ぬいぐるみをだくように

だずん

ぬいぐるみをだくように

 わたしは、はつみ。小学1年生。

 きょうは、おともだちのゆうちゃんがくる日なの。


 ぴんぽーん。


 あ、きた!


 どてどて。

 はしってげんかんにむかう。


 がちゃ。


「ゆうちゃん!」

「はつみちゃん!」


 ゆうちゃんとおててをふりあう。


 きょうは、ゆうちゃんをわたしのおへやにあんないするの。


「きてきて~! ここがわたしのおへやだよ!」

「すごーい! じぶんのおへやがあるなんていいなぁ」

「いいでしょー。小学生になったからもらえたんだー」

「でも、おかあさんとちがうおへやになって、さびしくないの?」


 さびしくないっていったらウソになるけど、わたしにはたいせつなものがあるからへいき。


「そんなにさびしくないよー。だって、くまさんのぬいぐるみがあるから!」

「そういうものなの?」

「うん、そういうものだよー」


 ベッドのよこにおいてある、お気に入りのくまさんを手にとる。


「ほらこれ! かわいいでしょ~」

「そうかなー?」


 ゆうちゃんがわかってくれない。なんでだろう?

 こんなにかわいいのに。


 くまさんをだきしめる。


「かわいいから、こうやってだきしめたくなっちゃうんだよ」


 ゆうちゃんが口をぷくーっとつきだしてイヤそうにする。

 なんでかわかんないけど、イヤなきもちにさせちゃったのかな……。


「わかんない。なんで? だってそのぬいぐるみはぬいぐるみじゃん! ぬいぐるみってだきしめられたらうれしくなるの?」


 えー? ゆうちゃんこわいよぉ……。なにをいってるのかよくわかんない。


「え、え。どういうことなのかわかんないよぉ」

「だから、ぬいぐるみじゃなくて……。その、わたしをだきしめてよ……。だきしめてくれたらうれしくなるよ?」


 そっか。まだはっきりとはわかんないけど、ちょっとだけわかったかも。


 くまさんをもとのばしょにもどして、ゆうちゃんをぎゅーってする。

 くまさんとちがってあたたかい。


「えへへ。はつみちゃんすきー」


 ……すごくうれしい。

 だきしめたことですきっていわれて、なんだかクセになりそう。

 たしかにくまさんだとこうならないよね。


「わたしもー! ゆうちゃんすきだよー!」






 そんなことを思い出していた私――晴包はつみ優雨ゆうは今や中学生。一番仲のいい友達だった優雨とはまるで恋人みたいな関係になっている。


 ハグはもちろんのことキスだってしちゃう。恋人と言えるかどうかはわからないけど、くまさんよりもお気に入り――大切な、一番大切な人だ。


 でもくまさんも大事に取ってあるんだよ。

 優雨が見たらまた嫉妬しちゃうから、部屋の奥にこっそり保管しているけど。


 私たちを繋いでくれた、大事な宝物として。

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