父の再婚で、3歳年上の叔母ができた

春風秋雄

父が16歳離れた女性と再婚した

俺の名前は高野純也。俺は高校1年のときまで、親父の孝介と二人で暮らしていた。俺を生んだ母親は俺が小学校の時に親父と離婚して家を出て行った。離婚の理由は俺を気遣ってか、教えてくれなかった。家を出てから1度も俺に会いに来てないので、男でも作って出て行ったのではないかと思っている。そして、俺が高校1年の時に親父が再婚した。親父はその時41歳だった。相手は、なんと25歳。16歳も離れている。どうも、行きつけの飲み屋で働いていたホステスらしい。親父いわく、両親を亡くして、若くして苦労しているのを見ていると、放っておけなくて、それがいつの間にか愛情に変わったということらしい。しかし、そんな若い人を、俺は「お母さん」とは呼べるもんじゃないと思っていたら、その人は「私のことは、お母さんとは呼ばずに、ハナさんと呼んで」と言った。内田華が結婚する前の、その人の名前だ。ちなみに、結婚後数ヶ月経ってから「どうして親父みたいなオジサンと結婚したの」と聞いたことがある。その時のハナさんからの回答は「父の遺言だから」だった。遺言って何よ?と聞くと、生前お父さんは相撲好きで、特に当事横綱だった貴乃花の大ファンだったらしい。そして、ハナさんに言ったのが、

「華、お前は高野という名字の男性と結婚しろ。そうすれば、お前はタカノハナになる」

ということだったらしい。

「これでお父さんも天国で喜んでいるよ」

というハナさんを見て、この人なら家族として受け入れられると好感を持てた。

若い母親が出来たのは確かに驚いたが、それより俺にとって大きな出来事は、3つ年上の叔母が出来たことだ。華さんと6つ年の離れた妹が一緒に住むことになったのだ。名前は麗(れい)さんといった。姉妹が揃うと華麗ということだ。華さんは妹の麗さんを大学に行かせるため、水商売で働いていたとのことだ。麗さんは、大学1年生の19歳。将来は弁護士になるのだと、法学部で勉強している。これは後から聞いた話だが、この春に入学したときの資金も親父が援助していたらしい。華さんも綺麗な人だが、妹の麗さんもとても美人だ。こんな女性と同じ家で暮らすのかと思うと、うれしい半面、どう対応していいのかわからなかった。

うちの家は祖父が建てたもので、1階にリビングと2部屋、2階に3部屋あった。祖父母が他界した今では、部屋は余っている。親父たち夫婦は1階の部屋を使い、麗さんは2階の俺が使っている部屋と離れた端の部屋を使うことになった。つまり2階の3部屋のうち真中の部屋が空き部屋ということになる。


最初は会話するのもぎこちなかったが、気さくな華さんのおかげで、麗さんとも打ち解け、4人での暮らしに慣れてきた頃、やっと親父の休みがとれたとのことで、遅ればせながら親父達夫婦は4泊5日の新婚旅行へいくことになった。その間、家には麗さんと俺の二人きりということになる。

麗さんが作る料理は美味しかった。普段は華さんが作っているが、姉妹で暮らしているとき、華さんは夜の仕事だったので料理は麗さんの担当だったらしい。華さんには申し訳ないが、麗さんの作る料理の方が断然美味しい。

3日目の夕食後、リビングでテレビを見ていた俺は体がだるかった。

「純也くん、顔が赤いけど、熱あるんじゃない?」

麗さんは、そう言って俺のおでこに手をあてる。

「熱い!純也くん、熱あるよ」

そう言われて、俺はやっぱり熱があるんだと、妙に納得した。どうりで残暑が残る中、エアコンもつけていないのに寒気がすると思った。とりあえず、2階の自分の部屋で寝ようと立ち上がりかけたが、目の前がグルグル回るようで、またしゃがみこんだ。

「大丈夫?」

麗さんが駆け寄って、俺に肩を貸してくれる。このところ急速に身長が伸びた俺は、170cmを超えており、麗さんより10センチちかくも背が高い。肩を借りるというより麗さんの肩を抱くような格好で階段をゆっくり上った。麗さんとこんなに近い距離でいるのは初めてだ。俺の胸がドキドキ言っているのは、熱のせいではなさそうだった。やっとの思いで2階まで上がり、俺の部屋の前にきたとき、俺は「あとは大丈夫だから」と麗さんに言った。

