ゴールデンウィーク!!!
第46話 株式会社『宝命生』
「ん、……ふぁ~あ」
目が覚めると最初に見えたのは昨日の朝見たのと同じ景色。
間違いなく兄さんの家。
「昨日は確か、ヴァリアブル・ランドに行って獅喰蓮さんの部屋で寝たんだっけ。あれ、でもここって兄さんの家だよね? どうして……」
「お父さんがあなたたち二人を抱えて連れて帰ってきたのよ」
「……おはよう、母さん」
「おはよう」
僕はリビングで寝ていたみたいで、母さんは洗濯物をたたんでいた。
リビングには僕と母さん以外誰もいない。
「そういえば父さんは」
「お父さんは今日仕事に行ったわ。いちろーも一緒。加奈ちゃんと来夢は朝買い物に出かけたわ。そんなことよりもお風呂入ってきなさい。昨日入ってないんでしょ」
「……そうだった。入ってくるね」
服は昨日着ていた服とは違う。
多分寝ている間に着替えさせられたんだと思う。
昨日は1時間くらい寝るつもりだったのに、まさか12時間近く寝てしまうなんて。
浴槽にお湯は入っていなかったからシャワーを浴びて、汗などの汚れを落とす。
やっぱり朝はシャワーに限るね!
お湯を浴びたおかげで、完全に目が覚めた。
洗面所に置かれていた服を着てリビングに戻ると、洗濯ものをたたみ終えた母さんは朝食を食べていた。
僕のもちゃんと作られている。
「保仁、食べたら出かけるから急いでね」
「……」
「保仁?」
「……あ、保仁って僕のことか」
「寝ぼけてるの?」
「昨日は1日中ヤマトって呼ばれてたから、一瞬誰のことかわからなかったよ」
いやー、まさか自分の本当の名前を忘れてしまうなんて完全に想定してなかったよ。
今度からは気を付けないと。
「ところで出かけるってどこに行くの?」
「それはついてからのお楽しみってやつね。まぁ私の知り合いに会いに行くだけだけど」
「僕知らない人と会うのは嫌なんだけどなー」
「しょうがないでしょ。向こうから保仁に用があるって頼まれたんだから。それにあなたが小さいころに一度会ってるわよ。記憶にないと思うけど」
僕が覚えてない頃というと3歳よりも前ということかな。
そんな昔にあった人ってどういう人なんだろう
「ごちそうさまでした」
朝ご飯を食べ終え、僕は母さんの車に乗って家を後にする。
なんだかこの景色に見慣れた自分が少し怖い。
「そういえばヤマト、あんたガーデンランドさんにスカウトされたんだって?」
母さんももう知ってるんだ。
「うん。東京に来た初日にね」
「どうするか決めたの?」
「まだ、今は東京を見て回ることしか頭にないよ」
「そう。……お母さんの意見としては一緒に住みたいわね。家族で会うことは何度もあったけど、一緒に生活するってことはなかったから。できることなら来夢が高校卒業する前には家族全員で生活したいとお母さんは持っているわ」
「そうだね」
確かに。来夢は今年受験生。
多分少し勉強すればそこらへんの自称進学校なら入学できるかもしれない。
僕は家族と生活していた記憶はあるけど来夢にはそれがまだない。
宮崎の高校に入学したら簡単に引っ越しができなくなってしまう。
かと言って、しばらくたってから引っ越したら、環境の変化に勉強に身が入らない可能性もある。
やっぱり、スカウトの件も含めてこのゴールデンウィークの期間に決めないと。
「はぁ、お父さんともしっかり話しなさいね。多分、あなたたちと一緒に生活したいと一番に思っているのはあの人だから」
「……うん、そうする」
しばらくの間、車からの景色は住宅街が続いたけど、すぐにビルなどがある大都会に出てしまう。
「さぁ、ついたわよ」
車を降りて一番最初に目に入ったものは大きな大きな建物。
もしかしたら宮崎市にはあるかもしれないけど、日向市には絶対にない高さのビル。
……そもそも日向市にビルはないけど。
建物の手前には会社名の描かれたプレートがある。
「……『たからいのちせん』?」
「宝命生と書いて『ほうめいしょう』よ。『
「……ああ、『Homesyo』ね。……母さん、目的地間違えてない?」
「間違えてないわ。今日はここに用があるんだから」
『Homesyo』は日本を拠点にしている世界最大のゲームソフト制作会社。
出来たのは今から、確か20年前くらいの若い会社。
逆に言えば、できてからたった20年で世界一になっている凄い会社。
母さんとのオフコラボで遊んだ『大富豪になって世界旅行』や、アトラクションにシューティングゲーム、レースゲームなど様々なジャンルのゲームを出している。
そんな大きな会社が、僕に一体何の用が……。
「保仁。ついてこないと置いていくわよ」
「あ、待って!」
僕一人じゃ、絶対に中に入れないから先に行かないで!
