第52話 第2章 開戦 19

 俺から見たミケイル枢機卿は、損得勘定ができる慎重な性格の人物に思える。初対面の俺に対する対応を見るに、奇貨居くべしの考えが見られる。

 カス大司教のように自分の理解できないような物を排除するのではなく、敵対しないように丁寧に対応し、人物の見極めができるまでは厚遇する。

 ラーテイを俺に同行させているのも俺の価値を見極めると同時に使える人物だと判断できたら味方に引き込むか、最低敵対しないようにするためだろう。ラーテイが俺に恭しく対応しているのも、元からの性格もあるかもしれないが、教団からの指示があるからだろう。そうでなければ、このようなどこの誰だか分からないような奴に丁寧な対応をするはずがないからな。

 どのような意図があろうとも、ラーテイという人物を派遣してくれたことには感謝しているし、誰も同行者がいなかった場合、俺は自分の行く方向性すら見つけられなかったかもしれない。ラーテイの助言があったからこそ、俺は主人公のようになろうと思えたし、そのために何をすればいいのかと考えるようになった。その道が正しいのかなんて誰にも分からないが、自分で決められたことに意義があるのだと思う。ただ、流されるだけの人生が自分の意志で歩んでいくことになったのだ。後悔がないようになんて無理だが、できる限り後悔の少ない人生を送りたいと思う。

 ラーテイにゾイル枢機卿のことについて色々と尋ねてみた。

 年齢は俺より4つ上の32才。教皇が俺より1つ下なので、年齢が近く前枢機卿の息子でもあり、幼い時から麒麟児と呼ばれたほどの逸材だったので教育係に任命されたそうだ。

 ただ、教団の運営にはあまり興味がなく、学術一辺倒だったのが、教皇の教育係に指名されて教皇とよほど気が合ったのか教皇派筆頭と呼ばれるほどになったそうだ。

 枢機卿の選択のときも教団に対する忠誠心がないなどと反対者が多かったらしいが、教皇の鶴の一声で決定したそうだ。現在枢機卿として本国に滞在しているらしいが、教育係も終えて、また色々な研究に没頭しているらしく表舞台にはあまり出てこないらしい。

  その話を聞くと、ミケイル枢機卿が同行を要請したのではなく、知識欲から物珍しい俺に会いたい一心で同行してくるのかもしれない。南井善次郎の処刑に最後まで猛烈に反対したのは彼だけらしいし、異世界に興味があるのは確かだと思える。知識欲を刺激して何とかして味方につけたいと思える人物であるのは間違いない。あとは人格だが、表舞台に立つことが少なく、交友関係も狭いようで、ラーテイも知らないらしい。 敵対すると厄介な事態になることは間違いないので、敵に回さないように立ち回らねばならない。


 ある程度の考えがまとまったので、ラーテイと共に部屋を出て一階へと降りた。

 先ほどまでは数グループの冒険者たちで賑わっていた食堂は誰もおらず、閑散としていた。部屋に居た俺が2階に誰も上がってくる気配を感じなかったことから、自室に戻ったとは考えにくい。一階の大部屋の方に耳を傾けても人の話し声は聞こえてこない。食事を終える時間にしては速すぎることから、俺たちから聞いた情報を誰かと共有するために春風館から出かけたのだろう。俺の計画通りに混乱している冒険者たちに戦闘がすぐに始まる可能性が低いことを期待しつつ、春風館を後にした。


「そう言えば、冒険者は転移魔法使いの不足でダンジョン前で渋滞しているはずなのに、春風館には多くの冒険者パーティーが戻っていたよな」

「春風館に泊まれるくらいの金銭に余裕のある冒険者は、自分たちのパーティーに魔法使いを入れていたり、リーダーが時空魔法の転移魔法や補助魔法を習得している場合も多いですから、転移施設の魔法使いに頼らなくても戻ってこれるのですよ。」

  パーティーを組めるメンバーは最大5人となっているので、初級冒険者のパーティーは4人組が多いが、中級以上になるとフルメンバーになっている場合が多い。中層の低層に挑むには5人のフルメンバーでないと厳しくなるため、金ランクの9割以上の冒険者は5人パーティーを組んでいるらしい。

 そうなると転移の時に3人と2人に分かれたり、4人と1人に分かれて転移しなければいけなくなる。それでは手間にもなり、一回の転移で5人合わせれば銀貨1枚の出費になってしまう。それならばパーティーの誰かが習得してしまおうとなるのが自然な流れに思える。

 補助魔法もそうだが、ダンジョン探索に必要となる魔法は投資できる資金があれば習得した方が長い目で見れば圧倒的にお得なのは間違いない。


「何故パーティーのリーダーが多いのだ?確かに責任のある立場のやつが取得すれば安心はできるのだろうが、自分たちのパーティーに専門の魔法使いを作ろうとはしないのか?」

「成人の儀の時に自分の得手不得手の職やスキルが分かるのは、ユグ様自身が体験してご存知ですよね。そこで魔法の適性があるのも無理をしてでも魔法使いを目指そうとします。その結果が転移施設の制度ですね。そこで魔法使いの適性がなかった者たちが冒険者になって組むのが一般の冒険者のパーティーなのです。だから、特に苦手な冒険者がいることはあっても、得意な冒険者がいない場合が大半なのです。」

  確かに俺は召喚魔法の特性の色が青だったので選んだんだったな。魔法使いの特性が皆同じなら、誰がなっても同じなのか。

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