クンちゃん

柴田 恭太朗

第1話 ぬいぐるみ

おじさん。あたしね、お気に入りのぬいぐるみを探してるの。

クマのぬいぐるみで、クンちゃんって名前。

クンちゃんをギュッと抱きしめると不思議なことがおこるの。

あたしの指からヒュッて炎がでるの。

うん、ぜんぜん熱くないの。あたしはね。

だけどほかのものに火が移ると燃えちゃうの。

椅子とか机とか、お兄ちゃんとか。


お兄ちゃんは熱い熱いっていって燃えてたよ。服とか髪とかチリチリいって燃えてた。そこへお母さんが飛んできて、燃えてるお兄ちゃんを見ておおきな声でさけぶの。きゃあっていながら、あたしのクンちゃんをひっぱるから、あたしはクンちゃんを取り上げられないようにギュッとしたの。

そうしたらまた指からヒュッて炎がでてお母さんにも火がついたのよ。

お母さんとお兄ちゃんはくるくる回りながら熱い熱いって泣きながら燃えてた。


燃えてふたりとも死んじゃった。

お父さんはあたしが小さいときからいないの。だからそれからクンちゃんとふたりきり。クンちゃんはあたしが悪いんじゃないって教えてくれた。お母さんが原因なんだって。お兄ちゃんばかりを偏愛するからいけないんだって。あたしと一緒にいてくれるのはぬいぐるみのクンちゃんだけ。

夜までじっとしていたけど、おなかがすいてきたからおじさんの家をたずねて来たの。


おじさん。あたしね、クンちゃんを見つけたの。

おじさんの家の暖炉の中からクンちゃんのかけらを見つけたのよ。

クンちゃんはね、ぬいぐるみだけど、ほんとうはあたしのお父さん。クンちゃんが内緒だよって教えてくれた。あたしのお母さんは魔女でお父さんをクンちゃんに閉じこめたんだって。あたしは魔女の血を受けついでいるから、炎をだせるんだって。

おじさん、どうしてお父さんを燃やしたのかしら?


かけらのクンちゃんでも、こうしてギュッと抱きしめると……

ほらね、ヒュッといったでしょ?


おじさんもよく燃えるわね。

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クンちゃん 柴田 恭太朗 @sofia_2020

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