第74話 さらば東京、ただいま我が家
もうすぐでゴールデンウィークも終わりを迎える。
そのせいもあってか、朝から空港にはたくさんの家族であふれかえっていた。
「東京の空港ってこんなに人が多いんだね!」
「……いくらなんでも多すぎない?」
荷物を預けるために、並んではいるものの人が多すぎるあまり並び始めてから30分近く待っている。
来たときは人がほとんどいなくて不気味な感じだったけど、人が多すぎることも考えるとやっぱり人が少ない方がいいかも……。
「保仁くん、来夢ちゃん。お昼ごはんは向こうで食べる感じでいいかな~?」
「大丈夫です」
「私も問題ないよ!」
「保仁、来夢、俺が並んどくから椅子に座ってていいぞ」
「そうだね~。もうすぐで出発なんだしお義父さんとお義母さんと少しでも一緒にいるといいよ~」
「分かりました」
「お義姉ちゃんもいちろーと一緒にいたいだろうし、お邪魔虫は退散するね!」
列は兄さんと義姉さんに任せて僕と来夢は母さんたちのいるお土産コーナーに向かう。
「あなた、これいいと思わない?」
「うーん。こっちのお菓子の方が喜ばれると思うぞ。味の種類がたくさんあって選びやすい」
「それもそうね。じゃあ現場への差し入れはこっちのお菓子にしましょう」
とても声をかけづらい。
別に2人の間に割った入るのが難しいからというわけじゃない。
理由はただ一つ。
父さんも母さんもマスクにサングラスと変装をしていて、行き行く人に変な目で見られているから。
この2人に声をかけるのは勇気がいる。
「お兄ちゃん。声かける?」
「僕は無理、来夢が呼んで」
「私も嫌なんだけど……。あ、買いも終わったみたい。多分こっちに来るんじゃないかな?」
来夢の言った通り、母さんたちは会計を済ませて店から出てきた。
会計をするときのレジにいた店員さんは笑顔が作れておらず、早く済ませたいって感じでレジ打ちをしていた。
それほどに2人の恰好は異常に見える。
まぁ、母さんは有名女優だからバレたら大騒ぎになるし、父さんは顔こそバレていないけど母さんと結婚しているってことは既に世間では常識だから、母さんと一緒にいたら久遠義明だってバレるから変装する意味は分かるんだけどね。
でも、もう少しまともな変装はなかったのかな?
あれじゃ別の意味で注目の的だよ。
「お、ヤス。もう荷物はいいのか?」
「兄さんが変わってくれました。それよりも父さん。その変装はどうにかなりませんか?」
「無理だな。母さんと一緒にいるんだったらこのくらいの変装はしないと、簡単に顔ばれしてしまう。お前も使うか?」
「……ありがとうございます」
父さんからマスクとサングラスを受け取り、僕も同じように付ける。
別に付けたいから付けたいわけじゃないよ。
ただ、さっきからすれ違う人たちが僕たち、というよりも母さんを注目ししているみたいだったから顔を隠しただけ。
「お母さん。多分バレてるんじゃない?」
「そうかもね。ちらちらとスマホと私を見比べている人もいるみたいだし、これは本格的にばれてそうね」
「流石は大女優『神無月撫子』だな。変装してもそのオーラは隠しきれない!」
「あなたに褒められるのは好きだけど、今は全然嬉しくないわよ」
周りに母さんの存在が気付かれ始めているってことは、多分母さんと一緒にいられるのはこの時間が最後になると思う。
来夢もそのことはわかっているし、母さんも待機所まで見送来るつもりでいたかもしれないけど、それももうかなわない。
「それじゃあ保仁、来夢。私が見送れるのはここまで。あなたたちと1週間近く一緒に過ごせたのは何年くらいになるかしらね。この1週間とても楽しかったわ」
「僕もだよ、母さん」
「私も」
「体には気をつけなさい。たまには東京に来なさいね。私もたまには宮崎に帰るから。いい、二人とも仲良くね。あとご飯もしっかり食べるように、それから寝る前の歯磨きは忘れないで、お風呂には毎日入ること」
「わ、分かってるよ……」
「そこまで心配しなくても大丈夫だよ、お母さん」
「そうだぞ。何より俺たちの子供だ。心配するだけ無駄だろ」
「それもそうね。あなた、あとはお願い」
「任せろ」
「それじゃあまたね二人とも」
「母さんも元気でね」
「また東京に来るから!」
母さんは笑いながら手を振って、僕たちのもとから遠さって言った。
それから数分もしないで、人が一定の場所に集まりだす。
「おい、向こうに神無月撫子が来てるみたいだぞ!」
「え、嘘!? 私ファンなんだけど!」
「今撮影会みたいにたくさんの人が写真撮ってる!」
「お母さん! あたしも写真撮りたい!」
すでに母さんがいる場所には人だかりがたくさんできていて、警備員が列を作り始めていた。
「念のために空港側には連絡入れといたみたいだな。対応が早すぎる」
「ですね。普通母さんを人が来ない場所に連れていくはずなのに、そのそぶりもありませんし」
みんなの注目は既に母さんに向かっている。
そのおかげで、空港内にいた人のほとんどが母さんのところに集まり、僕たちの周りにいた人が少なくなった。
「あれ? 母さんは」
「人もだいぶ少なくなってるね~」
荷物を預け終えた兄さんたちが戻ってきた。
「母さんは周りの人に不審がられたから少し離れた場所で注目集めてるよ」
「ああ、だから人がいないのか。なら早く行こうぜ。もう荷物は預けたし、もう少しでフライトの時間だ」