「何言ってるの。一人で歩けないくせに」

麗さんはそう言って、そのまま俺の部屋に入ってベッドに俺を座らせた。麗さんが俺の部屋に入ってきたのは初めてだ。

「パジャマはどこにあるの?」

「上から2番目の引き出し」

麗さんがパジャマを取りだし、ベッドに置いた。俺がそれに手を伸ばそうとしたとき、麗さんは俺のTシャツの裾を持ち、思い切り上に引きあげた。すっぽりと首からTシャツを引き抜くと、パジャマの上着を着せてくれた。そして、正面に膝立ちになり、ボタンをひとつひとつ留めてくれる。俺はいきなり裸を見られて少し恥ずかしかった。

「さあ、寝て」

肩を押されて、俺はベッドに横たわった。でも、まだジーパンを履いたままだ。すると、麗さんはジーパンのベルトをはずしだした。

「麗さん、ズボンはいいよ」

「何恥ずかしがってるのよ。いいから大人しくしてなさい」

熱で体が思うように動かないこともあり、俺は抵抗できずにジーパンを脱がされた。若い女性にパンツ姿を見られたことはなく、ましてやその相手が麗さんなので、恥ずかしさでいっぱいだったが、なすすべもなく、パンツの上から股間を両手で隠すのが精いっぱいだった。麗さんはパジャマのズボンをはかせ、夏蒲団をかけてくれた。

「お薬もってくるから、待ってて」

麗さんはそう言って1階へ降りて行った。

しばらくして薬とペットボトルの水、そして体温計を持って入ってきた。薬を飲み、体温計で測ると38度8分あった。

「すごい熱じゃない」

「親父たちには連絡しないでね。せっかくの新婚旅行なのに、心配させたくないから」

「わかった。解熱剤を飲んだから、熱は下がると思うけど、明日になっても熱が下がらないようなら病院へ行った方がいいかな。とにかく、明日は学校は休みなさい。私が明日の朝学校に連絡しておくから、純也くんは寝ていればいいよ」

そのあと、薬が効いてきたのか、俺は眠りに落ちた。

夜中、朦朧とした意識で目を覚ますと、麗さんが俺の体を拭いてくれていた。

「あ、起きた?すごい汗だよ。パジャマ着替えた方がいいよ。起きられる?」

俺は麗さんに支えられながら、起き上がった。予備のパジャマがもうなかったので、Tシャツと短パンにした。着替えを手伝ってもらっても、もう恥ずかしいとは思わなかった。

夢と現実を彷徨いながら、時々麗さんが頭に乗せた濡れタオルを替えてくれたり、体温計で熱を測ってくれているのがわかった。その都度お礼を言ったような気もするが、声にでなかったかもしれない。


目が覚めると、窓のカーテンが明るくなっていた。壁に掛けてある時計を見ると、6時50分だった。熱は下がったようだ。夕べに比べて体は楽だった。ふと横を見ると、麗さんが床に座ったままベッドの端にうつぶしていた。ずっと看病してくれていたのか。その寝顔は19歳とは思えない幼い顔をしていた。俺は思わず麗さんの頭を優しくなでた。しばらくそうしていると、麗さんが目を覚ました。俺は慌てて手を引っ込めた。

「熱はどう?」

「うん、下がったみたい」

麗さんは俺のおでこに手をあてた。

「本当だ。下がったね。学校はどうする?」

「何とか行けそうだから、行くよ」

「わかった。じゃあ朝食を作るね。汗だくだったから、朝食前にシャワー浴びた方がいいよ」

麗さんはそう言って1階へ降りていった。

俺は、麗さんの後ろ姿を見ながら、胸のあたりが熱くなるのを覚えた。駄目だ。麗さんは叔母さんなんだから、惚れたらダメだと、自分に言い聞かせながら、着替えを持って浴室へ行った。


