第57話 ひとりで電車旅
5月4日木曜日。
普通ならゴールデンウィークに入ってまだ前半のところだけど、毎日が休み状態の僕はともかく、来夢にとってはもうすぐで終わりを迎えてしまう。
結局、昨日は兄さんと義姉さんは帰ってこず、来夢はやりたいことがあるからと使っている部屋に行き、母さんと父さんのイチャつきに耐えられなかった僕も自分が使っている部屋に戻って、オフコラボの準備をしてそのまま寝た。
起きた時間は朝の5時。
9時に集合だから、ちょうどいい時間かな。
1階に降り、リビングに行くけど、昨日とは違い部屋の電気はついていなかった。
つまり、僕が一番起きである。
だからと言って暇なわけではない。
昨日の夜、レベッカさんに送ってもらった住所を調べてみたら、東京の八王子市に住んでいるみたいで、電車を使わないと行けないみたい。
その時初めて知ったけど、東京にも『市』ってあったんだね。
僕はその時まで、ずーっと『区』だけかと思ってた。
霧江さんと一緒に電車に乗ることはできたけど、今日は僕一人。
兄さんと義姉さんはいないし、父さんと母さんは……多分起きてこないと思う。
来夢を連れて行ってもいいけど、来夢にも予定があると思う。だから期待はできない。
幸い、今日は休日。通勤している人もいないと思うし、東京のお店は10時~11時の間で開くと思うから、僕が乗る時間帯には、人はたくさん乗ってこないと思う。
後は僕が乗り間違いや迷子にならないかの心配だけ……。
「……それにしても、やっぱり見間違いじゃないんだよね。同じ東京なのに1時間30分もかかっちゃう。それに電車も3つ乗り継ぎがあるみたいだし……大丈夫かな?」
今になって心配になってきたけど、東京に来て早6日。そろそろ東京にも適応していかないとね。
「……あ、念のために今日の天気予報見ておこ」
雨だったときは、傘が必要になるからね。
5時を過ぎたとは言え既に朝。
朝の情報番組は祝日だというのにいつも通り放送されている。
今日の東京の天気は曇りのち雨。午後15時からの降水確率は90パーセントのようで雨が降ることは確実。
雨は明日のお昼まで続くみたいで泊まるにしろ、傘は絶対にいる。
忘れないように持って行かないといけない!
あー、今になって緊張で指が震えてきた!
それにしても、昨日のうちに準備を全部済ませちゃったから暇だなー。
家を出るのは……7時で大丈夫だから、あと2時間。それまでのんびりしておこう!
のんびりするために、急いでシャワーを浴びて体を洗い、今日着ていくっ服に着替えてから荷物を持って降りて、ソファで横になる。
しばらくソファでゴロゴロと横になっていると、僕が起きてから1時間たったころに来夢が1階に降りてきた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう来夢。僕、今日の7時に家出るんだけど、ご飯って作ってもらえないかな? 今はテレビ見ながら落ち着かせているけど、違うことするとひとりで電車に乗らないといけないという緊張で指振るえるんだ」
「別にいいよ。……え、ひとりで電車に乗るの?」
「うん。母さんたちはまだ起きそうにないからね」
「お義姉ちゃんたちは?」
「まだ帰ってきてない」
兄さんが帰ってきてたら車を出してもらえたかもしれないけど、それももう望めない。
父さんと母さんはこの時間になっても起きてこないってことは、多分まだ寝てると思うから、結局僕一人で行くしかない。
「普通の朝ご飯でいいよね?」
「うん」
「あ、お米がすでにたけてる。冷蔵庫には卵があるから……目玉焼き作るから少し待ってて」
「はーい」
食べ終わったらもう出ないといけないかな。
それにしても父さんたちがいないだけでこの家はとても静か。
実家にいるみたいな感じがする。
朝食の準備をし始めた来夢のもとからいい匂いが僕のもとにまで届いた。
朝の空腹を誘うような匂い。多分ウインナーソーセージかな?
「お兄ちゃん、できたよ」
10分ちょいで完成した朝食はいつも家で食べている朝食そのまま。
「いただきます」
「いただきます」
一口、また一口と箸を進める。
やっぱり来夢と二人で食べるご飯はおいしい。
今日は昨日みたいに目の前でイチャつく人たちもいないし、ゆっくりと食べることができた。
「そういえば、来夢は今日どこに行くのか決まってるのか?」
「うん。父さんと母さんと野球見に行く」
「野球? またどうして……」
「前々から野球には興味あったんだけど見る機会ってなかなかないじゃん。ほら、宮崎だとプロ野球の生放送ってたまにしかないし、見る機会ないじゃん」
「あー確かに。宮崎で野球の生中継ってほとんどないよね」
「うん。それにキャンプは宮崎や鹿児島とかであるけど、結局場所は宮崎市付近であるから……」
「ああ、冬にプロ野球選手が来るって言うあれね? よくニュースでやってたけど、行く機会なかったもんね」
「うん。だから試合を見に行きたいって言ったら、お父さんがチケットとってくれたんだ! それも選手がよく見える席!」
「それはよかったね。でも今日昼から雨みたいだけど大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ! 東京ドームだから!」
「じゃあ大丈夫だね。せっかくの機会なんだから楽しんでね」
「うん!」
僕はそこまで野球に興味ないけど、来夢がここまで野球が好きだったなんて知らなかった。
でも野球の公式戦なんてこういう都市に出ないとなかなか見れないから、いい機会かもね。
「ホームランボール捕ったら僕にも見せてね」
「お兄ちゃん。ホームランってなかなかでないから珍しいんだよ! 分かってる?」
「う、うん」
「だから、絶対に期待しないでよね」
「わ、分かったよ。期待しないで待ってるね」
「それでよろしい。そんなことよりも時間大丈夫? もう6時半回っちゃってるけど……」
「あ、本当だ。7時に出れば間に合うけど、迷うかもしれないから、もう行くね! 行ってきます!」
「行ってらっしゃーい! ……あっ! お兄ちゃん、これ冷蔵庫の中に入ってたから持って行って! お父さんから!」
父さんから?
