第3話やはり僕は才能マンらしい

僕は義姉さんの家を飛び出し、自宅へと急いで向かった。


機材は義姉さんが後から持ってきてくれるらしく、僕は完成までの一か月間、動画編集の技術を身に着けるように言われた。


家の鍵を開け、ある部屋へめがけて向かう。


ノックをすることなく、ドアを開けると、そこには驚いた表情を浮かべた来夢が僕を見ていた。


「妹よ、僕に編集を教えてください!」

「……」


僕の妹、来夢は「ライム」と名乗りある活動をしている。

それはシンガーソングライターと、母さんのMytube動画編集。


ライム自身の動画も来夢が行っており、言ってしまえば教えを乞うのにうってつけの人材だ。


「お兄ちゃん、人にものを頼むときは礼儀ってものを身につけた方がいいよ。次からはノックしてね。分かった?」

「……ごめんなさい」

「それで、なんで編集技術?」

「実は——」


先ほど義姉さん宅で起こったことを来夢に話す。


途中で来夢は苦笑いを浮かべながらも真剣に話を聞いてくれた。


「とまぁ、そんなわけでして、大手企業のVtuberは生配信をしても人は集まるんだけど、僕は個人勢だから、最初は動画メインになると思うんだ。だから来夢の編集技術を僕に教えてほしい」

「私に編集してって頼まないの? お金はもらうけどやるよ?」

「それは悪いよ。来夢は学校もあるし音楽制作に、母さんの撮影動画編集と忙しいでしょ?」


来夢はしっかりしているから忘れがちだが、まだ14歳の中学二年生だ。これ以上の激務は中学生の域を超えてしまう。

お兄ちゃんとして来夢には楽しい学校生活を送ってもらいたい。


「言っとくけど、受験勉強の時は優しく教えたけど、本気で動画編集を身に着けたいなら厳しくいくからね」

「よろしくお願いします」


こうして兄弟の一か月で動画編集を身に着ける修業が始まった。

……が、三日後に事件は起きた。


いつも通り中学から帰ってきた妹に、今日一日で編集した動画を見せた時、なぜか嫌な顔をされてしまう。


自分の中では会心の出来だっただけに不安になってしまう。


「ど、どうかな? 僕としては最高の出来だと思うんだけど」

「……お兄ちゃんって教えがいがないよね」

「それってどういう意味ッ⁉」


いきなり悪口を言われたかと思ったら、来夢は涙目を浮かべていた。


「何でこんなに完璧なの⁉ 私が教えたのって一日だけだよ! 教えるって言った次の日は三者面談で夜遅かったから教えられなかったし、次の日は仕事があったから一時間だけ教えた後私の仕事を見せただけだし、なのになんでそれだけでこんな出来ができるの⁉」

