第22話 会話デッキと悪夢
凸待ち配信。
簡単に言ってしまうと通話アプリに誰かが突撃してくるまで待つ配信。
誰かが来るまでは配信者が会話を繋いでいないといけない。
基本は周年記念や誕生日記念に凸待ち配信をする人は多いけど、僕の場合は罰ゲームでの凸待ち配信。
意味合いがだいぶ変わってくる。
凸待ち配信するVtuberはみな同じ界隈や芸能界の友達が多いから成立するものであり、僕の場合はVtuberの友達がいなければ芸能界の友達もいない。
だからこそ僕の場合は家族以外凸してくれる人がいない。
それでも凸してくれる人がいるだけ幸せかな。
今から考えるのはそんな家族たちに聞く会話の質問。
正直、いまさら何聞けばいいのか。と思ってしまい、何も考えが浮かんでいない。
一応、トリッターの方でも現在質問募集中である。
「僕の方でも何か質問考えないとな~。でも、確実に来てくれるのは母さんと来夢、義姉さんは多分来てくれる。問題は父さんと兄さん。一応父さんの連絡先は母さん経由でもらったけど来てくれるかな。兄さんに至ってはアプリを持ってすらいないし」
だから見込めるのはこの三人だけ。
そろそろ質問集まったかな?
トリッターを開き、質問募集のコメントに来ている返信を見てみる。
「う~ん、やっぱりヤマトの性別に関することが多いな。でも確かに来てくれた人に性別聞くのはいいかもしれないね。他には」
スライドしていくと、いくつか面白そうな質問が目に入ってきた。
「『せっかく来てもらうんだし、何か宣伝してもらう』確かに、母さんに関していえばドラマを宣伝することができる。『ヤマトの第一印象』あー、これは僕も気になる。義姉さんや母さんはなんていうのかな? 『執事になった来夢にしてほしいこと』……これもなかなかいいかも。母さんやライムは無理難題言ってきそうだけど、義姉さんはなんて言ってくるのかな? ……はぁっ!?」
途中まで面白い質問が来ていたと思ったのに、下の方にはとんでもない質問が描いてあった。
「ぱ、『パンツの色』って、読み間違いじゃないよね!? え、本気? 確かにVtuberは凸してくれたVtuberにパンツの色聞く人はいるけど、僕の場合はいろいろアウトだよ!? なんで家族のパンツの色を僕が聞かないといけないの! そもそも僕男だから、女性にパンツの色を聞いたらセクハラだし! ……あ、僕の性別不明だから女の子でもあるか。いや、それでも……」
この質問は入れないようにいろいろと反対意見を考えてみるけど、どうしても僕の頭が入れた方がいい! と押してくる。
だって、この質問を僕が家族にするのって変態チックだけど絶対に面白いもん。
だけどもし、家族以外が来たらって考えると入れたくない僕もいる。
……よし、決めた!
時間かかったけどこの際だから入れちゃおう! なるようになれ!
その後、自分の考えた質問と、トリッターから募集した質問を合わせて、計五つの会話デッキができた。
「えーっと、流れとして、挨拶してもらった後に少し会話をして『ヤマトの第一印象』次に『あなたにとってヤマトは男の子? 女の子?』。そのあとに『今後、コラボするとして何かやりたいこと』、次に『パンツの色(可能な限りお願いします)』で、最後に『何か宣伝したいこと』でいいかな」
改めて見直してみると普通に家族との会話に使う会話デッキじゃない。
やっぱり『パンツの色』のインパクトが強い。
これでもし父さんが来たときどんな顔をして聞けばいいのか。
「ただいま~」
「あえ、お帰りって今何時?」
時計を見るといつの間にか16時を回っていた。
「やばい! 買い物行ってない! ごめん来夢。今からお買い物行ってくる!」
「昨日行った」
「え?」
「今日も起きないかもと思ったから。おはようお兄ちゃん」
「あ、おはよう」
おはようって時間じゃないけど。
それにしても何か忘れているような……あっ!
「来夢ありがとね」
「何急に」
「僕の代わりに動画編集に投稿してくれたでしょ? おかげで助かったよ」
「ああ、別にいいよ。お兄ちゃんが頑張っているのは知ってたし、起こすのも悪かったから」
「来夢~!」
やっぱり僕の妹は超優秀!
