第72話 ヤマト様親衛隊000001

ヤマト様親衛隊


僕のファンが開いたファンの集い、みたいなやつで僕自身いつできたのかは知らない。

実際、親衛隊が出てきた当初は僕も驚いた。


その上、僕自身が親衛隊の実態をちゃんと把握しきれていないため、どういう組織なのか、どのような活動をしているのか、どういう風に番号を与えているのかがまったくの謎。


さらに言うなら、親衛隊と話す機会自体があまりなかったためそれらを聞くことができなかった。


僕の配信を見に来ているご主人様に聞く手もあったけど、せっかくなら親衛隊の口から聞きたかったのもあったので聞いたことがない。


だからこそ、ガーデンランド所属の白狼ウルフ様が親衛隊であることに驚きを隠せないでいる。


『ウルフってヤマト様親衛隊なんですか?』

『はい!』

『え、何その組織? オレ知らないんだけど……』

『えーっと、5期生メンバーも知らないみたいですね』

「実をいうと僕も存在は知ってるんですけど実態まではよくわからないんですよね」

『え、本人であるお前も知らねぇの?』

「はい。いつの間にかできていたので……」


いつの間にかできていて、いつの間にか大きくなっていた組織。

この機会に聞いてみるのもいいかも。


「ということで、親衛隊のこと教えてもらえますか?」

『お、教えたら公認をもらえますでしょうか!』

「内容次第ですね」


もし、誰かの迷惑になるような組織だったら即刻解体させないと。

多分、僕のファンだから、僕のお願いはある程度聞いてくれるはず。


それでファンが減っても、他人に迷惑をかけるよりかは全然いいよ。


『では、親衛隊について話します。もともとは数人の集まりだったのですが、000006番さんの意見で組織化しようという話になりまして、000011番さんがヤマト様親衛隊のチャットや番号を振り分けることのできるアプリを作ってくれました』

『ちょっ!? それってヤマトの親衛隊専用アプリってことか!?』

『そうなりますね』


もしかして、来夢……は違うか。

親衛隊が本格的に活動し始めた時期は来夢がプログラミングを始めてアプリ制作に取り掛かってる時期だったから、他のアプリを作る余裕はなかったと思うし。


『それで『ヤマト様親衛隊』というアプリができました。もちろん入会費・年会費は無料です』

『因みにヤマトくん。有料だったらどうしてました?』

「解体させてました」


勝手に活動して有料なんておかしいと思うし、そのお金はどうなるの? って話だからね。


『次に親衛隊の内容なのですが、親衛隊にはいくつかの条約があります』

「その内容は教えてもらえますか?」


親衛隊はあくまで第一段階をクリアしただけ。

内容次第では解体も考えないと……。


『なんか、コーナーガン無視じゃね?』

『私は気になるので問題ないですよ。ラノ先輩は気になりませんか?』

『……気になるな』

『なのでここは黙っておきましょう』

『だな』


ラノ様とサクラ様の会話で僕もコーナーのことを思い出したけど、二人とも黙認してくれてるし、ダメだったら社長様が何か言ってくれると思うし、ここは話聞いておこう。


『分かりました。まず、親衛隊には『来るもの拒まず去る者は追わず、危険因子には鉄槌を』というスタンスがあります』

「危険因子というのは?」

『今から言う五カ条を守れない者たちです。1つ『コラボ相手に迷惑をかけない』、2つ『コラボ相手が自分の思っているヤマト様の異性であっても妬んで誹謗中傷を書かない』、3つ『最低限生活できるお金を確保してヤマト様に貢ぐ』、4つ『ヤマト様のことで親衛隊内での言い争いをしない』、5つ『無理やりヤマト様の押し売りをしない』。これらを守れないものは『危険因子には鉄槌を』に乗っ取り徹底的に排除することになります』

「……なるほど」


思ったよりもしっかりしたルールもあるみたいだし、守れない人に対しての措置もちゃんとある。

五カ条に関しても、僕が注意してほしいことをしっかり取り組んでいるし、これなら容認してもいいかな。


『因みに親衛隊には番号があると思うのですが、ウルフは何番なんですか?』

『000001番です』

『……え?』


え、今の聞き間違いじゃないよね?


『それって親衛隊の中で一番偉いってことか?』

『親衛隊に偉いとかそういうのはないんですけど、一応リーダーという立場ではありますね。因みにヤマト様の配信に一度だけスパチャを投げさせてもらったことがあります』


……ああ!

確かにあった!

凸待ち配信の時に誰も来ない中で000001番さんのスパチャあったよ。


そう言えばコメントに同じVtuberって書いてた気がする。


あれってウルフ様だったんだ!


