第59話 オフコラボ feat.レベッカ・カタストロフィー #1


部屋の掃除も終わり、ようやく配信準備が整った。

結局打合せはできなかったけど、時間は限られてるし完全アドリブで行くしかない。


「レベッカさん。立ち絵のイラスト送りました」

「うん、準備できてるよ。それと、今日やる耐久配信なんだけど、ゲームをすることにしたよ!」

「分かりました。挨拶の順番はレベッカさんからでいいですよね?」

「うん。……あっ! トリッターで告知するの忘れてた!」

「今すぐしましょう!」 

「ヤマトはしないの?」

「僕の方は片付けている途中にしておいたので大丈夫です。配信準備はできています!」

「分かった、私の方も声のチューニングするね!」


結局、時間ぎりぎりに終わったせいで急いでやらないといけなくなった。

最初は立ち絵の導入、次に動作チェックに告知などなど。


僕の方はあまりすることなかったから時間に余裕をもって終わらすことができたけど、やらないといけないことが多いレベッカさんは大変そう。


「『よし、それじゃあ配信始めようか』」

「はい!」


レベッカさんの声は日本人の高めの声だったのに、今の声は少し外国人っぽさのある高めの声に変わった。


さぁ、いよいよ配信開始だ!


***


『みなさ~ん、オッハー! ガーデンランドFC所属1期生のレベッカ・カタストロフィーだよ!』



オッハー!

オッハー!

おは~

おっは~



『そして~』

『お邪魔しております、お坊ちゃま、お嬢様方。そしてお帰りなさいませ、ご主人様。本日は僕とレベッカさまの配信に来てくれてありがとうございます。あなたの執事、神無月ヤマトです』



お邪魔してます!

お邪魔しま~す!

俺のヤマトちゃん!

違うわよ、私のヤマト!

コラボお相手さまの前で醜い争いはやめろ!

そうよ、ヤマトはみんなのものよ!



『というわけで、今日は神無月ヤマト君とオフコラボするよー! イエーイ!』

『いえーい』

『棒読み、温度差激しいね!?』

『そうですか? 僕としては、配信前にやってほしいことがあるんですけど?』

『え? ……あ』


この人、もしかして今の今まで忘れてた?


だとしたらよかったー、覚えてて。

まぁ、忘れてたとしてもリスナーさんたちが教えてくれたと思うけど。



え、何々?

汚部屋の件か!

……あぁ

一昨日レベッカのトリッターであったお片付けね。

で、どうだった? どうだった?



『僕の方から今回の結果を報告します。今回のレベッカさまの部屋は迷うごとなき綺麗に散らかっていました。というわけで、レベッカさまには今謝ってもらいます』



やっぱりか!?

「汚い部屋を体験した人の片付いているほど、信用ならないものはありません」解釈一致になった。

やっぱり駄目だったか……。

オフコラボって言うことは、今ヤマトはレベッカの汚部屋にいるの!?



『あ、二時間ほど前に来て部屋掃除したので今はだいぶ綺麗ですよ。まぁ、15分前に終わって打合せする時間もなかったので、僕は今日何をするか知りません。ということでレベッカさま。お願いします』

『はい』


他のライバーの配信で見たことがある。

謝罪するときは、会見のように謝罪するのを。


というときはこの時の声はこれかな?


『「カシャカシャ、カシャッ」』

『えー、本日ハ自信満々デ片付けられると言ったノニ、片付けられておらズ、ご迷惑をおかけシテ、大変申し訳ございませんデシタ』



リアルシャッター音が聞こえるのは我の空耳か?

空耳じゃない。普通にリアルシャッター音が聞こえる。

何故に片言?

すっげー茶番。



『「カシャカシャ」「えーレベッカさまは、どのようなお片付けをされていたのでしょうか?」』



え、誰の声?

普通に記者おらん?

マジで一瞬誰の声かわからんかった!

ヤマト、リアルカメラ音まで声で再現できるとかヤバすぎ……



『私ノお片付けハ荷物を横に分ケルだけのものデス』

『「カシャカシャ」「ではヤマト様のお片付け方法を教えてください」「カシャカシャ」』

『ヤマトのお片付けハ、ごみを捨て、段ボールをまとめ、部屋の散らかりを片付けた後に、床を掃除するものでシタ』

『「カシャ」「これを踏まえてあなたはどうしていきたいですか?」』

『今後ハ、ヤマトを見習いお掃除を心がけていきたいと思いマス』

『「ありがとうございます」「以上を持ちまして、謝罪会見を終わらせていただきます」ということでレベッカさま、今後はしっかりと部屋の掃除をするように心がけてくださいね』

『はい、精進します』



……俺の知っているVtuberの記者会見じゃない

なんかリアルすぎてヤバい

ヤマトの声真似だけでここまで変わるとか、相当だろ……。

最後のアナウンスまで的確だったし……。



『……やり過ぎましたかね?』

『うん。てっきりおふざけ気分で来るかと思ったのに、ガチすぎて全然ふざけられなかったよ!』

『謝罪会見って難しいですね。見たことあるから簡単にできると思いましたけど』



いやいやいや! むしろ今回の謝罪会見の方が難しいから!?

感覚バグってない?

これが最近現れた新人……規格外すぎる!

彼に欠点はないのか?



『まぁ、いい感じで場もあったまってきたしいいんじゃない? 今後私が片づけを心がけるのは本当のことなんだし』

『そうですか? それならよかったです』



レベッカの口から片付けを心がけるという言葉が出る、だと!?