自動ドアから中に入ると、そこは大きなロビーとなっていた。
当然と言えば当然だけど、人が多い。
母さんのあとを着いて行きながら歩いていると、美人な人がいる受付窓口に着く。
「おはようございます。本日はどのような御用でしょうか?」
「社長に会いに来たの。通してくれる?」
「ご予約の方はお済でしょうか?」
社長さんとの面会って予約を取るだけで出来るんだ。
僕の場合社長さんから呼び出されたみたいだけど、その時も予約がいるのかな?
「そんなもの取ってないわよ」
「え? 取ってないの?」
「うん。あの子から来てって言ってたし、数日前にこの日に来るって連絡入れといたから必要ないと思って」
……母さんと社長さんって一体どんな関係なの?
なんか親しい感じだから友達とかかな。
「お名前のほうをおうかがいしてもよろしいでしょうか?」
「久遠満」
「ただ今確認いたしますので少々お待ちください」
受付さんたちはすぐにパソコンをいじり始めた。
母さんも前々から約束していたみたいだし。
……思ったよりも時間がかかってる。
受付さんたちは集まりながらパソコンを確認し始めた。
何かあったのかな?
「どうかしたのですか?」
受付さんたちを待っていると、奥の通路からスーツ姿の女性がやってきた。
見た目からして、いかにも「できる」って感じの女性。
「あ、秘書子ちゃん、お久しぶり!」
「……お久しぶりです満さま。それで、何かあったのですか?」
なんか母さんが親し気な感じ。
母さんの交友関係は知らないけど、やっぱり大物女優ともなると、凄い人たちと友達になるのは簡単なのかな?
「あ、こちらのお客様が、本日社長と会う約束をされていたらしいのですが、この時間にお名前がなくて……」
「え」
それって所謂、約束したけど、実は違ったっていう恥ずかしい出来事なんじゃ……。
「代わりに変な落書きがあるんです」
変な落書き?
名前がないことも驚きだけど、変な名前の方が気になってきた。
「少し確認します。どれですか?」
「この『宝命家の馬鹿』というものです」
「……あぁ?」
今までに聞いたことのない母さんの声。
確実に怒っている。
それにしても宝命って、この会社の名前じゃ……。
「ああ、これは社長の仕業ですね。こちらのお客様は私が対応いたしますので通常営業に戻ってください。それでは満さまとご子息さま。案内いたします」
「よ・ろ・し・く・ね!」
「よ、よろしくお願いします」
母さんが何で怒っているのかはわからないけど、触らぬ神に祟りなしって言うし触れないでおこう。
エレベーターに乗り最上階に向かう。
1分で最上階に着くと、目の前には大きな扉が立っていた。
「社長。お連れいたしました」
「ありがとう。入っていいよ」
「失礼いたします」
扉を開けると、テレビドラマで見たことのある、『THE・偉い人の部屋!』という感じに奥からは外が見れるガラス。その手前には社長机と椅子に、さらにその前には来客用と思われる椅子に机。
部屋の右側にはトロフィーや、賞状。
左側にはキッチンに食器棚などが置かれていた。
その部屋にはショートボブの女性がただ一人、外の景色を見ながら突っ立っていた。
社長さんがこちらを向くと、その顔立ちにはどことなく見覚えがあった。
美人さんでどことなく優しそうな目。
まるで母さんみたい。
「ありがとう秘書子ちゃん」
「仕事ですので」
さっきから思っていたけど、この「できる」人って秘書子って名前なのかな……。
「社長さん。一つ聞きたいんだけど、『宝命家の馬鹿』って何なのかな?」
「あら奥さん。そのまんまの意味ですよ。あ、ごめんなさい。違いましたね。『宝命家の馬鹿でアホ娘』でしたね」
火に油を注ぐというのはこういうことを言うのかな。
母さんは笑顔なのにそれが怖い。
「……久しぶりに会ったってのに、姉に対しての敬意や尊敬がないわね。
「敬ってほしかったらそれ相応の行動をしなさいよ。姉さん」
姉や姉さんって、ということはこの二人は姉妹ってこと!?
つまり、この会社の社長さん、『宝命役』さんは僕の叔母さん!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます