あるぬいぐるみの一生
海胆の人
ぬいぐるみの幸せな一生
僕は熊のぬいぐるみ。
あの子の三歳の誕生日にプレゼントでこのおうちに来た。
それからあの子の大切な友達になり、時に腕がもげたりしたこともあったけど、お母さんと言う方に直してもらったりして楽しい時間を過ごした。
やがてあの子がランドセルを背負うようになると遊ぶ時間は減ったし、他にもぬいぐるみが増えたけれど、毎朝「行ってくるよ」といって出かけ、「ただいま」といってくれるだけでも楽しかった。
その後は眺めているだけの時間が増えていったけど時々洗ってくれたりして大切にしてくれているのはわかったから辛くはなかった。
やがて結婚して伴侶とこの家を出て行くときには一緒に連れて行ってくれたのはとても嬉しかった。
あの子に子供ができて、同じようにその子に特別なぬいぐるみがプレゼントされ、時にはその子のぬいぐるみと一緒に遊んだりした。
あの子の子供が大きくなってまた遊ぶ時間が減り、眺めているだけの生活に戻り、そして少しずつ時間がたち、僕もあの子もくたくたになってきた。
あの子も時々入院する様になり、なかなか家に居られないことが多くなったけど、ある日漸く家に帰ってきてくれた。
もう動くこともほとんどできなかったし、いろいろ忘れてしまったようだけれど、僕のことは覚えていてくれたようだ。
でもそんな日々も長くは続かず、ついにあの子が冷たくなってしまった。家族は皆泣いているし、僕も涙を流すことはできなかったけど心の中ではさめざめと泣いていた。
やがてお葬式をして火葬するってなったときに、僕を副葬品として一緒に焼いてくれることになった。あの子と一番長い時間を過ごしたからだって。
とても嬉しかった。小さかった頃の面影はもうどこにもないけれど、僕は貴方の最良の友人になれたことを誇らしく、そして幸せに思うよ。
もし最後に願いが一つ叶うなら、次の世でもぬいぐるみの僕と出会ってくれますように。
あるぬいぐるみの一生 海胆の人 @wichita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます