ぬいぐるみのびょういん

杜侍音

ぬいぐるみのびょういん


 ここは、傷を負って汚れてしまったぬいぐるみが来院する病院〝プラシュタル〟


 今日は、どんな患者ぬいぐるみがやってくるのでしょう?


「こんにちは。今日はどうされましたか?」


 お医者さんや看護師さんはみなさんと同じ人間です。

 だって、ぬいぐるみを作ったのは人間ですから、治すことができるのは人間だけですもの。


『おいしゃさん、こんにちは。今日は耳が取れそうなの。ご主人様がわたしの耳を持って振り回したのよ』


 人間用の椅子にちょこんと座ったピンク色のウサギさん。ながーい右耳の根元が千切れかけ、中から綿がはみ出てます。


「これは大変ですね。今すぐ縫合ほうごう手術をいたしましょう。ちなみにご主人様はおいくつですか?」

『5さいの女の子よ。元気でとても明るいの』

「では、少し太めの糸を使いましょう。また千切れてしまわないように、幼い子ならば手術跡もバレないでしょう」

『そうね。わたしもご主人様とずっと一緒にいたいもの……!』


 ウサギのぬいぐるみはペコリと頭を下げて、看護師さんに抱えられて診察室を出て行った。

 このように、ぬいぐるみはそれぞれ悩みや想いを持って訪れます。


 おや、もう次のぬいぐるみが来たみたい。


「こんにちは。今日はどうされましたか?」

『体を丸ごと洗って欲しいんです』


 次に訪れたのはイケメンなぬいぐるみ。看護師さんはうっとりしていますが、お医者さんには分かりません。女性向けアニメのキャラクターなよう。


「なるほど。ただ、私の目にはとても綺麗にされているようですが……」

『毎日僕を抱いて寝るからヨダレが……ご主人様には綺麗でいてもらいたいんだ』

「分かりました。では、丁寧に洗浄いたしましょう」


 感謝したイケメンさんも看護師に抱えられて、隣のランドリールームへと向かった。


 このように、ぬいぐるみには色々な悩みがあるみたい。


 ──もし、見当たらなかったらここにいるかも。

 全ては、あなたのためですから。


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ぬいぐるみのびょういん 杜侍音 @nekousagi

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