第70話 超高級店『レイン・ヴァン・ロード』


レイン・ヴァン・ロード


超高級点で、財布からバッグに服、時計など様々なものが売っている、言ってしまえばド〇・キホーテの超高級版。

安くても五万円は上回るという、子供には全く縁がなく普通に働いている大人でさえ安い小物を買うことしかできないというお店。


そんな店の前に僕と来夢はいる。


「来夢。さすがにここでは一人一個までだからな? 間違えてもさっきみたいに「ここからここまで全部ください」とかするなよ」

「……いちろーのお金を空にしたいとは言ったけど、流石にここでそれする気はない。むしろいちろーの財布が心配でできる自信がない」


来夢が兄さんの心配をしているなんて珍しい。

それほどにこの場所は僕たちと縁もゆかりもない場所。


だから来夢、店の中をマジマジと覗き見るのはやめようか。


「兄さん。行く場所間違えてないよね?」

「あってるぞ。もともと霧江ちゃんの作品展見に行った後にここよるつもりだったし」


何言ってんのこの人!

高級店を寄り道程度に言うなんて頭おかしいでしょ……!?


「初めていちろーのことを凄い大人だと思った」

「僕も……」

「おい! そんなに言うなら中に入らねぇぞ!」


え、それならもっと言おうかな。

正直、僕としてはこの店の中にあんまり入りたくないし。


でも隣の来夢を見ているとあんまりそんなこと言えない。


「嘘嘘! いちろーって優しいお兄ちゃんだと思ってるよ!」


来夢は僕と違ってこのお店の中に入りたいみたい。

まさかこの1週間で来夢が兄さんをお兄ちゃんと呼ぶ日が2日もあるとは思わなかった。


「うん。嘘くさい。でもお兄ちゃんと呼んでくれたから良しとするか! 行くぞ!」


案外チョロい兄さんは店のドアを開けて中に入り、僕と来夢も兄さんの後についていく。


店の中は、普通に金ぴかで豪華すぎて簡単に直視できない。

隣にいる来夢は少し興奮しているみたいで辺りを見渡している。


「凄いねお兄ちゃん! 店内超豪華だよ!」

「そ、そうだね」

「あ、やっぱりお兄ちゃんはこういう店って苦手?」

「うん。お金持ちの匂いが強すぎるから苦手かな」

「お金持ちの匂いって何?」

「超美味しい空気の匂い」

「あ、その匂いは分かるかも」


この匂いは頭がクリアになって体の中にいる汚れが浄化されていく感じでいいんだけど、あまりにもいい匂い過ぎて中毒性が強くて苦手なんだよね。


でも、もう一つのお金持ちのような匂いがしなくてよかった。


僕と来夢が話していると、奥から一人の店員が僕たちに近づいてきた。


「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなものをお求めでしょうか?」

「え、あ、いえ、あの……」


流石高級店の店員。

超がつくほどイケメン。肌もつやつやしている。


「お、おお、お兄ちゃん! おち、おつ、おつちいて!」

「お前もな。保仁は分かるけど来夢もあわてるとか笑えるわ。わだっちもそう思うだろ?」


何を言い出したかと思ったら、兄さんは店員さんの肩に腕を乗せた。


……え、何してんのこの人、バカなの!?


「ば、バカいちろーバカ! 何してんの!」

「そ、そうだよ兄さん! 店員さんの肩に腕乗せるなんて失礼だよ!」

「ああ、大丈夫。こいつ俺と同級だから」


……え?


「お客様。私ただいま仕事中ですのでプライベートの話はお断りしておりますので、冷やかしなら出て行ってくれませんか?」

「そんなこと気にすんなよ。俺とお前の中だろ?」

「……アホ一郎! 俺は今仕事中なんだよ。そんくらいわかれバカ!」

「やっぱり、お前はそんな感じの方がしっくりくるわ」

「しっくりくる、じゃねえんだよ! ……まぁお前には何を言っても無駄か」

「流石わだっち、俺のことよくわかってる~」

「摘まみだすぞ」


初めて兄さんの同級生見たけど、こんなイケメンの人もいたんだ……。

しかも、高級店の店員さんなんて、兄さんの友達なのに凄い!


「それで、今日は何のようだ? 一昨日に花村さんと来たって他の従業員に聞いたけど」

「ああ、ここにいる2人、俺の弟と妹連れてきたんだ。何か買ってあげようと思ってな」

「ほ~ん。お前が花村さん以外の人に何かを買う、ねぇ~。高校の時は、「加奈ちゃん以外の人にお金は使わない、たとえそれが弟や妹だったとしても!」って言ってたお前がね~」


え、この人高校でそんなこと言ってたの?