「そうだお兄ちゃん、今日と明日は私が家事全般するね!」
「それは嬉しいけどどうして?」
「だってお兄ちゃん起きたばかりでしょ。だから多分体がなまっていると思うの。そんな状態で体動かしたら危険だよ」
「いやいや、そこまでないよ」
「……それに、明日は配信でしょ。だから私がしてあげるの!」
「今まで金曜日は僕がしてたのに何で?」
「そういう気分だから!」
なんだかよくわからないけどしてくれるって言うんなら来夢に任せちゃおうかな。
「分かったよ。ありがとうね、編集までしてもらったのに」
「気にしないでいいよ。まぁ、あんな長い動画の編集なんて二度とごめんだけど」
「あはは」
来夢の言葉に甘え家の中でのんびりすることにした。
そういえば母さんたちのドラマ見てなかったしそれでも見ようかな。
***
『ご主人様、お帰りなさいませ。あなたの神無月ヤマトです。本日は僕の配信にきて下さりありがとうございます』
ただいまー!
今帰りましたー!
私のヤマト~
俺のヤマトさんです!
違う、僕のだよ!
私たちのヤマトで争わないで!
そうよ、ヤマトはみんなのものよ!
『罰ゲームとはいえやるからには真面目にやります。ですので皆様に募集した質問の中から5つ、できる限り聞いていきたいと思います!』
おお、おお! ……おお?
最初はいい、二番目と三番目も。
パンツの色ってマジか!?
ヤマト様のエッチー
『違いますよ!? トリッターで募集した質問にあって、面白そうだから入れただけです! 他意はありません』
ホントか?
実は本当に興味があるだけだったりして……
ヤマト様がそんなことするわけありません。
そんなに気になるんだったら俺の色、教えてあげようか?
『あはは、それでは凸待ち配信を始めていきたいと思います! 僕の連絡先を持っている人は来てください』
~10分後~
だ~れも来ない
撫子ママは?
ライムが来るって言ってなかったけ?
独りぼっちのヤマト……
『大丈夫です。独りぼっちに離れているので』
~20分後~
……
凸待ち配信とは?
誰も来ない……
ヤマト、俺たちがついているぞ!
『大丈夫ですよ。まだ、元気です』
~30分後~
始まってもう半分、凸者0
クリぼっち……
『ま、まだまだ大丈夫です!』
今撫子ママのトリッター見たけど緊急の仕事が入って凸できそうにないらしい。
マジ!?
ライムのトリッターにももう寝るって書いてあった!
え、それって……
あ
~60分後~
『え~、というわけで凸待ち配信を終わりたいと思います。本日凸してくれた人は……0人です』
げ、元気出せ~
や、ヤマト~
次、次リベンジしよう!
コメント欄が慌ててて草
『本日は僕とタノシイ時間を過ごしていただきありがとうございます。それでは、行ってらっしゃいませ、ご主人様』
い、行ってきま~す。
楽しいに気持ちがこもってなかった。
落ち込み具合半端ない!
……
……
おい、親衛隊が息してないぞ!?
救急車を呼べ!
***
「うわああぁぁぁぁぁぁ!? はぁ、はぁ。え、暗い! 今何時!?」
目が覚め、急いでスマートフォンの時間を確認してみると時間は土曜日の朝の4時半。
さっきのは、夢だった見たい。
本当に嫌な夢を見ちゃった。
二度寝しようにも全然眠くならない。
むしろ目がぱっちりと開いてしまっている。
「お兄ちゃん、大きな声を上げてたけどなんかあったの!?」
「あ、来夢。おはよう。少し悪夢? ……悪夢じゃないかな、いやな夢見ちゃってね」
「嫌な夢? 大丈夫?」
「うん、全然問題ない、と思うよ」
ただの夢だしね。
何も問題ない……よね?
「もし何かあったらちゃんと吐き出してよ。無理はしないでね」
「うん。分かってるよ。あ、じゃあ今から一緒にゲームしない?」
「……今何時だと思ってるの」
「いやー、実は見た夢っていうのが幽霊の夢でさ、一人でいるのは怖いから一緒にいたいな~、なんて」
「……はぁ、まぁ私も目が完全に冷めちゃったから別にいいけど」
やった!
これで暇な時間を一人で過ごさなくても済む!
「じゃあ少し早いけど朝ごはん食べたらさっそくゲームしようか!」
それから僕たちは朝食を食べて、昼ごはん直前までにたくさん買いためていたゲームを一気に消化した。
時間は刻々と過ぎていく。
地獄の凸待ち配信まで、あと10時間をきっていた。
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