熱を出した日以来、俺と麗さんは姉弟のように仲良くなった。

親父が1階のリビングのテレビを最新型に買い替えた。そして、今まであったテレビを2階の真ん中の部屋に設置してくれた。これは「テレビを見たいなら2階で見て、わざわざ1階に降りて新婚夫婦のひと時を邪魔するな」と親父が言っているような気がしたので、俺は極力1階には降りず、テレビは2階で見るようになった。すると、麗さんも真ん中の部屋に入ってきて一緒にテレビを見たり、お茶をするようになった。俺はすっかり麗さんに向かってタメ口で話すようになり、普段は麗さんと呼んでいるが、からかうときは「叔母さん」と呼んだりした。

「その叔母さんという呼び方はやめてよ」

「だって、華さんの妹なんだから、叔母さんじゃない」

「純也が言うと、年取った女の人という意味で言っているみたいなんだもの」

「俺より3つ年とってるんだから、やっぱりオバサンだよ」

そういうと麗さんはふてくされる。その顔が可愛い。


4人で暮らすようになって2年半経った。俺は高校3年の受験生だ。年の瀬も迫り、最後の追い込みをかけていたある日、麗さんは酔っぱらって帰ってきた。大学の忘年会だったらしい。俺が机で勉強していると、ドタドタと階段を上がってきて、いきなり俺の部屋を開けた。

「純也!ちゃんと勉強してるか?」

「麗さん、俺の部屋に入るときはノックしてと言ったじゃない」

「なんかイヤらしいことでもしていたの?」

「ちがうよ。それより酔っぱらってるの?」

麗さんは俺の言葉を無視して、俺のベッドにいきなり横になった。

「麗さん、寝るなら自分の部屋で寝てよ」

「純也、お水持ってきて」

言われるまま、俺は1階に降り、冷蔵庫から水のペットボトルを持ってきた。ペットボトルを受け取った麗さんは、キャップを外そうとするが、酔っているので、なかなか外せない。しかたなく俺は、ペットボトルを取り上げ、キャップを外してもう一度渡した。むっくり起き上がった麗さんは、グビグビ水を飲んだ。口の横から水がダラダラこぼれている。

「麗さん、こぼれてるよ」

俺はそう言って、ハンガーにかけてあったスポーツタオルを持ってきて拭いてあげた。

水を飲み終わった麗さんは、またベッドに横になった。このまま本当に寝てしまいそうだったので、

「麗さん、自分のベッドで寝てよ」

と俺が言うと

「純也、連れていって」

と、麗さんは俺に抱き起してくれと言うように寝たまま両手を伸ばした。

しかたなく、俺は麗さんの両手を持って起こそうとすると、

「違う!お姫様だっこ!」

お姫様だっこ?俺は麗さんを抱きかかえたことはない。麗さんは160㎝以上あり、決して小柄ではない。普段運動をしていない俺にできるのか?と思いながらも、麗さんを抱きかかえてみたいという気持ちが勝り、俺は麗さんを抱きかかえた。麗さんの体は思ったより、ずっと軽かった。抱きかかえられながら、麗さんは俺の首に手をまわし、しがみついてきたので、俺はドキっとした。

麗さんの部屋に入り、ベッドにおろすと

「純也、パジャマに着替えさせて」

と、麗さんは万歳の恰好をした。

「麗さん、それはダメでしょう」

「なんで?純也が熱出したとき、私が着替えさせたじゃない」

「それとこれとは違うでしょ?」

「いいから、早く着替えさせて!」

俺はドキドキしながら麗さんのセーターを脱がせた。その下はインナーのTシャツを着ていた。ここまできたら、俺も見てみたいという欲望があり、インナーも脱がせ、ジーパンも脱がせた。麗さんはブラジャーとパンツだけの下着姿になった。俺は思わず興奮した。しかし、そんなことはおくびにも出さないように、麗さんの指示で、整理ダンスからパジャマを取り出し、俺のときにやってもらったように着せていく。ボタンをひとつずつ留めているとき、目の前のブラジャーのカップからこぼれた胸を見ていると、触りたくて手を伸ばしたくなったが、勇気が出なかった。パジャマを着せ終わると、麗さんは「サンキュー」と言って、ハグしてきた。そして、バタンとベッドに倒れこみ、そのまま寝息をたてた。