確かに昔兄さんに何かを買ってもらった経験はないけど……。


まぁ、僕はそんな兄さんに慣れたし、今は反省しているみたいだからあんまり気にしないけど、隣にいる来夢はどうかな。


案の定来夢は兄さんをゴミムシを見る目で見ていた。


「とまぁ、こいつとは高校時代から中のいい和田です。今はこの店の店員をしています。よろしくね?」

「よ、よろしくお願いします」

「……本当にいちろーの友達ですか?」

「おいっ!」


来夢、確かに和田さんはイケメンでいい人だからそう思ったけど、それを本人の目の前で言うのはやめてあげよ。


「あはは、まぁ妹さんの言うこともわかるよ。でも一郎は高校の時学校の中心にいたからね。先輩、同級、後輩に慕われていたんだよ。それこそたくさん友達もいるし告白もたくさんされていたな」


意外。

僕たちが知る兄さんは義姉さん第一優先でクズってだけだったから、高校の時の兄さんは知らなかったけど、そんな感じだったんだ。


「おい、もうその話はやめろよ。俺が恥ずかしい!」

「そうだな。いつまでもこうしていると俺も先輩に怒られるかもしれないしな。それで、今日は何を買うんだ? 地下には食品店、1階には財布やカバン、2階には香水、3階に時計、4階に服や小物がたくさん置いてあるけど……」

「そうだな。食品はなくなってもったいないから地下は無し。1階から順に見て行ってもいいか?」

「かしこまりました。では案内いたします」

「よろしく」


店員さんに連れられ、僕と来夢は1階から順に見て行く。


「やっぱりたくさん買われるのって財布とかなんですよね?」

「はい、財布はよく使用されるものですし、他と比べてお値段もお安くなっているので」

「……確かに。種類もたくさんあるしよく使うものだから買って損はないかも。お兄ちゃんは財布とかどう?」

「財布はいいかな。なくしたら嫌だもん」

「あー、お兄ちゃん1回財布なくしかけたことあるもんね」

「うん。だから僕の財布は安いやつでいいよ」


来夢はもう少し財布を見て回るみたいで、1個1個時間をかけて見て行ってる。

今後使うものかもしれないから、しっかり見て行くのは大事だ。


「次はバッグになります。財布に比べると少しお値段が高くなっておりますがお兄さまが払われるのであれば問題ないかと」

「まぁ、加奈ちゃんには何個も買ってあげてるし問題ないだろ」


バッグにもいくつか種類があって、リュックサックや肩掛けバッグにショルダーバッグ。

夕食の買い物に行くとき、ごくまれにスーパーで主婦の方が使っているようなバッグばかり。


ということは、このあたりまでが一般家庭で手を出しやすいラインなのかな。


「うーん、中学じゃ指定カバンなんだよねー」

「高校で使ったらどうだ? 高校には指定のカバンとかないから使うことができるぞ」

「そうなったらまたいちろーに買ってもらえばいいから今はいいかな」

「俺が買うことは決定してるのかよ。まぁお前の態度次第では買ってやらんこともないけど」


1階はすべて見終え、次に2階、香水のフロアだ。

エレベーターはないみたいで会談で1段ずつ昇っていく。


上る途中に刺激的な臭いを感じてしまう。


「……私、ここはパス」

「僕もこの臭いはダメ。これはいけない大人の臭いがする」

「ふっ、ガキだな」

「仕方ありませんよ。こういう臭いはそれぞれ好みがありますので。それでは2階は飛ばして3階に行きましょうか」


3階は時計エリア。

ここにはたくさんの時計が並んでいた。


それにしても香水の臭い、少しきつかったな~。


「……」

「どうした保仁、そんなに時計に見とれて。ほしいのでもあったか?」

「……うん。あれ高いなー、と思って」


僕が指さした場所にあるのは一つの時計。

お値段は普通に100万を超える代物。


普通であれば簡単に手出しができない。


「……あれは勘弁してくれない?」

「いや、別にほしいわけじゃないよ。やっぱり腕時計って高いなーって思って」

「あれは世界に数えるほどしかない代物ですので、日に日に高くなっていってるんですよ」

「うん。あれはいいや」


来夢も時計にはあまり興味ないみたいで、次は4階。

服や小物などがたくさん置かれているフロア。


4階に上がってすぐに分かったことは、とにかく商品の数が多い。


1階から3階まではスペースを開けることで広く見せていたけど、4階に関しては商品が多くて、あまり広くは見えない。


「ここには服や小物以外にもお皿、家具などがありますからね」

「……お兄ちゃん大丈夫? 疲れてるけど」

「うん。香水の臭いでやられたみたい」


気持ち悪くはないんだけど、立っているのは少しきついかも。


「マジか。わだっち、どこか休めるところなかったっけ?」

「一応すぐそこに休憩スペースがある。ここを一周するときに通るからそれまで休んでて大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


店員さんに教えてもらった方角に歩くと、本当にすぐのところに休憩する場所があった。


ソファが置いてあったのでそこに座って来夢たちが来るのを待つ。


……あ、このソファいいかも。

クッション性が強くて、何よりさっきまであったむかむかが一気に消えていくのを感じる。


横にも広いし、これいいかも。

これが買えるんだったら僕これにしよ。


買うものが決まってすぐに、僕のスマホに着信が入る。

相手は不明。


「もしもし」

『はい、というわけでスペシャルゲスト、神無月ヤマト君に来てもらいました!』


スマホからはガーデンランドの秋月社長の声。


……あ、そういえば今日のガーデンランド恒例企画『新人ライバー組み分け交流会』に出演するんだった。

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