彼はいったいレベッカに何をしたんだ!?

ヤマト様の行動が、一人の人間を正しい道に導いてしまった……

ヤマト様は天使ではなく女神だったのか!



うわー、いつの間にか天使になってて、今度は神としてあがめられそうになってるよ。

まぁ、変な気はしないこともないけど。


『それでレベッカさま、今日は耐久配信ですけどいったい何をなさるんですか?』

『それはねこのゲームだよ!』


レベッカさんがパソコンをいじると、通常の画面からゲームの画面へと変化した。


って、このゲームって!?


『今日やるゲームは『スタディーRPG ~ゲームで学べ、合格への道!~』だよ!』



おお、これか!

レベッカの定番!

このゲームで出た問題が、たくさん出て受験合格できたんだよな~。

何より、普通にロールプレイングゲームって言うのがいい!



レベッカさまのリスナーたちは大いに盛り上がっている。

対して、僕のリスナーはというと、



……

オワタw

やってしまった。

何時間、いや、何日かかるんだろう……

珍回答確定!



すでに皆諦めている。

誰一人『頑張れ』というコメントを送ってくれない。


僕だってそう思うよ。

今日はお泊りコースが確定したってね。


スタディーRPG ~ゲームで学べ、合格への道!~


『Homesyo』が販売した勉強しながらロールプレイングゲームを楽しめるゲーム。

「これで受験もテストも対策ばっちり!」という見出しで販売したものの、最初の売り上げはそこまでよくなかった。けど、とある学生がこのゲームをしたら全国一位になったと言った瞬間、バカ売れ。

すでにシリーズ化している。

更に、テストや受験で出やすい問題が、ゲームでの問題になっているのもあってこのゲームは学生だけでなく、勉強をさせたい親にも人気になった。


因みにその学生というのは兄さまのことで、もしかしたらこの時から兄さまはヤク姉さまと知り合いだったかもしれないと今は思っている。

だって兄さま、このゲームをしてなくても頭よかったから。


あと、僕はこのゲームをしていない。


『ヤマトはこのゲームしたことある?』

『ありませんね。やろうとしてもできませんので』

『え、どうして?』

『理由は2つありますね。1つ目はこのゲームは理解できる人のために作られてるんですよ』

『うん。……ん?』



え?

どういうこと?

答えがってこと?

意味が解らない……



『簡単に言うと、このゲームって問題を間違えたとしてもしっかりと解説がつくじゃないです』

『うん。それを覚えて勉強するってやり方があるね』

『でも僕はその解説すら理解できないんですよ』



あ、

なるほど……

そう言うことか!

え、どういう意味?

あー、全部理解した。

ヤマトはそこの領域だったか……



僕のリスナーと、レベッカさんのところの過半数は理解してくれたみたい。


『つまり、僕クラスの馬鹿になるとこのゲームをやったところで身につかないうえに、勉強に飽きてしまうんですよ。因みに、受験生の時に勉強するためにこのソフトを買おうとしたら、妹に「それはダメ。勉強できない人にはあまり意味が無いよ」って怒られました』


あの時の来夢のことはよく覚えている。

去年このゲームのパッケージを見て、持っていこうとしたら本体がない、というのと買ったところで僕には意味がないって、笑顔で怒られた。

あの時の来夢は少し怖かったからよく覚えてる。


『え、そこまで?』

『僕の馬鹿っぷりをなめないでください!』

『威張れることじゃないと思うけどな……。それで、2つ目は?』

『単純に僕自体攻略したら終わってしまうゲームがそこまで好きじゃないからですね。どちらかというと最後が見えているゲームじゃなく、いつまでも遊ぶことができるアトラクションゲームの方が好きですかね』

『あー、レース系のゲームとか?』

『はい、そんな感じですね』

『あ、そっち系のゲームほうがよかったかー! ヤマトの好み知らなかったからな~』

『そこは気にしなくても大丈夫です。もともとこのゲームは興味があったの僕としてはできてうれしいです。それに気持ちをこのゲームをしたいという気持ちに切り替えましたから。今はこのゲームが少し楽しみで仕方ありません。』

『ならよかった~』



え、ヤマトってバカなの?

ヤマト様は馬鹿なんじゃない! 技能系に才能がある分、勉強ができないだけだ!

この数分で気持ちの切り替えができるとかスゲー!

さて、何時間かかるかな?

一日で終わる?



『コメント欄が時間を気にしてるね! 時間に関しては大丈夫だよ。最悪、ヤマトにはうちに泊まってもらうから!』

『掃除した半分の理由はそれがありますからね。因みに母さまたちには許可をもらいました』



え、まじ!

百合?

いや、ヤマトは男だろ?

女の子でしょ!



あ、このことをレベッカさまに聞いてなかった。

配信ではコラボしたときに聞くことにしてたのに。


『レベッカさまに質問です。レベッカさまにとって僕は男の子ですか? 女の子ですか?』

『あ、サクラさんに聞いていた質問だね! そうだね~。私にとってはメイドかな?』

『ということは女の子ですか?』

『う~ん。そこはどうでもいいよ。ヤマトには執事服よりもメイド服の方が似合うと思っただけだから!』

『さすが、メイド喫茶好きのレベッカさまですね』


これはどちらでもいい。楓さまと同じ感じかな。


『さてと、雑談はこれくらいにして、ゲーム始めようか!』

『そうですね』


この時、僕たちは思いもしなかった。

この企画の酷さと、僕の才能の一部が解放されることを……。


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