第43話 第2章 開戦 10
狩りをしながら進んでいると、ついに階層の奥の壁までたどり着いた。このあたりは魔ミミズが多く、容易に倒せる。グラも魔ミミズを見つけると、鉤爪で頭を引き裂きまくっていた。
しばらくして、周辺の魔ミミズを一掃した頃には、俺のレベルも上がっていた。
2階層も魔ミミズしか出ないようだし、2階層でも大丈夫だろう。
俺たちは下に向かって入口に戻ることにした。行きとは違うルートを選びながら、入口に向かって歩いていった。
結局、1階層で他の冒険者には出会わなかった。
階段の近くに戻ると、他の冒険者たちの姿が見えてきた。
冒険者たちはグラを見ると、驚いた表情を浮かべていた。稀にグラに襲いかかろうとする冒険者もいたが、神父服姿のラーテイを側に見つけると、おとなしく武器を収めて去っていった。
召喚魔法が珍しいなら、召喚された魔物など見たことがない冒険者も多いだろう。側に神父がいるので、危険がない魔物だとわかるようだが、ラーテイがいなければ攻撃を受けていたかもしれない。この先、どうやってユグを俺が召喚した魔物だと分かるようにしたら良いのだろう。
街中でも誰もペットなどを連れている姿は見たことがなかった。何せ亜人がいる世界なのだ。グランガイズには愛玩動物の概念がないのではないかと思われる。
1階層は他の冒険者が周りにいなかったので問題にはならなかったが、2階層もそうとは限らない。モグを送還するべきか悩むな......
「下に降りてしばらく様子を見てから考えた方がよろしいのではないでしょうか。万が一、グラさんを攻撃すれば、ユグ様が召喚した魔物を攻撃したとして罪になります。私も警戒しておきますので、降りましょう。」
「そうだな。問題が起きるまでは連れて行くべきだな。」
俺たちは他の冒険者に奇異な目で見られながら階段を下りていった。いかにも弱そうな冒険者と神父と魔物の組み合わせは、誰が見ても珍しいだろう。
2階層に降りると、階段付近にも冒険者が魔ミミズを倒している姿が見えるようになった。俺たちは冒険者たちの邪魔にならないように奥へと向かって歩いていく。戦っている冒険者たちがグラを見て、一瞬ビクッと反応して、ラーテイを見て何かを納得するような様子を見るのは面白い。
魔ミミズを倒しながら奥へと進んでいくと、冒険者の姿も減っていき、代わりに魔ミミズとの遭遇率が高くなっていく。稀に進行方向に冒険者パーティーが戦っている姿が見えるが、進行方向を変えながら魔ミミズを倒していく。と言っても、魔ミミズのほとんどをグラだけが倒しているんだけどな。
「そろそろ食事をしないか?」
「そうですね。いいと思いますよ。」
「しかし、ダンジョン内で食事をする場所はあるのか?」
「冒険者たちは階段で食事をするようです。移動する魔物が階段に現れたとは観測されていないため、階段は比較的安全だとされています。」
「なるほど、それなら狩りをしながら階段に向かおう。」
俺たちはグラに進行方向を指示して階段に向かうことにした。グラは相変わらず、魔ミミズを見つけると爪で頭部を一撃で破壊していく。酸にまみれても気にせず、強さを感じるほど迅速に倒していく姿に心強さを感じる。
2階層では、グラに魔ミミズがダメージを与えることはできないだろう。魔ミミズは頭からの体当たりか酸攻撃しかできないが、グラの鉤爪にかかる前に倒されてしまう。魔ミミズが囲もうとしても、その動きは鈍く、グラの速さに敵わないため、囲まれる心配はない。
俺たちはグラが倒した魔ミミズの後を追い、進んでいく状態だった。
階段近くまで来ると魔ミミズに遭遇率が減る代わりに、冒険者たちとの遭遇率が増えてきた。相も変わらず、グラとラーテイを見て反応する様子を見るのが面白い。
階段に辿り着くと、冒険者たちが階段に座って食事を取っている姿が見受けられた。階段の空いている場所に座り、背負い袋から食料袋と水筒を取り出す。
周りの冒険者の視線はグラに集中しているのを感じながら、魔豚の腸詰めサンドを取り出し、かぶりついた。
「グラ、お前も何か食べるか?」
「モグ『基本的に魔物は魔素を吸収すれば生きて行けるので、物を食べるという概念がありません。』」
「そうだったのか。でも、口があるのだから食べることはできるのだろう?」
「モグ『食べたことがないので分かりません』」 「
試しに食べてみてはどうだ?」
「モグ『では、いただきます。』」
俺は食料袋から串焼きを取り出し、肉の一切れを手のひらに乗せてグラの口元に運んでやった。グラは手の平に乗った肉の塊を何度かに分けてかじり、肉の塊を食べきった。
「どうだ、美味しいか?」
「モグ『美味しいとの感覚が分かりませんが、喜びを感じます。』」
「それは良かった。次からはお前の皿も用意しておくので、今日はこれで我慢してくれ。」
「モグ『ありがたき幸せに存じます。より一層励ましていただきます。』」
「お、おう。」
喜んでくれたのは分かったが、いきなり時代劇で聞くようなセリフにたじろいてしまう。
周りの冒険者たちは勢いよく食べ、食べ終えるとすぐに階段から離れて行く。俺たち以外の冒険者たちの回転率が速い。遅い冒険者でも5分ほどで、速い冒険者なら2分ほどで階段から離れて行く。
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