第53話 第2章 開戦 20

「皆が同じ素質しかないのであれば、責任のあるリーダーに取得してもらうのが一番安心できるのですよ。なので、金ランク以上の冒険者のリーダーが魔法使いが主な職業になってしまう場合が多いですね。魔法攻撃に弱い魔物も現れたりするので、リーダーが飛び抜けた近接戦闘の技量の持ち主でない限りは魔法戦士に転職されます。」

 俺の潜ったダンジョンの一階はほぼ無人で、2階層はソロの冒険者が多かった。稀に2~4人組のパーティーもいたが実際戦闘しているのは1人の場合が多いように見えた。さすがに3階層からは素早い敵も出て、敵の数も増えて来るらしいのでソロだと厳しくなるかもしれないが2人以上で組むとかなり安定して戦えるらしい。

 貴重さに胡坐をかいて天狗になってしまって、どこのパーティーからも相手にされなくなった魔法使い連中が魔法使いだけのパーティーを組むことも有るそうなのだが、結局天狗同志の集まりがうまく機能するはずもなく喧嘩別れして組合にパーティーの斡旋を泣きついてくる場合も有るそうだ。

 しかし、そのような連中は斡旋されたパーティーでもうまくなじめるはずもなく、すぐに解約されてしまうそうだ。仕方なく斡旋所で臨時パーティーに登録してお呼びがかかるのを待っているそうだが評判が良くないのでお呼びがかかる場合は少ない。才能は有るのに単純労働より少し賃金の良い魔法労働作業の仕事で食いつなぐこともあるといった笑えない話も聞いた。いくら才能があろうとも、結局は1人の探索は危険なのだ。仲間を見つけれられなければ金も稼げなくなり、金が稼げないとなると魔法を買うことが出来ないので才能を生かしきることは出来なくなる。

  その点、俺は強力な召喚獣さえいればパーティーにこだわる必要はない。今はまだ2体しか召喚できないが召喚士のレベルが5上がる度に1対増えるのであれば中層に着くころには4~5体召喚できるようになるかもしれない。

 次のダンジョン探索でもう一体召喚する予定で入るが、3体目から増やす時には一体分の空きを作っておきたい。狙って呼びたい魔物が出来るかもしれないし、現状のメンツでは戦うのに不利な魔物と遭遇してしまうかもしれない。その様な時に空きが無ければ臨時に冒険者を雇うことになり感れない。対人経験の少ない俺がいきなり臨時で組んだ冒険者との連携が取れるはずもなく混乱する様子が目に浮かぶようだ。パーティーを組むなら臨時ではなく、俺が一緒に居て気を使わなくてよいような人物にしたい。


 大通りに出ると、冒険者たちの姿が増えてきた。彼らは情報を得るために冒険者組合に集まっていたが、組合自体も情報を持っていないようで、結局は家に戻っているのだろう。

 ダンジョンの入り口の混雑も、組合の職員が説得した魔法使いたちによってかなり収まったようだ。しかし、人々の流れを見ていると、俺たちと同じように神殿に向かっているようにも見える。

 もしかしたら、冒険者組合で情報を得られなかった冒険者や役所で情報を得られなかった街の住民が神殿に向かっているのかもしれない。なにしろ、それは神様からのお告げだからだ。役所や組合よりも、神殿や教会のほうが情報を持っている可能性は高い。なにしろ、神殿に向かう人々の視線がラーテイに集中しているのだ。

 そう言えば、ダンジョンでも混乱している中で、他の神官がラーテイに話しかけてくることはなかったな。祭服を着ているから目立つが、視線は集まるものの、話しかけてくることはなかった。


「もしかして、神殿や教会以外で聖職者に話しかけてはいけないとかいう決まりでもあるのか?」

「そのような決まりはありませんが、私たち神に仕える者は催事や神事以外では滅多に外に出ることはありませんので、近づきにくい存在として扱われることもありますし、神官の業務を妨げれば罰則があります。ですので、神官が用事もなく街を歩いている可能性は少なく、何かの業務の最中だと思われて話しかけられないのだと思います。」

  俺も先ほどのリーリアス以外で街中でラーテイ以外の神官を見たことはなかったな。


「神殿や教会に行っても情報は得られないよな。なら、私が言った通り、すぐに戦闘が起こらない可能性が高いことや、通路の状態をこの場で伝えてあげたらいいのではないか? 私を信頼してくれているのなら、情報を広めて混乱を少しでも早く収めるのがいいと思うんだ。神官が発する情報なら信頼度も高いだろうからな。」

「そうしましょう。少しお時間をいただきますが、お待ちください。」

 そう言うと、ラーテイは大通りの真ん中まで歩いて行った。俺も彼について行くか迷ったが、人々の視線は俺のことを無視しているようだったので、道の端に寄って壁と同化するかのように気配を抑えて彼を見守った。


「皆さん、聞いてください。」

  ラーテイは声を張り上げ、皆の注目を集めると、ゆっくりと話し始めた。

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