『それで、活動の公認はもらえますでしょうか?』

「はい。公認します。もともと誰かに迷惑をかけたりする団体だったら解体させるつもりでしたけど、問題ないみたいですし」

『ありがとうございます!』

『ウルフ、そんなんでなくなよ!』

『可愛いからいいじゃありませんか』


後でアーカイブ見直そ。

一台しかないせいで向こうの声しか聴けないしどんな配信化も気になるし。


『ちょうどいいところで時間ですね。それでは代表のお二人は判定をお願いします!』


しばらくの沈黙が続く。


……あれ、これって切っていいのかな。

それならスカウトの件を今のうちに答えておきたいんだけど。


『判定が出ました。常識組は『非常識組へ』、非常識組は『うちに来い』ということで、白狼ウルフさんは非常識組への加入が決定しました! 残念ながら要望通りになりませんでしたが、今の意気込みは?』

『ヤマト様と話せたので非常識組で問題ありません!』

『ありがとうございます!』


僕との会話って、そんなにいいものだったの?

信念曲げるほど嬉しかったならそれでいいかな。


『最後にヤマト君、何かありますか』

「あ、じゃあ最後に一つ良いですか?」

『どうぞ!』

「社長様、スカウトの件、嬉しい誘いではありましたがお断りさせていただいてもよろしいでしょうか」

『そうですか。全然問題ありません——』

『ちょっと待て!?!?』


スマホからいくつもの声が重なり、大きな声として聞こえてきた。


え、なに、どうしたの?


『社長! スカウトってどういうことですか!』


聞こえてきたのはサクラ様たちじゃない知らない男性の声。


『え、そのまんまの意味だけど……』

『何平然と言ってるんですか! そんな話伝えられてませんよ!』

『言ってないもん』

『やっぱり言ってなかったんですね』


……つまり、社長様の単独行動だったってこと?


サクラ様は気づいていたみたいだけど……。


『さすがバカ社長! オレたちじゃ思いつかないことを平然とやってのける!』

『ヤマト様と一緒の事務所に慣れなかったのは残念ですけど、ヤマト様は個人勢の方が輝けると思うので複雑です』

『スタッフの何人かは俺と一緒に来い! 今回ばかりは説教だ! サクラさん、社長の代わりに進行お願いします!』

『分かりました。ということで、この後はしばらくの間は私、夢見サクラが司会進行をさせていただきます』


この惨状を見ることができないのが悔しい!


後で絶対にアーカイブ見直さないと。


『ということで神無月ヤマトさんでした。ヤマトくん最後にランドメンバーの挨拶を真似してから、通話を切ってください』


サクラ様朝の配信を見たのかな……。

……これって誘われてるよね?


ラノ様には悪いけど、誘われたからにはやるしかないよね!


「では行きます。『みんなのアイドル! 最強の恐竜ティラノサウルスの竜田ラノだよ! 今日は私を配信に呼んでくれてありがとね! これからもガーデンランドとヤマトの配信をよろしくね! それではガーデンランドさん、お邪魔しましたー!』」

『おいっ! 私の声でその挨拶を——』


ラノ様が怒る前に通話を切る。


誘ったのはサクラさんだし、僕は悪くないよね?

……うん、悪くない!


今はそう言い聞かせるしかない。


ガーデンランドの配信を今にも見たいけど、今はイヤホンもないし何よりここは超高級ブランド店。

流石に音を出して動画を見る勇気は僕にはない。


「あ、お兄ちゃーん!」


通話が終わってすぐに、来夢が走ってやってきた。

後ろには兄さんと店員さんが話している。


「来夢。走ったらだめだよ!」

「ごめんなさい!」


なんだかとてもうれしそう。


「それでどうだった? 何か欲しいものあった?」

「うん! ものすごくよくて高いもの!」

「あ、ああ、そうなんだ……」


良いものが見つかったとは思っていたけど、笑顔で高いものも見つけたって言うなんてわが妹ながら少し怖い。


でも可愛い!


「それで、何買うことにしたの?」

「ピアノ!」

「……そういえば家には置いてなかったね」


家には撮影部屋や小さいけど収録部屋はなぜかあるのに、ピアノやドラムと言った楽器は置いていない。


因みに、収録部屋は昔父さんが家を改造したみたいで、物心ついたときには家にあった。


「ちなみにお幾ら万円?」

「150万。相場が高くて120万くらいだったからだいぶ高いね」

「どこに置くの?」


家で開いている部屋と言えば、父さんと母さん、あとは兄さんと客間くらいしか開いてない。


「本当は嫌だけど、いちろーの部屋もらったからそこ置く」

「じゃあ帰ったら掃除しないとね」

「うん! 因みにお兄ちゃんは何買うの?」

「うん。このソファ買おうかなって思ってる」

「いいじゃん! 向こうにそこそこ大きいのあったからそれにしようよ!」


よかった。

ちゃんと商品としておかれてるみたい。


今僕が座ってるのが1人ようだから、大きいのって言うと数人で座れるやつかな?


「店員さん! お兄ちゃんこのソファの大きいやつが欲しいんだそうです!」

「はぁっ!? ちょ、おまっ——」

「かしこまりました! ではお客様。あちらの方でお会計をいたしますのでついてきてください。弟様方はそちらの方でお休みになっていて大丈夫ですよ」

「はーいっ!」

「保仁! お前はそんな奴じゃないと思っていたのに!?」


兄さんが怒っている理由はなんとなくわかるけど……、このソファ大きいやつっていったいいくらだったんだろう。


もしかしたら僕は、人生最大のお買い物をしてしまったのかもしれない。




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