俺はその日、麗さんの下着姿が頭から離れず、勉強が手につかなかった。


俺は麗さんの影響もあり、大学は法学部に入った。地元の国立大学を希望していたが受からなかった。受かったのは東京の私立大学だけだった。麗さんと離れて暮らすと思うと寂しかったので、浪人も考えたが、親父に負担掛けるわけにもいかない。俺は東京の大学へ行くことにした。上京する日、親父よりも麗さんが俺のことを心配してくれた。

「ちゃんとご飯は作って食べるのよ。外食ばかりしてちゃダメだよ」

「わかっているよ。ちゃんとやるよ」

「盆正月は必ず帰ってくるのよ」

「はいはい。わかってます。うるさい叔母さんだなあ」

そういうと、麗さんはいつものようにふくれっ面をしたが、その目は少し潤んでいた。それを見て俺も思わず泣きそうになったので、早々に家を出た。


麗さんは大学を卒業してから、地元の法律事務所でパラリーガルとして働いていた。司法試験はやはり難しいらしく、今は司法書士の資格をとる勉強をしていた。

俺も大学4年になり、地元の企業から内定をもらっていた。来年の春は実家に戻り、また家族4人で暮らせると思うと、心が躍った。この4年間、麗さんに彼氏が出来ないか心配で心配で仕方なかった。電話やLINEでのやり取りでは、彼氏の存在はみとめられなかったので、とりあえずは安心していた。

大学の授業の中で、俺と麗さんは結婚できることを知った。それまで俺は、麗さんは叔母さんなので、結婚できないと思っていた。しかし、それは血の繋がりがある血族の場合で、麗さんは親父の結婚により親戚となった姻族だ。姻族の場合、華さんと俺の関係のように、親子関係にあたるような直系姻族の場合は結婚できないが、麗さんは傍系にあたり、法律上の規制がなかった。当然、法律を勉強している麗さんも、そのことは知っているはずだ。ちなみに、直系姻族の場合、姻族関係が終了しても婚姻は禁止されている。例えば親父と華さんが離婚しても俺は華さんとは一生結婚することはできないということだ。

いくら法律上のことをクリアしても、肝心の麗さんの気持ちがわからない。麗さんが俺に対して抱いている感情は、ひとりの男としてなのか、弟に対してのような感情なのか、判断がつかなかった。


そんな浮かれた気持ちでいた頃に、思ってもみなかった事件がおきた。突然親父から電話があり、

「純也、俺と華さんは離婚することになったから」

と聞かされた。俺は飛び上がって驚いた。

「何でだよ?」

「まあ、夫婦には色々な事情ってもんがあるんだよ」

「だったら、華さんと麗さんは家を出ていくのか?」

「うん、そういうことになる。もうすでにマンションを借りて引っ越しの準備をしている」

俺は茫然とした。今までの麗さんと俺との関係は、家族だからこそ成り立っていた。家を出て、家族でなくなってからも、麗さんはいままでのように俺に接してくれるのだろうか。


それから2週間くらいたったある日の夜、いきなり麗さんから電話があった。

「私いま東京にいるんだけど、純也のマンションって、どこ?」

俺は驚いた。時計を見ると9時をまわっていた。

「どうしたの急に?」

「出張で東京にきたの。日帰りの予定だったんだけど、仕事が長引いて、今日は泊まることにしたんだけど、どこもホテルが空いてないのよ。今夜純也のところに泊めて」

「俺のところ、布団は一組しかないよ」

「私に野宿しろと言うの?」

「わかったよ。それで今どこにいるの?」

「新宿」

「俺のところは立川だから、中央線の高尾行に乗って、立川で降りて。俺駅で待っているから」

それから俺は慌てて部屋を片付けた。


駅まで迎えに行くと、改札からスーツ姿の麗さんが出てきた。部屋の中でくつろいだイメージの麗さんしか知らない俺は、大人の雰囲気が漂う麗さんに見とれてしまった。途中のコンビニでビールとおつまみを買って俺の部屋に帰った。