「我ながらこの才能が恐ろしい」

「私だって、この技術を身に着けるのに数か月はかかったのに……お兄ちゃんのバカ!」


どうやら妹にねたまれてしまうくらい好評のようだ。本当に我ながら自分の才能が恐ろしく感じてしまう。


だが、ここで問題も出てきてしまった。

モデルが完成するまでの一か月間、編集技術向上と台本制作に使い切ろうと思っていたが、たったの三日で先生(妹)を抜いてしまったようだ。

そして台本だが、全くできていないものの、作るのに一か月もいらないと思う。


義姉さんに何をしようか聞こうにも、三者面談の後集中したいからしばらく連絡に対応できないと言われてしまった。


発声練習、演技の稽古はいつも通りとして、どうしたものか。


それからの日々は台本を三日で完成させ、声当てしながら録音し聞き直して、書き直しをする日々が続いた。


すると面白いことに、来夢は三年生へと進級し、高校生は入学式を終えていた。

そして僕のもとに、PC数台と、モデルを動かすための機材が届き、動画撮影ができる状態へとなった。


そう、思ったよりも早く、一か月というのは過ぎ去ってしまったのだ。




番外編


三者面談


高校受験に失敗し、義姉さんに誘われVtuberになると決めた翌日、僕は自分が所属していた中学校へと来ていた。

横には私服姿の義姉さんがいる。昨日とは違い、髪も整っており服もしっかり着ている。


廊下に座って担任を待っていると、体育館から僕の同級生と思われる生徒が続々と出てき始めた。

恐らく、高校受験に成功し、今年の四月から高校生になる人向けの説明会だったのだろう。

僕とは関係ないものだ。


「お待たせしました」


体育館から出てくる生徒がまばらになると、ようやく担任の先生が来てくれた。


「問題ありませんよ。本日はお義母様が仕事でこれませんので、代りに義姉である私が来たことご了承していただけると助かります」


僕は今非常に驚いている。いつものほほんとしている義姉さんが今日はしっかりしている。それも不自然なくらいに。

僕の中には驚きと違和感しか残らなかった。


「いえいえ、保仁くんのお母さまが多忙なのは知っていますのでお気になさらないでください。それではこちらへ」


先生に案内され、僕と義姉さんは教室の中へと入り椅子に座る。


「保仁くん、今回は残念でしたね」

「あ、はい」

「一応聞くけど、今後どうするかは親御さんと話はしたのかな」

「はい、……しました」


今になって思い出す。僕はこの担任とあまりしゃべったことがない。いや、この学校にいるほとんどの人とのほうが正しいかもしれない。

だからだろう。言われることに何とも思わないのに、早く帰りたいと思ってしまうのは。


「一応聞くけど親と同じ道は目指さないんだね?」

「はい。僕には僕の道があるので」

「分かりました」


僕への話は終わったらしく、目線は僕から義姉さんへと向かった。


「保護者様は今回のことどう思われますか?」

「どう、というのは?」

「はっきり申し上げますが、私個人としては才能を発揮しないのはもったいないと感じるのです」


昔からよく言われた言葉だ。入学当初はそこまでなかったのだが、時がたつにつれ新しい先生が入ってきた。

そのたびに役者は目指さないのか、才能がもったいないよ。そればかりを言われるようになってしまう。


「今回保仁くんが受けた高校はお世辞にも学力が高いと言えるような学校ではありません。また、中学一年の時は二十点台だったテストも、三年時はすべて一桁代です。正直私としては彼には役者の道しかないと思いますが」


この場に母さんがいなくて良かった。

母さんがいたらこの教師は平手打ちを食らっていた。


僕は気にしていないが、義姉さんは気にしていたようで、机の下で握りこぶしを作りながら話し始めた。


「どうしてあなたは保仁くんの道を勝手に決めようとしているのですか」

「いえ、別に決めようとは……。ただ私は担任として彼のことを思って……」

「それは保仁くんが望んだことですか」

「いえ、ですから……」

「結構です。もう話すことは何もありませんのでこれ失礼します」


そう言い残し僕は義姉さんに腕を掴まれ、一緒に教室を出て行った。


「なんなの〜あの先生〜。私が在校していた時あんな先生いなかったよ〜」


そういえば、兄さんと義姉さんもこの学校の卒業生だっけ?


「義姉さんがいた時からずいぶん経ってますから、だいぶ変わっているんじゃないですか?」

「確かにね〜ってあれ? あの先生まだいたんだ〜。保仁くん、知り合いの先生いたから私少し行ってくるね〜。先に帰ってていいよ〜。あ、それと暫くはモデリングに集中したいからあまり連絡はしないでね〜」

「分かりました。今日はありがとうございます。それじゃあ」


義姉さんはそのまま1人の先生の元へと走っていった。


その先生は僕に良くしてくれた先生で、ほかの先生が役者をめざした方がいいと言う中、自分の好きにするといいと言ってくれた数少ない先生だ。


義姉さんのいた時からいる先生ならそう言ってくれたのも何となく納得した。


「さて、帰って動画編集の練習でもしよう!」


色々あったが、無事面談を切り抜けられただけでもよしとしよう。




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