ぬいぐるみカフェの日常2

 stuffed&cafe『Mirage』。

 ぬいぐるみ屋にカフェを併設するこのお店にはもう1つの特徴がある。それは接客を担当する者は全員だということだ。

 何故このような状態になっているか。要因は私、西山柚花にしやま ゆずかの能力にある。

 前提として『オルカート王国』に住むほとんどの者たちは魔法を使うことが出来る。この時点で「いや、あり得ないだろ」とツッコミたくなる気持ちは分かる。だって私自身も1年前は魔法はフィクションであり御伽話の世界だと思っていたのだから。しかし、今ではそんな御伽話を信じることになった。転生したと言われれば尚更だ。

 柚花が持つ月桜つきざくらの呪文『夢幻むげんの導き』の基本的な能力は、魔法により精製された不思議な糸を使うことで対象物に命を宿し操ることが出来る。これを利用することでぬいぐるみたちに接客を担当してもらっている。

 現在はひよこのフラン、猫のシャルロット、また私が契約している月桜つきざくらりゅうに代々仕えているというドルチェ・フレミングと一緒に働きながら暮らしている。

 

「それでは、改めて確認させていただきます。ご注文は……」


 注文書を見ながらお客様の要望も確認していく。この作業をどれだけ丁寧に詰められるかでオリジナルぬいぐるみのクオリティが変わる。


「以上で宜しいでしょうか。…かしこまりました。それでは、先程お伝えした受け取り日にお越し下さい。またのご来店をお待ちしております。…ありがとうございました」


 ♪カランコロン


 緊張が一気に解けるが忘れない内に注文書を指定の場所に片付ける。そして、だいぶ期日も迫っているため再び作業机に向かう。


* * * * *

 

「月桜の魔法を願いにかえて。月桜の呪文『夢幻の導き』」


 右手で魔法陣を描きながら唱えると不思議な光り方をする糸や裁縫道具が出現する。ここからが最終作業。ぬいぐるみに使命を授けるのだ。

 お客様からお願いされた内容を確認して、その言葉を呟きながらぬいぐるみの胸元の飾りを縫い付けていく。飾りの種類はぬいぐるみによって違うが今回は青いリボンだ。


「貴方に幸せが訪れますように」


 最後に目を閉じてそっと呟く。この言葉は発動条件には含まれない。しかし言霊は存在すると私は考えている。そのため少しでも力になればとひっそりと続けているのだ。


 ぬいぐるみを撫でながらイメージする。この子が見守る幸せな生活を。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Open mirage!〜特別編〜 雪兎 夜 @Yukiya_2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