第32話 オフコラボ feat.夢見サクラ

僕が今している声真似は、父さんの声真似である。

僕が知る中で声が低く、執事にあった声は当様の声くらいしか思い浮かばない。


それに、父さんの声は慣れてるからいちいち声を思い出さなくてもすぐに出せる。


『「お嬢様、それでは配信の続きをしましょう。……お嬢様?」』


今、画面には『神無月ヤマト』が面と向かっている姿と、その隣でうつ伏せになっている夢見サクラ様がいる。

……サクラ様?


隣にいるサクラ様も、うつ伏せで下を向いている。


僕の声真似変だったかな?



どうした?

サクラが急にうつ伏せに……あ、消えた。

なんだなんだ?

ヤマト何かしたの?



『「僕は何もしてないですよ。横を向いたら、急にサクラ様がうつ伏せになっておられて」』

『ご、ごめんなさい』



あ、戻ってきた。

どうしてたの?

……顔がにやけてない?

どうした?



『「どうかしたんですか? もしかして、僕の声が変だったり?」』


だとしたらすぐに違う声に変えよう。


『す、すみません。でもどうしてもその声を聴いてしまうと……興奮してしまうんです』

『……え?』



はぁ?

え、どいうこと?

これは……ヤマトのせい?

……もしかして声フェチ?



『これ僕のせいじゃありませんよね?』

『ご、ごめんなさい。実は私、いろいろな声が好きで、その中でも特に大好きなのが久遠義明さんの声なんです』

『父さまの声ですね』

『はい』



え、衝撃の事実!?

常識組筆頭の夢見サクラのフェチ暴露!

なんとなくわかるわ~

久遠義明の声は神!



久遠義明

僕の父さんにしてベテラン声優。正直家族で最もあったことのない人を上げろと言われたら真っ先に父さんを上げる。

それほどまでにあっていない。

会うとしたら年2、3回くらい。

メッセージでのやり取りだったら年に数十回。本当にそれくらいっしか会っていない。


僕が父さんの知っていることと言えば、ベテラン声優ということと、超カメラ嫌いということくらい。父さんの写真はネットで探しても見つかることはなく、家族である僕たちの住む家にも一つもない。

僕が写真に写るのが嫌いなのは確実に父さんの血を継いでいるからだと言い切れる。



『私、今一つの目標があるんです』

『「なんですか?」』

『せ、声優デビューして久藤さんと一緒のアニメで声優をすることです!』



おお!

ライトノベル作家の次は声優デビュー!

普通にすごい……。

流石に声優はむずくない?



『正直に言うとだいぶ難しいですね。一度諦めた夢ですし、緊張のあまりしっかりとしゃべれないかもしれません』

『「でも、目指すんですよね?」』

『ええ、ヤマト、あなた私のこと応援してくれる?』

『「当然です。お嬢様に尽くすのが僕の生きがいですので」』

『あ、ありがとう……あ、あなたみたいな子を持てて私は幸せ者だわ』


なるほど、このロールプレイングは練習なんだ。

一見、リスナーに対してのファンサービスとも思えないロールプレイングだけど、そのもとにはしっかりとやる理由がある。



ちゃんと言えてなくない?

まだ緊張してるんだから手加減賞与。

ヤマトやりすぎ。もう少し慣れてからにしよう。

ヤマト様、もうやめてあげてください!



思った以上に僕のリスナーが僕に厳しい。


『……ごめんなさいヤマト君。もうロールプレイングはいいわ』

『え、いいんですか?』

『うん。多分これ耐えられそうにない。今も少し興奮してるもん。一回水飲んでくるね』

『分かりました』


席から離れると一瞬だけサクラ様の体が写ったけどすぐに消えてしまう。


『サクラ様、そうとう興奮してましたよ。さっき席立つときも顔がにやけてました』



まぁ、推しの声がすぐ横に会ったら……ねぇ

私ヤマト様の声が横に会ったら興奮のあまり何もしゃべれないかも……

ヤマトは人をダメにする

ヤマトの声はいい意味でヤバい!



『褒められているのならまぁいいですけど、なんか嬉しくないです』

『お待たせ~』

『あ、おかえりなさい』

『えへへ~』


サクラ様はそのまま僕の隣に座った。

そう、何もしないで。



……え?

そこにサクラいるの?

写ってないよ~

どうなってんの?



『サクラ様?』

『な~に~』

『あの、顔認証を……』

『あ、そうだった~』


サクラ様は座ったまま顔をカメラに近づける。

因みにサクラ様とカメラの間には僕がいる。

ということはつまり……。


『あの、サクラ様、少し近いです……』

『えへへ~。』

『わっ! ちょっ!?』



え!?

何々!?

ヤマト! 状況説明!

