第49話 第2章 開戦 16

「おい、大丈夫か?」

「すいません。少し取り乱してしまいました。私は初めて光の神のお告げを直接お聞きしたことに感激して、取り乱してしまったようです。」

 どうやらラーテイは内容より、神から直接にお告げを聞いたことに感激していたようだ。神殿関係者でも限られた人物でないと神からの神託は得られないらしい。

 冒険者組合の職員の混乱は収まる気配がない上に外部から混乱した人々が状況を知りたくて冒険者組合に集まってきてるらしく混乱は大きくなっていく。この様子だと役所や神殿なども大混乱の渦中だと想像ができる。やはり神の存在が間近であり、信じているだけあって、日本とは混乱の様子が大きい。俺もここまでグランガイズの住民が騒ぎ立てるとは思っていなかった。 混乱が収まるまではこのまま下手に動かずに待機するのが得策だと思える。


「ユグ様がおっしゃってた事件と言うのはこの神託の事だったのですね。」

「そうだ。俺はこの戦争相手になる地球の日本という国から転移してきたんだ。俺は日本で死んでしまったのだが、何らかの条件が適合したらしくグランガイズに転移することになったんだよ。その時に神様からグランガイズと地球の成り立ちや、この戦争が起きることも聞いていたんだ。俺は地球側の人間ではなく、グランガイズに所属する人間だと言われているので、グランガイズには協力していきたいと思っている。地球では普通の市民だったので詳細な情報は持ってはいないが、大まかな戦い方や国の情報などは調べている。ミケイル枢機卿と接触したいと言った理由も分かってもらえたと思う。」

「確かに相手は完全に未知の存在です。少しでも情報を得ることが重要だと思います。ただ、このようなことを言うと失礼かもしれませんが、枢機卿台下もユグ様の言うことを無条件に信じるわけにはいかないでしょう。地球側の諜報員である可能性もあり、私たちを攪乱しようとしているかもしれませんからね。慎重に対処されるとおもわれます。」

「それは分かっている。俺も情報を提供する際は制限を設け、用済みとされて処分される可能性もあるため、情報の提供は限定的に行うつもりだ。提供した情報が正しいと判断され、俺の行動が制限されずにお互いが信頼できるような関係を築きたいと思っている。」

「私個人としては、ユグ様を信頼できる人物だと判断しているので、私の力が及ぶ限り、枢機卿台下との橋渡しをさせていただきます。」

「それは嬉しいね。俺もラーテイを信頼できる人物だと判断したからこそ、このように秘密を打ち明けているんだからな。」


「それで、ユグ様の意見としては現状、どちらが勝つと思われますか?」

「グランガイズの知識が不足していて、判断ができないな。ただ、人口に関しては地球が圧倒的に多いということは分かっている。」

「地球は本当に人口がそんなに多いのですか?」

「地球の人口は80億人を超えているとされている。しかも近年では毎年1億人近く人口が増加していると言う。その中でも2つの国が特に人口が多く、それぞれ14億人もの人々が暮らしている。それらの国は人族と通路がつながる国だ。」

「80億人もの人口ですか。しかも、一つの国に14億人もの人口があるとは……。我々は勝利することができるのでしょうか?」

「地球には魔法は存在しないんだ。代わりに文明が発達し、武器の威力が高い。必然的に道具に頼った戦いしかできない。俺はグランガイズに来てまだ2日しか経っていないため、魔法の威力を理解していないし、グランガイズの戦力や総人口も把握していない。しかし、ある程度の地球の戦力に関しては調査してきましたので、グランガイズとの比較が可能になるかもしれない。」

「私も力の及ぶ限り協力いたします。グランガイズ全体の情勢には詳しくありませんが、教団内で情報に詳しい人物を探しておきますね。」

  その後、1時間ほどラーテイと会話していたが、時間が経つにつれて冒険者の数は増えていく。神託が発せられた時のような混乱は起きていないが、少しでも情報を得ようとして駆けつけているようだ。 この様子だと、役所や組合、領主の城、神殿関連は人が押し寄せているだろう。

 冒険者組合は一気に冒険者で埋まらないのは、ダンジョンから街へ転移する魔法使いが冒険者組合に殺到したためで、魔法使いの数が足りずにダンジョンの転移待合所で足止めを食っているようだ。組合の係員が魔法使いに業務に戻るように促している姿が見とれた。 大通りは混乱も収まったようなので、組合から春風館に戻ることにした。


春風館に戻ると、受付近くの食堂の椅子におやっさんとライドル、そして昨日神殿で会ったリーリアスという長司祭が座って会話をしていた。珍しい組み合わせだなと思って見ていると、受付の男が私が客だと説明してくれた。受付の男の動きを見て、入り口に目を向けたおやっさんが私を見つけて声をかけてきた。

「おう、兄ちゃん。えらいことになったな。兄ちゃんはこの神託のことを知っていたんだよな。水臭いじゃねぇ~か、昨日教えてくれても良かったんじゃないか?」

「いや、あまりにも現実離れしているので、事が起こってからでも良いかと思いまして… それに急ぐ案件でもないですからね。」

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