第58話 第2章 開戦 25

 思わぬ自己紹介に、俺は一瞬言葉を失った。思い返せば、前回の質疑の場よりもこの場の空気が重かった気がする。ミケイル枢機卿以外で積極的に話そうとしている人物もゾイル枢機卿しかいなかった。他に紹介された2人も軽く会釈をしただけで言葉を発していなかった。

 警備の聖騎士も8人と多めなのも納得がいく。 しかし、フットワークの軽い教皇だな。誰か止めるやつはいなかったのだろうか。それとも教皇の突然の外出が当たり前に行われている世界の可能性もある。ラーテイの報告がそれほどまでに魅力的だったのだろうか。


「ユグ殿との情報の交換役はゾイル枢機卿がやりたいと申し出ているのだが、どうだろうか?」

「こちらには依存はありません。」

「では、情報交換の場所だが...できればアハグト神殿で行いたいのだ。異論はあるだろうか?」

「それも問題ありませんが、冒険者として活動をしていますので、今日くらいの時間からで良いのであれば大丈夫です。」

「それでは大の日と光の日を除いた20刻からアハグト神殿で会合を行うことにしたい。それで良いか?」 「大の日と言えば明日ですよね?次の会合は明々後日からと言うことでよろしいですか?それで良いなら問題はありませんね。」


「それでは決定だ。神父ラーテイには次の会合まで随行させるので、急な連絡がある場合には有効に使ってくれて構わん。今日のようにグランガイズのためになるような事案についてもユグ殿の判断に任せることとなった。ラーテイの演説の内容は教皇特例として各神殿および教会に伝達することした。我々も今回の件については全く寝耳に水だったので対処のしようがなかったのだ。しかしあの演説の内容で喫緊の対応が行えたので感謝している。」

 あの赤い布を巻いた伝令の内容がラーテイの行った演説の内容だったのか。しかし、俺がラーテイに教えた内容をよく信じることができたよな。俺の考えを読んだかのようにミケイル枢機卿がラーテイの演説を説明してくれた。

 要約すると、光の神は戦争に関してや地球の情報をグランガイズには助言できないが、俺と南井爺ちゃんとの会話や地球の知識など、俺が教団に伝えても良いと誰かに話したことは、教団はその内容を入手して光の神に祈願することによって真偽のみを伝えてくれるらしい。6神としては直接には情報を与えられないが、間接的に俺を媒体として伝えるという抜け道を作ったみたいだ。


「そう言えば、ユグ殿は冒険者組合に登録しているのでしたね。明々後日から始まる会談については教団からの依頼ということにしておきましょう。週5日で毎日1時間でランクに応じたポイントと派遣料を登録しておきます。ランクが高いほど発言には影響力が増します。我々教団としても協力者の発言力が高まるというのは良い方向に働くと考えます。本当は教団に入っていただきたかったのですが、ラーテイかあの報告によるとユグ殿は組織に属するのを嫌うと聞きました。教皇陛下からも無理な勧誘はせぬようにとのお言葉をいただきましたのでお誘いは致しませんが、興味がわきましたらいつでもお声がけください。冒険者ランクに応じた待遇と情報に値する位階を保証させていただきますよ。」

 冒険者ポイントを加算してくれるというのはとてもありがたい。人族の世界に大きな影響を持つ組織だけに報酬も良いと思える。無理な探索で危険を冒す必要もなくなったのも大きい。ラーテイが同行してくれる残り2日で探索を安定させる必要も出てきたが、無理をせず慎重に進めて行こう。報酬にもよるが、贅沢な暮らしをしなければ探索などもせずに生きていけるかもしれない。地球に居た頃の俺なら迷わずそのような生活をしただろうが、俺はグランガイズで心身ともに生まれ変わると決めたのだ。グランガイズの生活は金がいくらあっても困ることはなさそうだし、俺の目標は小説の主人公のような英雄的存在になることだ。

 情報を得る術は整った。ダンジョン探索では「グラ」という魔獣も得た。明日はもう一度召喚を試みて魔獣を増やす予定だ。着々と俺の描いている未来地図に近づいている実感が湧いてくる。


「ユグ、少し聞きたいことがあるのだが良いか?」

  考えごとに耽っていると教皇が声をかけてきた。多分、声をかけられるのは恐れ多いことなのだろうが、俺には同世代の男としか思えないので、へりくだらずに丁寧な対応で返答することにした。


「はい、何でしょうか。」

「ユグが身に着けているものは、大神から献上されたものなんだな?それ以外には何か献上された品はないのか?」

 今回の戦争に関することかと思い、少し身構えたが、聞かれた内容は拍子抜けするような話題だった。俺にはどうでもいいことでも、教団にとっては神の所持していた品物は最も価値があるのだろう。 俺は神の部屋で開戦に関する情報と、南井爺ちゃんが昔グランガイズにお忍びで使っていた装備を賜ったと答えた。

「その装備は今も全部持っているのか?」

  俺は南井爺ちゃんから与えられた物を説明することにした。巾着がアイテムボックスだと伝える良い機会だし、今のような待遇では無理に取り上げるようなことも考えづらいからな。

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