空港内に詳しい兄さんたちの後についていき、待合室に着く。
兄さんと父さんはここまで。
「ヤス、ライ。元気でな」
「父さんもお元気で」
「また夏に来るからね」
「加奈ちゃん。帰ったら電話してね」
「もちろんだよ。一郎くん。また来るからね」
父さんたちと別れてから手荷物検査を済ませ、待合室の中に入る。
東京の待合室は宮崎と違ってだいぶ広い。
義姉さんがいなかったら絶対に迷子になっていた自信がある。
「2人とも、何か買わなくて大丈夫?」
「はい、お水があるので」
「私も大丈夫」
「なら行こうか。もうすぐで入場が始まるみたいだから」
宮崎行きの飛行機が出るゲートの場所に着くと、そこそこの人が椅子に座って中に入れるのを待っていた。
「人が多いね」
「来夢。これが普通だよ。行きの時がおかしかっただけだから。普通は自由なところにお座りくださいなんてないからね?」
「分かってるよ。私、お兄ちゃんほど馬鹿じゃないから」
「……確かに」
椅子に座って待っていると、すぐに搭乗の案内がされた。
飛行機は1列に3人3人で乗れる飛行機で、行きの時とおなじタイプ。
行きの時と違うのは、僕たち以外にもお客さんがいることだけ。
「お兄ちゃん! 空港の屋上にお父さんたちいるよ!」
「え、どこどこ!」
来夢の方にある窓から外を見ると、確かに父さんたちの姿が見えた。
サングラスにマスク姿の大男なんて、父さんくらいしか思いつかない。
しばらく外を眺めていると、飛行機は発進して東京の空を飛び始める。
それから約1時間半の空の旅をしていると、宮崎の都市が見え始めた。
因みに、東京から宮崎に行くまでに雲一つない快晴だったけど、見えたものは海ばかり。
たまに船が見えたくらいでそれ以外には何もなかった。
「それじゃあ私についてきてね~。言っておくけど、東京よりは広くないけど宮崎の空港でも迷子になることはあるかもしれないからね」
「はーい」
義姉さんの後についていき、荷物を受け取ってから荷物預け場あたりに出る。
やっぱり宮崎の空港だから、東京よりは小さいし人も少ない。
でも、小さい分、人が少なくても人が多いように見えてしまう。
早くほかの場所に行きたい……。
「空港にレストランあるからそこで食べて電車に乗ろうか」
「確かに、お腹すきましたもんね」
「さんせー」
1階から3階にエスカレーターに乗って移動し、レストランに入る。
開店したばかり見たいで人が少なく、すぐに店内に入ることができた。
「やっぱり東京に比べると少し安い……いや、そんなことないか」
「お兄ちゃん。東京と見比べるのはやめようよ。それにここは空港内のレストランだから少し高いんじゃない?」
「2人とも、値段は気にしなくていいからね」
「分かりました。……じゃあこの宮崎牛丼でお願いします」
「私もそれで」
「2人とも、しれっと高いの行ったね~。じゃあ私もそれにしようかな」
注文してから数分で宮崎牛丼が3つ届く。
高いだけあって普通に美味しかった。
何よりもさすが宮崎牛。
肉だけでも1000円の価値がある。
一緒についてきたみそ汁やサラダも牛丼に合って最高!
「ごちそうさまでした」
気づいたときには食べ終わっていて、店内にも人が多く入っていた。座っている場所から店の外を見ることができたけど、すでに列ができている。
早いうちから入ってて本当によかった!
会計を済ませて店の外に出ると、中から見ることのできなかった場所まで列は並んでいた。
「電車がそろそろだから行こうか」
「はい。来夢、お手洗い大丈夫?」
「私は大丈夫。お兄ちゃんの方こそ行っといたほうがいいんじゃない?」
「僕も大丈夫かな」
「それなら駅に行こうか」
先導する義姉さんの後についていき、2階に降りてから駅に向かう。
わざわざ外に出ずに空港から駅に行けるのは楽でいい。
義姉さんに切符をもらってから、電車に乗り込み再び1時間の電車の旅が始まる。
外の景色を見ていると、改めて宮崎に戻ってきたって実感がわくんだよね。
やっぱり、山や田んぼの景色を見ている方が、僕は落ち着くかな。
まぁ義姉さんや来夢は気持ちよさそうに寝ているからそうでもないかもしれないけど……。
『次は日向、日向駅に止まります。開く扉は右側です。お忘れ物の内容にお降りください』
「もう着いたんだ。義姉さん、来夢。駅につい来ましたよ。起きてください」
「あれ? もう着いたの?」
「着きましたから降りる準備してください。来夢も」
「は~い」
少し寝ぼけ気味の来夢の荷物は僕が持ち、来夢を起こしてから駅に降りる。
日向駅はそこまで大きくない分止まっている時間も短いから、降りれないと南延岡まで言っちゃうんだよね。
降りることができて本当によかった。
「それじゃ私はここまでだね。家までちゃんと帰れる?」
「大丈夫です。義姉さんの家よりも近いので。それに来夢もちゃんと起きたみたいだし」
「流石に少し歩けば起きるよ」
「そう。来週あたりまでに新衣装のデータ送るね~」
「はい。お願いします」
義姉さんは荷物を持って帰っていく。
歩いて帰るつもりなのかな。
ちゃんと帰れればいいけど……。
「それじゃあお兄ちゃん。帰ろうか」
「そうだね」
駅から歩くこと20分。僕たちの家に着くことができた。
1週間ぶりの家に。
「ただいま!」
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