第5話自己紹介動画の反応

夜10時、私はMytubeを開き、今か今かとソワソワしながら新人Vtuber漁りをしている。


理由はシンプル。私の義弟である保仁くんがデビューするのだ。


楽しみで仕方がない。


私としては〜、保仁くんが楽しんでくれればそれでいいけど〜、出来れば有名になって欲しい。


そうすれば私にも仕事が増えること間違いない。


将来のことを考えていると、お義母さんから電話が掛かってきた。


私は気持ちを引きしめ緑色のボタンを押す。


「お疲れ様です。お義母さん」

『加奈ちゃん。夜遅くにごめんね〜』


お義母さんはいつもよりゆるゆるとした話し方をしている。

オフの時間に通話するなんて珍しい。


「どうしたんですか?」

『いえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……、ヤマトの動画配信って今日よね?』

「はい、今日中に機材の設定を済ませましたので今日中に出ると思います。遅くても明日にはなると思いますが」


私も詳しいことは聞かなかったからな~。


『トリッターの方も音沙汰がないのよね~』

「確かに自己紹介動画を投稿するとしても、トリッターで告知くらいはすると思いますけど」


ヤマトのトリッターを開いてみるが、自己紹介の欄などはいろいろと書かれているが、それ以外には何も書かれていない。


なのにフォロワーがすでに四人もいる。

フォローしている人が誰かをのぞいてみると、一人は私、他に久道義明くどうよしあき。私のお義父さんに神無月撫子、ライムの四人。


何も投稿していないアカウントにフォローしないような人たちしかフォローしていない。


『今日はさすがにないのかしら』

「かもしれないですね。どうします? 電話しますか。この時間だと二人とも寝ているかもしれないですけど。あ、でも保仁くんは三時まで昼寝していたので起きているかもしれないです」

『いいえ、今はやめておきましょう。何か忙しいかもしれないわ』

「そうですね。では——」


そのまま挨拶をして通話を切ろうとしたとき、私のメッセージアプリに一件の通知が届く。

相手は私の愛しの人。一郎君からだ。


「すみませんお義母さん。一郎君からメールが来たので少し見てみます」

『あら。羨ましいわね。一郎ったらここ最近私には連絡よこさないのに』

「あ、あはは」


苦笑いを浮かべながら一郎君からのメッセージを確認する。


『久しぶり~。元気にしてたか? そういえば保仁がVtuberするって言ってたけどあの絵って加奈ちゃんが描いたやつだろ? 少しアドバイスしたら保仁のやつ自分がモデルってさっき気づいて今から自己紹介動画作り直すって言ってた。あいつの芸名教えてくれないか? トリッターでフォローしたいから』


久しぶりのメッセージなのに用件だけの伝えられる。そこが一郎君らしいといえば一郎君らしいけど、少しくらい私のこと気にしてくれてもいいのに~、ってえ。


「お義母さん。多分ですけど自己紹介動画早いうちに投稿されるかもしれないです」

『どうかしたの』

「一郎君が保仁くんに何かアドバイスしたみたいです」

『一郎があの子もたまにはいいことするじゃない』

「一郎君はいつもいいことしてますよ~」

『ふふふ、そうね』


私は一郎君に『神無月ヤマト』とだけ送りアプリを閉じる。

しばらくするとトリッターのフォロワー数は四人から五人に変わり、久藤一郎の名前が追加された。


「それではお義母さん。打合せ通りに」

『ええ、明日は仕事が休みだから今日は何時までも起きていられるわ』

「それは頼もしいです。では通話はこのくらいにして」

『そうね。お互い頑張りましょ!』

「はい」


お義母さんとの通話を終了し、私は再び新人Vtuberを漁る。

みんな可愛いし、イラストがいい。

でも私の描いたヤマトも負けてない。


しばらく待ち、0時を回ったタイミングで『Yamato Ch. 神無月ヤマト』のチャンネルを開くとすでに自己紹介動画が投稿されていた。


時間は4月19日、0時0分0秒。日付が変わったタイミング丁度に投稿されていた。


一度目を通してみると、完成度は高く、時折見える右目が少しエロく感じる。

何よりもイラストと声が完全にマッチしており、女性執事なのか、男性執事なのかがぎりぎりわからないラインになっている。


一言でいうと、最高!