「意外と片付いてるじゃない」

部屋の中をジロジロ見ながら麗さんが言った。

「電話もらってから、慌てて片付けたんだよ」

「全然女っけがないね」

「当たり前だろ。彼女いないんだから」

「純也は、東京出てから、まったく彼女つくらなかったの?」

「うん」

「じゃあ、もしかして、童貞?」

「それに関してはノーコメント」

「ちゃんと教えてよ。童貞なの?ねえ?」

「うるさいなあ。それより風呂入るだろ。お湯溜めておいたから、先に入りなよ」

俺は無理やり麗さんを浴室に連れて行った。着替えがないだろうと思い、俺のジャージを浴室に持って行ったら、スーツが脱ぎっぱなしになっていたので、ハンガーに吊るしておいた。


風呂から上がった麗さんは、俺のジャージを腕まくり、裾まくりして出てきた。その格好に「せっかくのイイ女が台無しだよ」と、ぶつぶつ言っている。

ビールを飲みながら、親父たちの離婚について麗さんに聞いてみた。

「そんなに夫婦仲は冷めてたの?」

「そんなことはないよ。結構仲良くやってた」

「だったらどうして?」

「まあ、それなりに二人で考えたことなんでしょう」

「麗さんは何か聞いてるの?」

「まあ、ちょっとはね」

「教えてよ。どうして離婚という結論に至ったのか」

「それは私の口からは言えないよ。まあ、時期が来たら教えてあげるかもしれない」

「なんだよ。俺だけ蚊帳の外かよ」

親父たちの離婚についての話はそれで打ち切られ、そのあとは、俺の就職についての話や、将来資格を目指す気持ちはないのかとか、そんな話をした。そろそろ寝ようかということになり、予備の布団がないので、俺のベッドで一緒に寝ることになった。


「夜中に変なところを触ってもしらないよ」

「そんな積極的なことが童貞君にできるのかね?」

「うるさいなあ、叔母さん」

「純也は、明日は大学?」

「明日は講義ないから特に予定はないよ。麗さんは何時に帰るの?」

「明日は有給休暇をもらってるから、明日中に帰ればいいよ」

布団の中に入っても、落ち着かなく、二人とも寝むれなかった。

「これからは、もうあまり会えないのかなぁ」

俺がつぶやくと、麗さんは静かな声で言った。

「会おうと思えば、いつだって会えるし、会いたくないと思えば会うことはない」

「麗さんは会いたくないって、思うかもしれないの?」

「純也は?」

「俺は会いたいよ。一緒に暮らしていたときみたいに、毎日会いたいよ」

「純也は私のこと、どう思っているの?お姉さんみたいな感じ?」

「俺は、麗さんが好きだよ。お姉さんではなくて、ひとりの女性として好きだよ」

「本当?」

「本当だよ」

俺は麗さんの方を見て言った。

「純也は彼女を作ったことがないから、年上の女性への憧れみたいに思ってない?」

「俺は真剣に好きです。来年就職したら、告白するつもりでいたんだけど、この際だから、ちゃんと言います。ずっと麗さんが好きでした」

麗さんは何も言わず、じっと俺の目を見ていた。そして、おもむろに俺にキスしてきた。俺は驚いたが、されるがままになった。それから、麗さんは優しく俺を導き、二人はひとつになった。俺は夢のような時間を過ごした。


「純也、童貞卒業おめでとう」

「麗さん、言いづらいけど、俺童貞ではなかったんだ」

「うそ?いつの間にそんな相手いたの?」

「友達と風俗へ行った。そこで初体験をすませた」

「そうか、でも、もう風俗へは行かないでね」

「わかった。したくなったら麗さんに連絡する」

麗さんはフフフと笑って、軽くキスしてきた。

「引っ越したあとに、お姉ちゃんに、離婚の理由を聞いてみたの」

「何て言ってたの?」

「私のためだって」

「それどういうこと?」

「お姉ちゃんは、私が純也のこと好きだって気づいてた。そして多分純也も私のことを好きだって言ってた」

「それと離婚とどういう関係があるの?」

「お姉ちゃんは、叔母と甥の関係だから二人は結婚できないでしょって。だから離婚すれば叔母と甥でなくなるから二人が遠慮せずに付き合えるでしょって」

「何それ?まったく関係ないじゃない」

「そう。少し法律に詳しい人に聞けばすぐ分かることなのに、バカだよねお姉ちゃん」

「でも、いいお姉さんだね。華さんは」

「うん、お姉ちゃんは、いつも私のことを考えてくれている。大学に行かせてくれたこともそうだし、今回のことも、的外れだったけど自分が離婚しても私の幸せを考えてくれてた。感謝してもしきれない」

