第51話 第2章 開戦 18

 広めたい情報としては、まずは通路に関することだけで十分だろう。グランガイズのどこかで通路の発見の通達が出てから再度おやっさんと話し合うことを決めた。ここで表明しておくことで通路発見の発表が出ると、皆が次の情報を得るためにまた集まってくることが予測される。ただし、ここにいるメンバーがどこで誰から話を聞いたかを吹聴してしまうと春風館に入りきらず、冒険者が溢れて混乱してしまうかもしれないので、ここで聞いた話は広めても良いが、どこで誰から聞いたかを話すと次回からは春風館ではなく、おやっさんの傭兵団のクランハウスで話し合うと言っておいた。完全な抑止にはならないかもしれないが、ある程度有効だろう。それだけの判断ができるだけの集まりだと思いたい。

 神殿には余裕をもって辿り着きたいので、おやっさん達と別れて自分の部屋に戻った。


 現在の時刻は19時を少し回ったところだ。神殿での立ち回りを考えておく必要がある。まずはミケイル枢機卿がいない場合、春風館で話した内容と同じ程度の情報だけで十分だろう。その後はミケイル枢機卿と会ってから話すと言えばいい。

 ミケイル枢機卿がいる場合はどの程度の情報を渡して、対価として何を要求するか考えておかなければならない。こちらが欲しいのはグランガイズの正確な情報だ。ラーテイが言っていたように地球側の密偵であることも疑われるだろうから、ある程度の情報と裁量を持った人物の紹介を頼むとしよう。こちらが渡す情報は枢機卿からの質問で変わるので、自分の中で渡せる情報の整理をしておいた方が良いだろう。渡すには早いと思える情報は、丁寧に説明して信頼してから提供する旨を正直に話すべきだと判断した。

 俺には真偽判定のスキルが反応しないのでとぼけても良いが、それが本当だとは限らない。俺の言動を見極めるための伏線だとも考えられるからな。自分を信じてもらうために相手を信じるなんて綺麗ごとが通用するとは思えない。全てを疑い、常に相手の言動の真否を確かめつつ自分の考えに反映させていかねばならない。  

 地球の活動家たちが言う話し合いで全てが解決するなんて言葉は人の善良性に付け込んだ妄言であり、相手の意見を取り入れて異見を変えた活動家なんてことは聞いたことが無いしな。 ラーテイの事も信用はしているが信頼はしていない。ラーテイは教団に忠誠をささげているから司祭なのであって、教団と俺とを天秤にかけた場合俺を取るとは考えにくい。教団関連以外なら少しは信頼しても良いと言う気持ちも芽生え始めているのも確かだ。


 ラーテイが部屋の扉をノックする音で出発時間が近いことに気づいた。色々と考えを整理していたので時間が一気に過ぎたように感じる。

 ラーテイを部屋に招き入れ、部屋に戻ってから教団と連絡を取り合ったのか尋ねてみた。ケッセル神父と連絡を取り合ったらしく、アハグトの神殿にミケイル枢機卿ともう1人の枢機卿が本国からご来臨されると聞いたと話してくれた。カステレウス大主教も同行を望まれたようだが、ミケイル枢機卿の判断で今回の臨席は却下されたそうだ。カス大司教が俺に高圧的な態度を取っていたのは明らかだったので、今回の会合から外されたと言う事は教団としては俺と友好的な態度で挑もうとしていることが分かる。ラーテイにカス大司教の同行の却下を伝えたのも俺に対しての意志の表明だろう。カス大司教が居れば俺の発言にいちゃもんをつけて話が進まないと思ったのもあるだろう。

 取り合えず少しは気が楽になった。だが、もう1人来ると言う枢機卿の事が気になるな。10人しか居ない枢機卿のうち2人も来るなんて教団は俺の事をかなり重要に思ってくれているのが分かる。もしかしたら教会内部で一番の真偽判定のスキルを持っている人物かもしれない。教団最高と言う事は人類で一番と言う事だ。それでダメなら諦めるしかないだろう。

 俺の事はグランガイズで処刑された南井善次郎と同郷で異世界らしき世界から来たことまでは分かっているだろうが、その世界が今回の戦争の相手だとは確定していないはずだ。可能性は高いと思っているだろうが、異世界が1つだとは限らない。俺が今回の戦う異世界の地球から来たと言っても全面的に信じるにはリスクが大きいだろう。だが、真偽判定さえできてしまえば問題は解決する。

 ラーテイにミケイル枢機卿と同行してくる枢機卿のことを尋ねると、名前はゾイルと言う男性で位階は司教だそうだ。10人いる枢機卿の中で大司教では無いのは彼だけらしい。彼は現教皇の教育係だったらしく、教皇派の筆頭らしい。教育係と言う事はかなりの知識を持っているのだろう。その彼を同行させて来ると言うのは俺が知識が欲しいとラーテイに言ったからだろう。

 あとは俺をアリライ神聖国まで連れて行き、監禁して拷問すると言う事も考えられる。だが、その可能性はかなり低いとだろう。俺は神意によって大神から連れてこられて、干渉するなと光の神から告げられている。その俺を監禁や拷問をすると言う事は神意に逆らうと言う事だ。教団がそのような事を起こすとは考えにくい。地球みたいに権威を利用するだけの組織に成り下がってない限りは大丈夫だろう。

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