ヤマト様、まさか……



サクラ様はカメラで顔認証するとともに僕の顔に頬ずりしてきた。

サラサラで気持ちよかったけど問題はそこじゃない。


一瞬、近づいたおかげですぐに分かった。

この匂いはよくお正月に義姉さんと兄さんがいつも飲んでいるので幾度となく嗅いで来た。


間違いない


『サクラ様、お酒飲まれましたか?』

『飲んでないよ~』

『……飲んでますね』


だって、サクラ様は私生活でも常に敬語。

僕と来夢が年下だと分かっていても敬語で話してきたのに、今普通に会話した。


『さすがにこれじゃ配信できませんね。今日はこれまでに……』

『ら~め~、まだ配信するの~』

『ちょ、サクラ様!?』



え、何々?

こんなサクラ見たことない……

常識組のサクラでも酒を飲むとここまで……

……これは、ヤマトもヤバくない?



僕がやばいってなに!? なんて言ってられない!

今のサクラ様は完全に酔っている。


『ちょ、姉さま! 妹!』

『あはは、カナちゃんも妹ちゃんも寝てたよ~。妹ちゃんは疲れでだろうけど、カナちゃんは酒が転がっていたから酔いつぶれかな~。酒は飲んでも飲まれるなってね! あっはっはっは!』

『それはあなたですよ! ちょ! 抱き着かないでください!』



Rinne:

……………………はぁ?

あ、「りんえw」さんいる。

ガチ恋勢筆頭!

修羅場か? 修羅場だな

Kaede:

あっはっはっはっは! やっぱりヤマトは面白い(笑)!



『楓さんこんにちはって、今はそれどころじゃないんでふざけないでもらってもいいですか!? あ、凛音さん、別にいやらしいことしてるとかそういうわけじゃ……』



言葉が完全に浮気男で草

凛音さん怖ぇ

修羅場だ修羅場だ!!

面白い展開になってきた!



『ヤマトく~ん、明日はどこに行こうか~』

『ちょ、近い、近い!』

『え~いいじゃん! 私たち友達でしょ~』

『「友達」の距離感ってこんなに近いんですかね? 今抱き着かれてるんですけ……』

『どうぜんらよ~』



いやいやいや、ないないない!

普通男女の友達は抱き着いたりしない!

同棲ならあり得るけど……

それはもう恋人間の距離!

Rinne:

……………………はぁ??

怖い怖い怖い!

凛音さんだけじゃなく、『ヤマト様親衛隊』たちも無言すぎるのが怖い!



『違うみたいですから離れてください!』

『もうケチ~』


何がケチなんだろう……

ってそんなことよりも!


『皆さん落ち着いて、皆さんだってありますよね! お酒で酔ったら思いがけない行動に出てしまうっていうこと!』



……まぁ

飲んだことないから分からない。

酒に強い方なので……

確かに、記憶が飛ぶことは多々あるかな?

ってか、ヤマトが酒のことに語っていること自体おかしい気が……



『僕は飲んだことないですよ。ただ兄さまは酒を飲むとよく裸になるので……』



兄に飛び火w

関係ないのにw

いちろー(ヤマトの実の兄):

おい! ばらすな!?


本人見てたw



『あ、いちろー先輩ちゃ~す。さっき加奈ちゃんの寝顔送っといたよ~。お休み~』

『ちょ、僕の膝に頭置かないでください!』



膝に頭!?

説明!

Rinne:

…………………………ああ?

ヤマト! 凛音をどうにかして



『凛音さーん。僕、優しくてかわいい凛音さんが好きだな~。皆様を怖がらせる凛音さんはあまり見たくないかなー。だから怖がらせた皆様に謝ってね~』



Rinne:

ごめんなさい

はやっ!

従順

まるで扱いがペットw

まぁこれでヤマトの膝枕がどうにかなるわけじゃないんだけど。



やっぱりそうだよね~。……さて、どうしようか。

……そうだ! あの人になら飛び火してもいいや


『そういえば兄さま。カナママの寝顔どうでしたか?』



いちろー(ヤマトの実の兄):

メッチャかわいかった~。

……っち!

イチャラブこくな!

当てつけか!

このスッポンポンの変態!



よしよし、いい感じに兄さんに飛び火してくれた。

思った通り。


サクラ様も寝たことだし、この辺でいいかな。


『サクラ様も眠られましたので、今日はこのくらいにしたいと思います。本日は僕と楽しい時間を過ごしていただきありがとうございます。それでは行ってらっしゃいませ、ご主人様「乙サクラ~」』



乙サクラ~

行ってきまーす

また来るねー

乙サクラ!

またね~!

またサクラ!

……またさくら、はさすがに変

……なんかはぐらかされた気がする。

……あ、



そのまま配信は終了を迎えた。


***

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