急いでトリッターに移動し神無月ヤマトのアカウントを確認してみると、すでに告知されており、リトリート、いいねが一つずつ。私も急いでリトリートし、いいねを押して拡散する。


これが私とお母さんが考えた作戦。

『私たちの手で神無月ヤマトを有名にしよう!』だ。


まぁ、こんなことしなくてもヤマトは有名になると思うから、早いか遅いかの問題だよね~。ということでこの作戦を決行することになった。


どっちにしても、私たちができるのは多くの人にヤマトを知ってもらうことだけ。後はヤマト次第だけどあの感じなら大丈夫だね。


私は大事なことを忘れていた。

私のファンはそこそこの人数だが、もう一人のファンは私の何十倍もいるということを。




~~~~~~~~~~


とある掲示板


様々なジャンルがある掲示板にて、深夜1時ごろに一つの掲示板は大荒れしていた。


520:名無し

今日の神無月さんのリトリートみました?


521:名無し

>>520

みたみた!


522:名無し

>>520

見てない。どんなの?


523:名無し

>>522

新人Vtuberの自己紹介動画


524:名無し

珍しい


525:名無し

神無月さんってVtuber好きだったの?


526:名無し

>>525

多分違う。

見ればわかるけど、そのVtuberの名前が『神無月ヤマト』だったから何か関係あると思う


527:名無し

>>526

神無月⁉


528:名無し

>>526

さっき見てきたけど、本当に神無月さんがリトリートされてて、名前が神無月ヤマトだった。


529:名無し

自分Vtuber好きなんだけどこのタイプなかなかいない。


530:名無し

これ性別どっちだ?


531:名無し

>>530

声的に女の子じゃない?


532:名無し

>>531

でも見た目は男の子っぽいですよ


533:名無し

俺は女の子だと思うね


534:名無し

>>533

いや、男の子ですよ!


535:名無し

>>534

何言ってるんだ? あんな可愛い声出せるのは女の子しかいないだろ!


536

>>534

私も男の子だと思ってます!


こうして、しばらくの間この掲示板は『神無月ヤマトは男の子か女の子かの論争が繰り広げられた。


~~~~~~~~~~


~久遠満or神無月撫子~


う~ん、いい感じに論争が起きているな~。


ヤマトの初動画配信をリトリートしてから一時間、私は誰がスレを立てたか分からない自分自身の掲示板をのぞいてみると、思った通りのヤマトのことが話題になっていた。


最初は私とヤマトの関係性が気になって出てきた話題だったが、いつの間にか性別がどちらかについての論争に変わっている。


思った以上に反響があり、親としては息子がここまで人気が出て誇らしい気分だ。


私は自分の掲示板を閉じた後、加奈ちゃんこと花村カナのスレを覗きに行くと、こちらも私ほどではないが盛り上がっていた。


こちらはヤマトの話題というよりも花村カナがVtuberの絵師ママになったことで盛り上がっていた。


掲示板を閉じ、トリッターを開いて拡散具合を見ていると、トリッターの方では別の意味で面白いことが起きていた。


私はこれを想像できただろうか?


答えは否。

まさかここまでになるとは全く想像できなかった。


——トリッター——


トレンド


1・神無月撫子


2・新人Vtuber


3・神無月ヤマト


4・神無月家


5・自己紹介動画


—————————


トリッターのトレンド上位をヤマトの自己紹介動画関係が独占していた。


「あはは」


思わず笑いがこぼれてしまう。


私としては少し有名になってくれればよかっただけなのに、いい意味で予想を裏切ってくるとは思っていなかった。


「私のファンの数をなめすぎたかな」


息子の成長している姿を見れられないなんて、これ以上悔しいことはない。


「そういえば撮影の後って予定あったけ?」


メモ帳にあるカレンダーの予定表を確認すると、2週間後の木曜日までは撮影があるが、そこからしばらくは空欄になっている。


「久しぶりに実家に帰ろうかな」


空欄の場所に赤文字で帰省と書き、私は眠ることにした。


その日のうちに『神無月ヤマト』が私を抜き、トレンド1位になったことを知るのはあと6時間後のことである。


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