第56話 第2章 開戦 23
「さぁ、いつまでここに居ても埒があきませんし、両台下もお待ちでしょうから早く中に入りましょう。ギール、今回もあなたが案内役なのでしょう。ユグ様を両台下の元まで案内をお願いします。」
ギールと呼ばれた男は俺に付いてくるようにと促すと、受付を通り越してそのまま門から中へと進んで行く。俺もそれに追随して歩いて行く。ラーテイも俺の一歩後ろをついて来ていた。
昨日とは違う少し豪華な扉の前に止まると、ギールは中の人物に俺の来訪を告げ、中からの了承の返事を受けて扉を開いた。
部屋の中は会議室のような感じで、中心にミーティングテーブルが置かれ、両脇には5席ずつ背もたれの付いた木製の椅子が用意されている。椅子には柔らかそうな動物の毛皮で出来た敷物が敷かれていて、座り心地も良さそうだ。
俺が座るであろう向かいの席の中心にはミケイル枢機卿が座っており、その右側には俺より少し年齢が上のような人物が座っていて、左側には60代くらいの男性が座っていた。両端には俺と同年齢か少し下と思われる男が机に紙の束と手に筆のようなものを持っているので秘書か書記といったところか。その5人の背後には4人の聖騎士が立っていて、机の両サイドにも2人ずつの聖騎士が立っていた。前回は2人だったのに対し、今回は枢機卿が2人なのと、状況が状況なので護衛にも力を入れてきたようだ。 ミケイル枢機卿が俺に座るように促してきたので、俺はミケイル枢機卿の前の中心の席に着席した。俺より1息遅れてラーテイが俺の左側に着席した。
これで全員揃ったので、会合の始まりかと思っていたところに、掌院ケッセルと司祭長リーリアスが扉の向こうから到着しました。2人は許可を得て部屋の中に入り、俺の側の両端に着席した。位置取りとしては、俺が中央で左にラーテイとケッセル、右に1つ空いて端にリーリアスとなっている。
後でラーテイに聞いて知ったのだが、教団では教団関係者以外と対面で会合する際に、相手の右の席を空席にしておくのは最大の配慮とされているよだ。理由は、グランガイズでも大半の人間が右利きであり、その利き手側の席を空けておくというのは信頼しているとの意思表示にもなっているようだ。
暫しの間、沈黙が場を支配したが、壁際に置かれていた人間と同じ大きさほどの魔法時計の中心の瓶の中の砂が落ち切って上下が入れ替わったことを期に、ミケイル枢機卿が話し始めた。
「時刻も丁度20刻になったことだし、今回の神託でユグ殿がご存知のことを聞かせてもらえるかな。」
この質問は予想されていたことなので、ラーテイに説明したのと同じ内容を話すことにした。枢機卿たちにも話が伝わっていたようで驚きもなく受け入れられている。
「君が南井善次郎と同じ世界から来たと知ったときに、本国で会議を開いたのだよ。取り調べの際の調書をもう一度読み返してみた人物が居たのだ。そこには地球とか日本とか言う地名が数回出ていたので、君が地球から転移してきたと言う事は分かっていた。まさか戦争の相手になるとは思っていなかったから重大視はしていなかったがね。しかし教団幹部でしか知り得ない彼の処遇は大神からお聞きになったのですか?」
「そうです。地球からグランガイズに転生できる制度を作ったのが地球の時間の流れで800年前に作ったと聞いた時に俺が6人目の転生条件の保持者だと聞いたのです。俺の1人前の転生条件保持者が南井善次郎と言う人物だったのですが、神の部屋で暴言を繰り返したので転生させずにアリライ神聖国の聖都に転移させたことと、そこで捕まり3日後に処刑されたことを聞きました。」
俺以外の人々から『おおぉ~』と言った感嘆の言葉や、俺に向かって頭を下げて拝むような態度を取るものまで現れている。いち早く立ち直ったミケイル枢機卿は更に質問を重ねてきた。
「地球時間でとおっしゃいましたが、グランガイズと時間の流れは違うのですか?」
俺は大神から聞いた話をそのまま伝えた。
「なるほど、大神は力を使い切られて楽園で休養なされていたので神託が途切れたのですね。その間にグランガイズの民が6神を創り出したのですか。大神がそれを認めてグランガイズの管理権限を6神に移譲して地球と言う世界を創り出したと言う事なのですね。グランガイズが一度滅びたと言う事や、魔族や亜人が異世界から人族同士の戦いを止めさせるために連れてこられて進化した生物なのには衝撃を受けました。南井善次郎はユグ殿から見て何年前に地球で暮らしていた人物なのですか?それにユグ殿が6人目で南井善次郎が5人目だとすると残りの4人はどうなったかご存じなのですか?」
ミケイル枢機卿は右隣の男性が話したそうにしているのを抑えつつ興奮しながら聞いて来た。この話したそうにしている人物がもう1人の枢機卿であるゾイル枢機卿なのだろう。左隣の初老の男性は目を閉じて迷走しているようにも見えるが、話を聞いて興奮しているのか浜息が荒い。左端の男性は俺とミケイル枢機卿の言葉をもらさぬように必死で紙に書いているが、こちらも鼻息は荒い。右端の男は俺を見てニコニコと微笑んでいるが取り立てて感情の変化は見られない。
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