何だろう。
来夢から小包を受け取って中身を見ると、袋に詰められたクッキーがあった。
……なんでクッキー?
でもいいや、レベッカさんと一緒に食べよ!
あとは……なんかのカードかな?
「来夢、これ何か知ってる?」
「うん、それはキッチンの上に置いてあったから、一応小包に入れといたけど、よくよく考えるとそれ持ってた方がいいかも?」
「なんで?」
「そのカードの中にお金が入ってて、切符買わなくても電車に乗れるんだよ」
「そんなに便利なものなんだ……」
宮崎氏はどうかわからないけど、日向市にはそんなハイテクなものないから全く分からなかった。
小包の中にクッキーを戻し、背負っていたリュックの中に詰め込む。
少し隙間を残していたのもあって、何とか中に入れることができた。
カードは落とさないように財布の中に入れておく。
「それじゃあ今度こそ行ってきます」
「行ってらっしゃい。あと、カードは財布の中から取り出さなくても大丈夫だからね」
「うん」
家の外に出てから、最初にスマホのマップアプリを起動する。
正直これなしだと絶対に迷子になる自信が僕にはある
「えーっと、まっすぐ行って、右に曲がって……そのまままっすぐ」
一度スマホを閉じ覚えた道通りに進んで、忘れたらもう一度マップを開く。
一度覚えては閉じて歩き、忘れたらもう一度開いて覚え閉じて歩く。それを繰り返しながら、やっとの思いで駅に着いた。
歩きながらスマホが見れたら楽なんだけど、歩きスマホは危ないからね。
絶対にやっちゃだめだよ。
そういえば歩きながら思ってたんだけど、東京に来てから一人で外を歩くのって初めてかも。
今までは霧江さんや母さんに父さん。楓さんたちがいたから問題なかったけど、一人で歩くのってこんなに大変なんだね。
時間は既に7時前。電車が来るのは7時10分くらいだからちょうどいい時間かな。
来夢に教えてもらった通り、財布を取り出し改札の前まで来た。
この後どうすればいいかわからなかったけど、改札の切符を入れる所の前に光っている平らっぽい場所があったから、そこに財布を置いてみると改札が開いてくれた。
よくわからないけどこれでいいみたい。
ホームで待っていると、すぐに電車は来て一駅ですぐに下りた。
乗り換えないといけない。
さっきまで乗ってたのは日比谷線だったから、次は山手線の外回り? って言うのに乗らないと!
時間がないから少し急ごう!
電光掲示板を見ながら、外回りのホームを探す。
思ったよりも電光掲示板は見やすくて、すぐにホームに着いた。
電車は僕がつくのと同時にホームに到着し、中に乗り込むと、そこまで人がいなかった。おかげでゆっくり座ることができる。
座っている間に、次の乗り換えの確認。
電車に乗るのは好きだけど、楽しめる時間が全然ないや。
10分立ったころに電車を降りて、次の電車に乗り換え。
乗り換えだけで言えば次のが最後!
「確か次は中央線の快速? ってやつだったよね。……乗り換えまでの時間全然ないじゃん!? 急がないと!」
中央線? の八王子行のホームを探すと、すぐそばにあって、移動までそこまで時間はかからなかった。
僕がついてすぐに電車が来て、ここも人が少なかったのもあって、問題なく座ることができた。
少なくとも、数駅は立たないといけないかもしれないというのを覚悟していただけに、嬉しい誤算。
そこからしばらくの間、椅子に座って外の景色を眺める。
東京なだけあって線路の数は多い。あと、建物も。
車輪の音も心地いい。
やっぱり電車って最高!
いつか、新幹線にも乗ってみたいかな。
あと、寝台列車って言うのもあるみたいだから、それにも乗ってみたい。
それにしてもこの電車、最初は二駅ほどとばしてたのに、急に各駅停車になってない?
快速って特急とは違うのかな。
しばらく乗っていると、少しずつ外の景色を見るのも飽き始め、ただ電車の揺れに身を任せ無心になって駅を過ぎていくのを感じていた。
「……住所からは八王子駅が近いからそこで降りるとして、その後は周りに気を付けながらレベッカさんの家に向かえばいいよね」
身を任せた後に、八王子駅に着いたアナウンスが鳴る。
椅子から立ち上がり、ドアから降りる。
改札のところで財布をタッチして外に出ると広がっていた景色は秋葉原や六本木とも違う都会の景色。
でも、どちらかというとこっちの景色の方が落ち着く。
さてと、ここからレベッカさんの家は——。
「あ、いたいた! おーい、ヤマトー!」
道の隅により、スマホを開こうとしたとき僕を呼ぶ声が聞こえた。
声のした方向には、自身の家にいるはずのレベッカさんが手を振りながら僕のもとに走ってきていた。
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