第59話 第2章 開戦 26

「私が今身に着けている衣服と、腰に付けている巾着と、巾着に入っている短剣と硬貨入れを賜りました。これらのものは全て当時のグランガイズの道具屋で買ったと言っておられました。巾着はアイテムボックスになっており、どうも大神が特殊な効果を加えたようで一般のものとは違うものになっていると思われます。それ以外はただの古い一般的な物のようです。ただ2200年以上前の品なので、骨董的な価値があるかもしれませんが…」

 俺がミケイル枢機卿と同じような態度で教皇と会話しているのを、他の教団関係者は珍しいものを見るような視線で見てきているのが分かった。俺は今まで一番権威のある人物と話したのは大学の教授くらいだったから、権威のある人物との会話や態度なんて知らないんだよ。でも、聞かれたからには答えないと、もっと無礼になってしまうのだけは分かる。それならば、多少不躾でも返答するのが正解だと思える。

「それらを教団に寄与することは叶うまいか?全てとは言わない、代用の効くものと謝礼は用意させるつもりだ。教団には6神から授かった聖宝は現在も多少あるのだが、1500年前の遷都の混乱に紛れて大神ゆかりの聖宝は全部失われてしまったのだ。」

「それは大変ですね。巾着は譲れませんが、それ以外の品は譲っても良いと思います。」

「そうか!硬貨入れの中の硬貨はグランガイズに来てから入れた硬貨はあるのかね?」

「いえ、召喚の費用や店で使うことはありましたが、グランガイズに来てからは入れたことはありません。」


「それならば硬貨入れの中に入っている硬貨も全部引き取らせてほしい。」

「代わりをいただけるのであれば構いません。」

  俺はそう言うと巾着から短剣と硬貨入れを机の上に出して置いた。出した短剣は教皇自ら手に取り、大事そうに後ろに控えていた聖騎士に渡した。硬貨入れはミケイル枢機卿が秘書兼書記の男性に中身を確認するように促すと恭しそうに硬貨の枚数を数え始めた。

硬貨は金貨13枚、大銀貨21枚、銀貨18枚、大銅貨32枚、銅貨15枚、小銅貨58枚あった。日本円に直すと1530万ちょっとだ。グランガイズで俺の現在の生活で最低限必要な経費は宿代1万2千円、食費が6千円だけだ。それにダンジョン探索でかかる費用として転送費が2000円、グラの召喚費が呼び出しに5千円と1時間400円だったはず。残りは補助魔法代くらいなものか……多めに計算しても1日5万以内には落ち着きそうではある。


 召喚獣が増えると経費も増えるが見返りも増えるからペイできるはずだ。現状のままダンジョン探索もせずに宿や食事のランクを落とさず、贅沢しなければ3年ほどは暮らせる額になる。

 南井爺ちゃんも3年ほどは暮らせる金額だと言っていたが、最低限の生活ではなく中級な生活して3年だったことにありがたみを感じる。まぁ、南井爺ちゃんが最低限の生活をしたはずもないから妥当ではあるんだけどな。 


「着ている衣服も宿で着替え終わったら神父ラーテイに渡してほしい。これら合計の代金は宿で神父ラーテイから衣服と交換でも良いか?」

「はい、問題ありません。」

「それと報酬なのだが、ユグは冒険者として絶対に必要となる魔法を授けようと思う。空間魔法と付随魔法の転移、補助魔法の身体強化と瞬動、それと闇を除く元素魔法と弾系の魔法の4つだ。どうかな?」

「大変助かります。」

「そうであろう、冒険者にとっては必須魔法だからな。ユグは組織に入るのは苦手と聞き及んでるから、自分で全てを行うか、仲間を集めることになるだろう。教団の協力者としては仲間に入るのではなく、自分で仲間を見つけて引っ張っていくくらいの度量が欲しい。無理強いはしないが、色々な経験を積んで知識を得てグランガイズを勝利に導ける存在になってくれるのを望んでおる。まずは初期投資として受け取ってほしい。」

  教皇は俺にかなり良い印象を持っているようだ。俺の目標とも重なるので期待を裏切らないように精進していこうと再度心に誓った。

 初期投資と言う事は成果を示せば追加投資も有り得るってことだよな。聖宝を献上した代価と言えこれだけ大盤振る舞いしてくれたのだから、大きな成果を出せばかなりの報酬が期待できそうだ。報酬を期待して頑張るのは意地汚いかもしれないが、モチベーション向上にはなる。

しかし、欲しい物が都合に良い時に手に入るのも幸運が高いおかげだろうか?全てを幸運任せにするには危険が伴うが、ある程度予測に組み込んでも良いかもしれない。明日探す予定の人材と召喚する予定の魔物にも期待が出来そうだ。


「教団としてはユグを全面的に信用することはできないが、光の神がユグは地球では無くグランガイズの為に戦う覚悟を決めたと保証された。グランガイズのために戦うのは確実だとしても教団と利が重なるとは限らないからな。教団の利益が損なわれない限りは助力は惜しまないと心に止めておいてくれ。」

  それは当たり前な事だろう。俺だってグランガイズの為に危険を冒してまで戦おうとはしない。その程度の覚悟しかないことは6神なら見抜いているはずだ。

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