Open mirage!〜特別編〜

雪兎 夜

ぬいぐるみカフェの日常1

「いらっしゃいませ〜! ぬいぐるみをおさがしですか、それともカフェのごりようですか〜?」


 明るくハキハキとした声が店内に響き渡る。この光景にも随分と慣れてきたものだ。そう、糸の端を玉結びしながら思う。


「かしこまりました〜! それではごゆっくりごらんくださいませ〜」


 彼女は相変わらず、ふわふわな話し方ではあるが、接客や敬語もだいぶ板に付いてきたようで何よりだ。

 フランは初めましてでも臆することなく馴れ馴れしい態度で話しかけてしまう。そのため接客業に関しては不向きかもしれない。しかし、ポジティブに考えれば人に壁を作ることなくお客さんに寄り添った接客が出来る。

 それでも第一印象は重要。興味を持って来てくれたお客さんに対しては失礼になってしまうためフラン含め、接客担当には規定のセリフを言ってもらっている。


 (そういえば、この前フランが『ごしゅじんさまのつくったおむらいすがた〜べ〜た〜い!』って言ってたし…。今度の定休日に作ろうかな)


「ただいま帰りました」


「ちょっと私のこと忘れないで下さい! ユズカ様、今日はとっておきの食材が手に入りましたので晩御飯は期待していてくださいね」


「うん。2人ともありがとう。あっ、おかえりなさい。シャルロット、ドルチェ」


 最近、強く感じる。私にとって『おかえり』と言う言葉はとても大切で当たり前では無いということが。それだけ今の生活が愛しいのだ。


「絶対に守らないと…」


「ごしゅじんさま〜、おりじなるぬいぐるみのごちゅうもんです〜」


「今行く」


 いけない。今は営業中だ。私は急いでカウンターへと向かった。

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