第13話 朝の情報番組 エンタメコーナー
朝の5時。
それは早起きにはちょうどいい時間。
起きた後に朝の風を浴びると、寝起きの体に涼しい風が当たり、一気に目が覚めいい朝を感じる。
しかし、それは早寝早起きした人にとっての朝5時。
僕にとっての朝5時とは少し違う。
「なるほど、ここで視線を少し下に向けて……、あっ、今視線が一瞬上向いた! ダメだなこの人」
「お兄ちゃん、おはよう」
あれ? まだ5時だよね?
今日は早起きだなー。
「おはよう来夢。今日はだいぶ早いね」
「うん。昨日はお母さんのドラマを見た後すぐ寝たから。お兄ちゃんはいつもの?」
「うん。もう少ししたら終わるよ」
「ふ~ん。やるのはお兄ちゃんの自由だけど無理はしないでね」
「大丈夫!」
来夢は顔を洗いに洗面所へと向かい、僕は作業を再開する。
「うーん、主演がお母さんと凛音さんと聞いて、相手の男性もなかなかの役者かと思ったけど、あまり集中できていないね」
僕が今している作業。
それは母さんが出ているドラマの役者さんの良かった点や、ミスした場所を探すことだ。
昔、母さんにこれからを生きていくには人間観察を心がけたらいいと言われ、その日から母さんの出ているドラマはすべてチェックし、逐一母さんに報告している。
「この人は確かアイドルだったはず。えーっと……今回が初めてのドラマ」
ネットで調べてみるとその男性は昨年デビューしたばかりのアイドルらしく、今回が初ドラマ。
素人だと母さんの演技力に食われてしまうのに、1週目で違和感なくみられたのは男さえ振り向いてしまうようなイケメンの顔立ちと、ひたむきな努力が表に出ているからかな。
ただ、集中してみると一瞬だけ目が泳いでしまいがち。
それが困惑するようなシーンなら問題ないのに、普通の会話しているときも微妙に目が横を向くことがある。
多分だけどセリフを途中で忘れて、一瞬で思い出した感じかな。
大きなミスはしてないからそこまでは問題ないと思う。
これで、男優の観察は終え、最後に凛音さんの観察に入る。
正直一番これがドキドキしてしまう。
凛音さんは子供のころから子役として活躍しているけど、母さんとバラエティー番組で共演することはあっても、ドラマ共演はこれが初。
つまり、いつもは見ているだけの凛音さんの演技を今日はじっくり観察しないといけない。
やる僕の方が緊張してしまう。
「お兄ちゃん。朝のニュース見たいからそれ後からやってくれない?」
「あ、はい」
いつの間にか戻ってきていた来夢により、いったん手を止めざる負えなくなった。
時間はすでに5時半。
思ったよりも時間の進みを早く感じる。
「そういえば今日だよね?」
「……ああ、凛音さん?」
「うん。なんだっけ。日曜日に体調崩して月曜日は様子を見るために休み、エンタメコーナーは今日の金曜日に時間を変更したんだよね?」
「そう! だから月曜日の録画は消して、今日に録画しなおしてるよ!」
「私はどうでもいいけど、お兄ちゃんは残念だったんじゃないの? 週の初めに飛鷹凛音さんを見れると思ったのに4日もお預け食らって」
それは確かにそうかもしれない。
今週の月曜日は心配のあまり寝込んでしまった。
おかげで火曜日に動画の企画を考え、撮影・編集を済ませて急いで投稿しないといけなかった。
「まぁ、凛音さんが元気ならいいかな。今はドラマの撮影中で過密スケジュールだったかもしれないし」
「確かに、過密スケジュールじゃなかったらお母さんが2年近くも帰ってこないなんてことないもんね」
「そうそう、だからご飯食べながらテレビを見ようか」
急いで録画からチャンネルにかえ席に座る。
『それでは最初のエンタメです。本日は現在女優として人気急上昇中の若き17歳、
『よろしくお願いします』
『本来は月曜日に最後の放送予定だったのですが、前日から体調を崩されてしまったとのことで今日の放送となりました』
『ご迷惑おかけして申し訳ありません』
『いえいえ、気にしないでください。それよりも体調の方は大丈夫ですか?』
『はい、おかげさまで』
『それは何よりです。それではエンタメのコーナーに入りたいと思います。最初のエンタメは『天才Vtuber現る!?』です。凛音さん。これは誰のことか分かりますか?』
『はい、これは間違いなく先週もお話ししたヤマトさまんですね!』
凛音さんが僕のことを読んでくれた!
という喜びと同時に違和感を覚える。
「さまん?」
「この人、ヤマトの名前を呼ぶときに噛んだね」
どうやら来夢にもそう聞こえていたみたい。
『さまん?』
テレビのアナウンサーも僕と同じ違和感を持っていたようだ。
『すみません! いつもヤマトさんのことをヤマト様と呼んでいるのでその癖でつい……』
『もしかしてですけど凛音さんはヤマトさんの……』
『大ファンです!』
ヤバい!
