第48話 第2章 開戦 15

 ダンジョン付近に教会があるのは、亜人に金を貸すだけでなく、補助魔法の支援も目的としているようだ。転移魔法は魔法使いのために開放されているが、支援魔法は教会が担当しているそうだ。支援魔法は種類も多いそうで、魔法使いに任せると問題が起きる可能性があるため、教会がその役割を果たしているそうだ。転移魔法の場合は、時空魔法と付随魔法の転移を習得すればいいだけだが、補助魔法には初級の付随魔法だけでも5つ以上あるとラーテイは言っていた。

 司祭以上に昇進すると、補助魔法取得にかかる金銭は免除されるため、初級魔法の全種類を習得しているようだ。神聖魔法も、司祭で初級、司教で中級、大司教で上級を全種類習得できるそうで、戦闘司祭も位階ごとに各級の戦闘スキルの付随スキルを無償で習得できるようだ。


 魔法時計を見ると、現在の時刻は16時で、緑の色が半分程度落ちているので、おおよそ45分くらい経過しているようだ。魔法時計の色は赤、青、黄、黒、緑、茶色に分かれており、各色が10分を表しているそうだ。これは人族共通の仕組みらしい。

 戦争開始の神託まで残り15分を切ったようだ。神託が告げられると、グランガイズの人々はどのような反応をするのだろうか。神との接点があるだけに、人々は混乱するかもしれない。それとも地球のように多少の驚きはあるものの、日常生活を変えるほどの変化は見られないのかもしれないな。ただし、日常生活が乱れなかったのは日本だけで、宗教色の強い西欧や中東では混乱が起きた可能性も考えらる。

 南井爺ちゃんに与えられた時間内で、主に各国の軍事状況、政治、人口、経済、地理などを重点的に調査したので、最新のニュースは調べていなかった。時間が限られていたため、それだけで精一杯だったのだ。

 もし混乱が起きるとすれば、人が多い場所は避けた方が良さそうだな。中央エリアで混乱が起きても、比較的安全な場所はどこか考える必要がある。ただ、あまり知っている場所が少ないので、役所か冒険者組合のどちらかで迷うことになるかもしれない。


 俺は冒険者組合を選び、中に入って周囲を見渡した。受付には以前担当していた女性がいて、暇そうにしている様子で、近くの職員と何か話しているようだった。

 組合の中は冒険者の姿はほとんど見当たらなく閑散としていて、なんだか物悲しい雰囲気だった。

俺たちは掲示板の前に行って、依頼内容を見ることにした。鉄ランク以上の依頼がほとんどで、銅ランクの依頼はほとんどなかった。鉄ランク以上になると、ダンジョンでの素材集めが主な依頼になっているようだ。

 俺は特に依頼を受けるつもりはなかったけれど、現状の依頼内容を見ておきたかった。戦争が始まった後、どのように依頼が変わるのか興味があったからだ。

 掲示板の端にはダイヤランクの冒険者の名前が公表されていた。ダイヤランクは上位のランクで、その名前が掲示されることは一種の栄誉だ。


 ミスリルランクは空白で、ダイヤランクには13人の名前が載っていた。その中には5人組のパーティーが2組と、2人組のパーティーと単独で活動している人物が1人いた。2人組のパーティーも5人パーティーのような構成のようだが、残りの3人が金ランクと書かれている。最後の1人は名前と性別が載っているだけで、剣士なこと以外の情報はなかった。

 以前、おやっさんが言っていたが、俺も3つの職業のレベルが20になるまでに運の数値が10を超えてしまうと、この場所に名前が載ることになるのだろう。現在の俺の運の数値は8になってしまっているので、10になる可能性はかなり高いと思われる。

 掲示板にはもう1つのセクションがあり、こちらには現在起きている情報が複数張られている。この掲示板は役所にもあるらしいが、冒険者組合に掲示されている情報は冒険者に特化したもののようだ。役所の方では経済や政治などの情報に特化しているそうだ。


【これからグランガイズに住む者たちには、異世界である地球との戦いに参加していただきます。あなた方には拒否する選択肢はありません。その理由は、私たちを創造した大神が、グランガイズと地球のどちらが有益で面白いかを判断するためです。 グランガイズと地球をつなぐ「通路」が作られ、互いに攻め込むことになります。通路は、人族支配地の各国に20個、亜人の各支配地域に14個、魔族の各支配地域に3個ずつ作られます。 勝利条件は、相手方の各国の政治機関の占拠か、全人類の抹殺です。 敗北条件は、各種族の政治機関または城の失陥、あるいは全種族の滅亡です。期間には制限はありません。

 私たち神々は、この戦争に直接介入することは禁じられていますが、日常生活に関する支援は継続されます。私たちはあなた方がよく考え、勇敢に戦い、勝利を手にすることを望んでいます。グランガイズの民に幸あれ!】


 突如として、脳内に響く声によって俺は考えを停止した。以前南井爺ちゃんとの会話やグラとの念話での経験によって、このような現象に慣れていたため、あまり驚きは感じなかった。

 その声は南井爺ちゃんの声とは異なり、おそらくは彼が言及していた6人の神のうちの一人であるのだろう。

 周囲を見渡すと、冒険者組合の職員たちは時が止まったかのように固まっていたが、徐々に状況を理解し始め、ざわめきが広がっていった。狂乱とまではいかないが、明らかに混乱が広がっている様子だった。

 隣に立っていたラーテイもしばらくは呆然としていたが、突然涙を流し始めた。俺は驚いて彼に声をかけた。


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