第41話 第2章 開戦 8

 俺はそう言うと奥に向けて歩き出した。少し歩くと地面を1匹の魔ミミズが、人間がゆっくり歩くより遅い速度で近づいてきた。俺は慎重に魔ミミズの頭と思われる部分を杖で突いて潰した。少し酸が飛び散って杖にかかったが、魔ミミズは頭が潰れ、そこから微小魔石が俺の魔石ポーチへと入っていった。これは狩りというより作業と呼ぶべきだろう。この作業を毎日100回繰り返さねばならないと思うと気が重くなった。

「杖に付いた酸は毎回拭かないといけないのだったか?」

「いえ、杖に使用されている木には少しですが耐酸性がありますので、1/6刻に一度か5匹くらい倒してからで良いですよ。」

  面倒だが、その程度の割合ならば拭くのも仕方ないと思える。今度は酸が飛び散るより早く杖を引くイメージで倒してみよう。うまくいけば拭く作業の時間を短縮できるはずだ。2~3匹は酸が少しかかったが、4匹目からはコツをつかめたので酸がかからない速度で引くことができるようになった。これで今回杖を拭くと、油断しない限り杖を拭くことはなくなるだろう。

 魔ミミズを素早く倒すコツを掴んだので、次の段階に移ろうと思った。

 杖術の杖波ワンドウェーブを使う時が来た。杖波は、俺が読んでいるファンタジー小説などでは武技コンバットアーツと呼ばれている技だ。触媒もMPも必要なく、SPを消費して使用できる。

 奥の方から魔ミミズが近づいてくるので、技名を唱えた。すると、杖の先から白い煙のような刃が波状に連なりながら魔ミミズに向かって飛んでいく。しかし、魔ミミズには当たらずに少し遠い地面に着弾して波は消えてしまった。近づいてきた魔ミミズに落ち着いて、杖で頭を潰し倒した。今回は外したが、次は当てられるような気がする。ステータスウィンドウを開き、SPの減りを確認すると2減っていた。

 よく見ると、冒険者レベルも杖士レベルも2になっていて、HPとSPの最大値が2ずつ上がり、MPは4上がっていた。レベルが上がっても、SPが10/12になっているため、全回復はしないことが分かった。ステータス欄の一番下には、現在かかっている身体強化、瞬動、解読の残り時間の砂時計が現れていた。次の魔物を探し、周囲を少し歩くと、魔ミミズが1匹この方に向かってくるのが見えた。次は頭に波が当たるようにイメージしながら、杖波を発動する。イメージ通りに波が魔ミミズの頭に当たり、頭部が吹き飛んだ。武技や魔法はイメージが大事だということが理解できた。弓や投石などは技量がないと敵に当たらないが、武技や魔法は当たるイメージで放てば当たりそうである。


「杖を敵に振りながら杖波を放てば、波の速度も上がりますよ。」

「速度は杖の振り方によって変わるのか。ならば、もう一度試してみよう。」

 次は杖を全力で振りながら試してみると、波が高速で飛んで行くのが分かった。魔ミミズ程度の速度ならどちらでも変わりはないだろうが、素早い魔物だと杖を持ったままで放つ速度では当たらないと感じた。


召喚魔法サモンマジックを試してみたいが、やはり魔法名を唱えれば良いのかな?」

「通常、魔法は魔法名を唱えなくとも発動したい魔法を想像しながら発動しますが、詠唱は組合での決まり事であると同時に発動を補助する効果もございます。」

魔物召喚サモン・モンスター

  魔法名を唱えると地面に魔法陣のような物が現れ、そこの中心に煙のようなものが湧き上がって来た。煙が収まると魔法陣の中心に1匹のモグラが佇んでいた。モグラと言っても中型犬ほどの大きさがある。


「モグ『召喚に応じました。ご主人様マスター。』」

  耳からは「モグ」としか聞こえないのに頭に直接思念が流れ込んできた。これが念話と言うやつか。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。 俺は念話の使い方なんて分からないぞ。取りあえず、普通に会話できるか試してみよう。


「俺の言葉は理解できるか?」

「モグ『理解できます、ご主人様。』」

「ご主人様は付けなくて良い。俺を呼ぶときはユグで良いぞ。」

「モグ『了解しました。ユグ様。』」

魔物にしては言葉使いが丁寧に感じるが、これは相手の念じていることを俺なりにそう変換しているだけなのかもしれない。とあるゲームで魔獣を召喚したときの魔物の定型文そっくりなので、俺のイメージで変換されている可能性が高いと思わざるを得ない。

 俺はステータスウィンドウを出して状況を確認する。 召喚魔法 魔物召喚の横に「魔土竜マジカル・モール*2 1/6」の表記が増えており、その横には1/1の表記も増えていた。更にその横には親密度60と表示されていた。俺が召喚した魔物は魔土竜らしい。10分に微小魔石が2個消費するという意味だと思う。その横の1/1は召喚できる魔物の数だろう。初めて魔法を使って召喚したので現れたのだろう。魔モグラを送還した後に残るのか消えるのかは分かるだろう。最後の親密度だが、60が高いのか低いのかが全く分からないのでこれは保留にしておこう。


「こっちの人間はラーテイと言って、俺の同行者だ。挨拶しておけ。」

「モグ『私はユグ様かユグ様のパーティを組んでいる者としか念話ができませんが、挨拶だけはしておきます。』」

  魔モグラはラーテイに向かって「モグ」と言いながら片手を上げる仕草をした。

「はい、よろしくお願いします。」

  行動から察したのか、ラーテイは挨拶を返していた。

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