応援している女優に「大ファンです」と言われて顔がにやけてしまう。
「お兄ちゃん、キモイ」
来夢の言葉が痛い。
『なるほど、では凛音さんにヤマトさんの魅力を語ってもらいましょう』
『はい! 私は今回ヤマトさんの魅力を3つにまとめてきました。一つ目は先ほど言っていただいた通り天才ということです』
『ヤマトさんには声を自在に変えることができるという才能が有りますね。あと歌がうまい』
『そうなんです。今週出た動画は火曜日にヤマトを描くイラスト制作動画、木曜日に出たのは粘土でヤマトを作る工作動画と、ヤマトさんにはほかに才能があるかもと思わせるような動画でした!』
凛音さんに褒められるととても照れてしまう!
「お兄ちゃん、箸が止まってるよ」
『2つ目に大女優の子供だということです! これに関しては一緒に共演している神無月撫子さんに聞いてみたのですが本当のことです』
『ということは公認親子ということですね』
『はい。その中で最も魅力的なのは、親の背中を見ながらも全く同じ道を進むのではなく自分だけの道を見つけ進んでいるということですね』
『確かに。私だったら目の前にお手本があればそちらの道に進んでしまいますね』
『私もです。でもヤマトさんは先が分かっている簡単な道ではなく、まだ見たことのない道に進もうとしています。それだけでも私は尊敬しますね』
「来夢、お兄ちゃんってそんなにすごい?」
「すごいんじゃない? 私の場合は音楽という才能しかなかったからそっちの道に進んだけど、お兄ちゃんの場合は努力していろんな道を見つけているから。だからそのだらけきった顔はやめて」
そんなに顔にやけてるかな?
鏡がないから分からないや。
『3つ目ですがヤマトさんは視聴者を楽しませるのがうまいということですね』
『と、言いますと?』
『ヤマトさんは初配信の時にあえて年齢を隠し、最後に答えるという方法で配信してました。最初は全く分からなかったんですけど、途中でヒントを出して言って最後に分からせるという方法ですね』
『あ、その時間帯私も見ていましたけど、コメント欄が年齢当てで盛り上がってましたね』
『はい。ですがそのほかにも性別不明というところで視聴者に対して「男性」か「女性」かという疑問を抱かせています。これだけでヤマトさんがボロを出さないかと楽しみに見ている視聴者もいると思います。極めつけは炎上してしまったアテレコ動画ですね』
『それは私も拝見しました。実に凄い完成度で、初配信を見ていないとヤマトさんかどうかわかりませんよね』
『はい、それで気になって映像と本人音声を集めて違和感がないか調べてみたんですけど、実はどれにも違う点が一つあったんですよ』
『えっ!』
「えっ!」
凛音さんの言葉にアナウンサーは驚き、朝食を食べ終えた来夢も同じように驚いている。
それにしてもあれに気づくなんてすごい。
実はアテレコ動画。声としては完璧なんだけど、もし初配信で信じてもらえなかったときように一つだけ細工をしていたんだよね。
『今映像ありますか? ……あるそうです。凛音さん。説明お願いしてもよろしいでしょうか』
『はい、私が見たのは映像と声が始まるタイミングです。流してもらうとわかるんですけど……ほらここ!』
凛音さんの話にアナウンサーさんも隣にいる来夢もくぎ付けだ。
そして流れている映像。僕の声と演じた父さんの声がスローで流れており、わずかに父さんの声の方が早く聞こえている。
『た、確かに! ヤマトさんの声よりも本人の声ほうが先に聞こえています!』
『ですよね。それがほかのセリフの時も全部です。これに気づいたとき、私はヤマトさんが狙っていたのではないかと思ったんですけど、この考えはどう思いますか?』
『凛音さんの話を聞いて確かにと納得しましたけど、これを知っているのはヤマトさんだけなんですよね』
『はい、なので次の配信の時でも答え合わせしてほしいなと私は思います』
『だそうです。ヤマトさん。もし見ていましたら是非お願いします!』
『お願いします! ヤマト様!』
そうして僕の話から次の話へと移り変わった。
いつもより早い時間にエンタメコーナーが始まるだけでも驚きなのに、まさか凛音さんが僕のファンだったということに驚きです。
「お兄ちゃん。飛鷹凛音さんの言っていたことって本当なの?」
「アテレコ動画? 本当本当。最初はだれか気づくかと思ったけどまさか誰も気づかないとは思わなかったよ」
「そうなんだ。私、今日は日直だから早くに家を出るね」
「え、うん」
来夢がどことなく元気がない。
もしかして僕の顔って元気をなくすくらいにやけていたのかな。
急いで全面所に行くがそこに写っていたのはいつもの僕の顔。
「行ってきまーす」
「あ、行ってらっしゃーい」
時計を見ると今はまだ午前6時を少し過ぎたころ。学校に行く時間には早すぎる。
そこまで日直の仕事を頑張るなんて兄として鼻が高いよ~
この時、僕は気づいていなかった。
来夢の気持ちと、僕の人生を大きく揺るがす人物が宮崎の地に降り立とうとしていたことに。
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