第57話 第2章 開戦 24

 俺は時期は分からないが、2人が特殊な能力を持って人族の国のどこかに転生したことと、2人は南井善次郎のように転生に納得せずに文句を言い続けたため、魔族領に転移されたことを伝えた。


「魔族領への転移か...彼らはもう生きてはいないだろう。2人の転生者について他に何か知っていることはないかね。」 「800年以内にグランガイズの人族の国に転生したということなので、最長でも8歳ということになりますね。それ以外には何も分かりません。」

 ここまでは重要な内容でもないので、南井爺ちゃんから聞いたことや、聞いた上で確定している情報を隠さずに話すことにした。


「先ほど玄関前で司祭ラーテイが演説していた内容も大神から聞いたことなのかね。」

「そうです。私が大神から聞いた話をラーテイに話し、場を落ち着かせるために2度ほど演説してもらいました。ラーテイに話した場所が宿屋の食堂だったので、その場にいた冒険者や宿の従業員も聞いていましたね。」

「長司祭リーリアスがその宿に貴殿に伝言を伝えに行ったときではないかね?」

  ミケイル枢機卿はリーリアスに視線を向けながら質問してきた。 俺は春風館に着いた時点から自分の部屋に戻るまでの経緯を説明することにした。ミケイル枢機卿はラーテイに確認を取って間違いのないことを確認し、リーリアスに向けて話し始めた。


「ユグ殿が急ぐ必要はないと言っていて理由も説明されたのに、詳細も聞かずに帰ってきたのか?」

「申し訳ございません。門などすぐに見つかるものだと思い、深く聞くことはしませんでした。」

 リーリアスはミケイル枢機卿の質問に平身低頭しそうな勢いで弁明した。確かに前回の質疑の場にも同席していたので、私が異世界から大神によって転移させられてきたことは知っていたはずだ。それなのに私の発言の真意を確認せずに帰ったことはマイナス要素かもしれないな。


「長司祭リーリアス。君は優秀ではあるが、もう少し人の意見を聞く度量を持ちなさい。自分の判断や思い込みだけで奉仕を続けていると、誤った道に進むこともあり得るのですよ。さて、身内の話はここまでにして話を進めましょうか。それ以外には何か聞いていませんか?」

「通路の形状は聞いたんですが、中に何かを置くのを聞いてなかったことを思い出して後悔しているところです。あとは少しの自由時間をいただいただけで、これと言った情報はもらえませんでした。大神と交わした会話の内容に関しては個人的な事を除いては、ほぼ話しきったと思います。」


「そうですか。では、これからは今後について話をしていきましょう。ユグ殿は地球という異世界でどのような地位で、どれだけ情報をお持ちなのですか。司祭ラーテイからはユグ殿はグランガイズの勝利を望んでいると聞きました。こちらに希望するのはグランガイズの情報だとお聞きしたのですが、さすがに簡単に情報を渡すわけにはいきません。こちらから信頼できる人物を派遣いたしますので、その人物と情報を交換して共有するのはいかがですか?」

 やはり、そう簡単には重要な情報は渡さないよな。俺に真偽判定が効いて、俺の言っていることが真実と分かろうと国家機密や重要な情報をおいそれと外部の人間に教えてしまうことはあり得ない。情報の交換という最低限譲れる範囲を示してくれたのだろう。 勿論、俺は肯定の意志を伝えた。


「では遅くなりましたが、こちらの人物の紹介をさせていただきます。私から見て左に座っているのが私と同じ枢機卿のゾイル卿です。」

  俺とミケイル枢機卿とでは左右が逆になっちまうな。こちらからもミケイル枢機卿から見た左右で統一しておこう。

 ゾイル枢機卿と紹介された男は話すことが許されたのか、挨拶はおまけ程度でマシンガンのごとく質問してきた。俺はその迫力に戸惑っていると、ミケイル枢機卿はそれを咎め、俺との直接の会話は禁止されてしまった。ゾイル枢機卿はしぶしぶと言った態で引き下がっていった。その関係性で見ると、ゾイル枢機卿は教皇派のトップではあるのだろうが、教団の内部ではミケイル枢機卿の方が格上なのだろう。それか、何かしらの条件を飲んだ上での同行なのかもしれない。


「こちらの右に座っているのがパズ審問官です。ユグ殿には真偽判定が効きませんので、司教パズにユグ殿の言葉に偽りが含まれていないか見てもらっていたのです。ユグ様は性格が素直なのか分かりませんが、態度や表情である程度話の真偽が分かるのですが、演技されている可能性も捨てきれませんので、専門家に判断してもらっていたのです。」

 教団ほどの組織ならそのような人物がいて当然だな。少しでも相手の会話の真偽を確かめなければならない状況なので、仕方ないだろう。

 パズ審問官と呼ばれた司教は、俺に軽く会釈をしただけで紹介を終えた。


「左端の紙に会話の内容を記している人物は私の秘書兼書記です。」

 紹介された男性も俺に軽く会釈をしてきた。


「右端で微笑んでいる男性は、アリライ神聖国176代教皇のレクリウス7世猊下です。」

「余がアリライ神聖国176代教皇レクリウス7世だ。 よしなに頼む。」 



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