは若い子に譲るものなのよ」
「あ、ありがとうございます!」
お言葉に甘えて、前に並ぶことに。
今僕がいるの場所は前から10人程度の場所。
ここからでもどんなお肉があるかは見ることができるけど、たくさんのお肉の種類があるものから、1人分しかないお肉までたくさんある。
一番前にいる人はお肉をとった後、店員さんに渡すと何かのシールが張られたいた。
「お肉をとった後は店員さんにお肉を渡すの。その時に7割引きシールを渡されるからね」
「初めてくる人は、これをよく間違えるのよね~」
なるほど……。
だから列みたいなものができてるんだ。
徐々に列は進んでいきついに僕の番。
僕が選んだのは……もちろんたくさんあるお肉。
1つ2000円くらいするけど、これが7割になると思ったら安いものかもしれない。
消費期限も3日後になっているけど、冷凍保存すれば問題ない。
「あの、これお願い、します」
「はい、それではこちらのシールを貼らせていただきますね」
店員さんは優しい声で対応してくれて、『7割引き』と貼られたシールを貼ってくれた。
「なかなかいいのが買えたじゃない!」
「教えてくれたおかげです。正直、主婦の戦争って聞いてたので、お肉を取り合うものかと思ってましたよ」
「昔はそうだったんだけどね。けが人がよく出たから今の形に変わったのよ」
「な、なるほど……」
今の形に変わるほどって、どんな感じだったんだろう……。
あまり考えたくないかも。
「それで、ヤス君はこの後どうするの?」
「はい、他のものでも買おうかと思ってます」
「なら早い方がいいわよ。割引はされないけど、品切れになることがたまにあるから」
「マジですか」
じゃあ今まで、月曜日でそこそこ買えてたのは運がよかったんだ。
でも、たまに野菜が品切れになってることは多々あったような……。
って、今はそんなことどうでもいいよね!
「それじゃあ僕はこの辺で失礼します!」
「ええ、いつでもきていいからね~」
「ありがとうございました!」
急いで青果コーナーに行くと、そこにはすでに行列がなくなっており、店員さんも引き上げている状態。
棚にも商品がなくなっていた。
「すっご……、あ、キャベツは残ってた」
お目当ての野菜が残っていたので、それを買い物かごの中に入れ買い物を続ける。
お菓子に、ジュース、お昼のインスタントを買い物かごに入れ終え、レジに並ぶとすでに行列ができていた。
あれだけ人がいたらこれだけの人数が並ぶよね。
数分立ってついに僕の番。
商品を出すと、2000円のお肉は600円と桁が変わる値段に大替わり!
合計で1500ほどと、お肉のもとの値段にもいかないほどの金額になった。
お金を払い、エコバックに買ったものを入れてスーパーを後にする。
最初はどうしようかと思ったけど、早めに行動しといてよかった!
さてと、帰ったら明日投稿予定の動画撮影しようっと!
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