「親父は離婚の本当の理由を知ってるの?」

「多分知らない。もともと二人の結婚は、私が大学卒業するまでの経済的援助が目的だったらしく、私が卒業したら、婚姻生活をどうするか話し合う予定だったらしい。だからお姉ちゃんは、それを理由に孝介さんに離婚を切り出したみたい」

親父の性格だから、素直に離婚を受け入れたのが納得できる。

「それで、華さんの誤解は解いたんでしょ?そしたら親父たちの離婚は取り消して、もう一度皆で一緒に暮らせるんだ?」

「お姉ちゃんも、それが可能ならもう一度一緒に暮らしたいって言ってたけど、私が少し待ってって言ったの」

「何で?」

「純也の私に対する気持ちがわからなかったから」

それはどういう意味なのか?と俺が目で訴えると、

「私、純也が東京へ行った日、苦しくて一人で泣いてたの。身を引き裂かれるような気持だった。自分でも知らないうちに、こんなに純也のこと好きになってたんだと、自分で驚いた。純也がいない日々がこんなに寂しくて、つまらないとは思わなかった。盆正月に帰ってきた純也を見て、思わず抱きしめたくなるほど、喜んでた。1年たって、2年たって、その思いはますます強くなって、ふと思ったの。これで、純也が卒業して、また一緒に住むようになったら、私は自分の気持ちを抑えられない。でも純也は私のことどう思っているのだろう、叔母さんとしか思ってないのかもしれない。気の合うお姉さんとしか思ってないかもしれない。もしそうなら、一緒に暮らすのは辛すぎる」

そこまで聞いて、俺は思わず麗さんを抱きしめた。

「だから、お姉ちゃんには、純也の気持ちを確かめるまで待ってと言ったの。もし純也にその気がないなら私は一緒に住めないから、お姉ちゃんひとりで戻ってって言ったの」

「それで今日東京へ来たの?」

「出張は本当だよ。でもホテルが空いてなかったっていうのは嘘。最初からここに泊まるつもりだった。そして、純也の気持ちがどうであれ、明日は純也とゆっくり過ごせるように有休をもらったの」

「ありがとう。明日は、二人でゆっくり過ごそう」

俺たちは、どちらからともなく、再び求めあった。


俺と麗さんは、俺の卒業を待って、すぐに結婚した。就職してしまうと新入社員でいきなり結婚休暇をとることになる。さすがにそれは嫌らしいということで、それなら入社前に新婚旅行をしてしまおうということになった。俺と麗さんが法律上結婚できるということを親父に説明するのはひと苦労だった。麗さんと二人がかりで、六法全書を開き、民法第734条を見せながら、図に書いて説明して、やっと理解してもらえた。


俺と麗さんの新居は今まで通り2階にした。ひと部屋を寝室にして、真ん中のテレビを置いた部屋にタンスなどを置き、そしてもうひと部屋は麗さんと俺の勉強部屋にした。俺も司法書士の資格をとる勉強を始めることにした。二人で資格をとって一緒に司法書士事務所をひらくつもりだ。

4人での生活が復活して4か月くらいして、華さんが妊娠した。俺に弟か妹ができるらしい。華さんはまだ32歳だが、親父は48歳だ。

「孝介さん、頑張ったわね」

麗さんが親父をからかうと、親父は顔を真っ赤にした。

「何言ってるのよ。毎晩毎晩あんたたちの声を聞かされたら、こっちも負けちゃあいけないって気になるわよ」

華さんに言われ、俺と麗さんは顔を見合わせた。

「私たちの声、1階まで聞こえてたの?」

麗さんが恐る恐る華さんに聞く。

「麗の声は大きいからね。ベッドがギシギシ軋む音もするし」

俺たち二人は何も言えず、顔を赤らめた。

「まあ、なんだなあ。あれだけ頑張っているんだから、孫の顔を見られるのも、そう遠くないな」

親父がニヤつきながらそう言うと、華さんが

「あんたたちに子供が出来たら、私にとっては孫なの?それとも麗の子供だから甥か姪になるの?ねえ、法律的にはどうなの?」

俺も麗さんも、それに対して即答できなかった。

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