枕。

「おはなしをするその前に、こんな事を語りましょう。というのも、物事には準備と後始末ってモンが必要でして。それを怠ると些細な事で災難が降りかかる事もある——」

 最初から芝居かかった話をするこの中年が、更に胡散臭い口調で話し出す。

「ところで今は三月の初め、もうすぐホワイトデーってやつですね。お嬢さんはバレンタイン、どんなモノをプレゼントしたのでしょうか」

 たしかに鮎子はバレンタインで男子にプレゼントをした。しかし、鮎子とこの男は初対面。デリカシーの無さを感じた鮎子はあからさまに不機嫌な顔になる。

「——そんな顔しないで。してないならしてないで良い事だ。そういう真心がこもったモノにも、場合によっちゃあ後始末がいるって事もあるんです。お嬢さんは手間を一つ、省いた事になる」

「誰もしてないなんて言ってませんけど」

「ああ失敬失敬。これからそういう話をするって事なだけで御座います」

「……」

 鮎子の白い視線を感じていてかいないでか。

 男は続きを語り出す。


 ————このお噺は今よりももう少しだけ肌寒い時期、二月の初め頃から始まります。

 先ほど三月の初めという事でホワイトデーというモノを申しましたが、この噺の時期だとバレンタインが近い。

 皆さん、というかお嬢さんもご存じの通り、女が男……なんて云ったら下品ですね。女の子が男の子にチョコレートを渡す日という事になっております。

 最近ではチョコだけでなく様々な贈り物を渡したり、友達同士でやる友チョコ、なんてもんもあるそうでして、それはお嬢さんの方が詳しいでしょう。の知ったかぶりはここまでに致します。

 さて、お噺に登場する女の子、仮にA子さんと呼びましょう。

 こんな呼び方をすると怖い都市伝説、みたいに聞こえるかもしれませんが……その通りです。

 ああ、反応が薄い。気にせず続けて参ります。

 このA子さん、それなりに思いが強い系の女子で御座いまして、とある男の子、彼もBくんと呼びましょう。バレンタインでBくんに何をあげるか思案します。

 自分の気持ちを伝えるには何が良いのか、それを考えた結果、Bくんにを贈る事にしました。

 このぬいぐるみこそが、このお噺の、キモなのです————。

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