第39話 第2章 開戦 6

「アハグトの街周辺には、この初級ダンジョンしかありませんが、エルテルム王国には合計28個のダンジョンがあります。そのうちの1/4である6つは王都エルテルムにあり、ケルゼン伯領には2つのダンジョンが存在しています。もう1つのダンジョンは領都ケルゼンにある中級ダンジョンです。アハグトの街は20年ほど前に初級ダンジョンが見つかってできた街で、ケルゼン伯領でも一番新しい街です。人口全体の平均年齢も若く、銅ランクや鉄ランクの冒険者の数は王都に次いで多いです。昨日、仕事に就いている人口の1/10が冒険者だと言いましたが、アハグトに関しては1/3が冒険者と言えるかもしれません。ただ、現在は住む場所が空いていないので、違う街から転移門を使い、この街に来てから例の方法でこのダンジョンに来る方も多いですね。なので、街の壁の拡張計画は他の街の冒険者から熱望されており、今年中には開始されることでしょう。」       

 この街はできてから20年ほどしか経っていないのか。

「昨日宿泊した春風館は結構歴史がありそうな建物だったぞ。」

「見た目も風格を出したほうが立派に見えますからね。中の部屋や調度品は古くは感じなかったでしょう。古くからある宿泊施設はかなり上級な人物が宿泊することが多いので、それにあやかってわざとそのように見えるようにしているのでしょう。」

  そう言った考えもあるのか。俺も見た時には立派な宿だと思ったもんな。日本でも老舗旅館だとうったところもあったし。

おやっさんが所属している傭兵団が一番最初にこの街の傭兵ギルドに申請したクランだと聞いて、更におやっさんが初期メンバーで一番の年長だと聞いた時に気づくべきだったのだ。 おやっさんの年齢は50歳前後だろう。そのおやっさんが初期メンバーのクランが一番古いってことは、街ができたのは最近ってことだ。5番目に大きい街だと聞いていたので、新しい街だとは考えもしなかった。


「あと10~20年もすれば、ケルゼン伯領でも領都に次ぐ人口になると思われます。今回の拡張で倍近い規模に計画されているようです。中心部から均等に広げる案と、街の東側に同規模程度広げる案が出ているようです。前者のメリットは公共施設の増設で済むので、街の予算が抑えられるところですが、デメリットは施設までの移動距離が新地域からは遠くなることや、門からも遠くなることです。後者のメリットは中心がもう1つ作られることによりアクセスが良くなることで、デメリットは施設をもう1つ増やすことになるので、人員の育成や予算が大幅に増えることですね。アハグトは冒険者の街なので、冒険者の利便性の良い後者の案が優勢ですが、最終的な決定権を持っているのは予算を管理しているアハグト子爵なので、予断は許さない状況のようです。」


ラーテイに話が終わるころに、ダンジョンの入り口近くに着いた。周りには売店が軒を連ねていて、結構な賑わいを見せてい。

 ちらっと値段を見てみたが、街で買った商品より5割ほど高くなっていた。誰も買わないのではないかと思っていたが、亜人と思われる人たちが屋台で買い物している姿が多く目に入った。逆に人族で屋台で買い物をしている様子は全く見受けられなかった。


「何故、亜人たちはこのように値段が高いここの屋台で商品を買っているんだろう?」

  俺は店の店員に聞こえないように、ラーテイにひっそりと尋ねた。


「先ほども言ったのですが、亜人は自分たちの住む街の転移門からこの街の転移門に来るのです。そこから転移施設内でこのダンジョンまで転移してくるので、アハグトの屋台や商店で売っている値段は知らないのです。亜人の国は屋台などは無いそうですし、食料不足で物価が高いので不思議に思わないのでしょう。食べる量も我々より多いみたいですので、支給されている金額では追い付かず、あそこの簡易教会で借金する場合が多いのです。返せなくなると斡旋所に送られると言うわけです。」

  斡旋所に亜人が登録されているわけが理解できてしまった。言ってしまえば、教会もグルになって亜人から金を巻き上げ、労働力を増やそうとしているのだ。街の拡張が近いなら労働力はいくらあっても良いのだろう。労働力が増えれば、1人当たりの単価も減るだろうからアハグト子爵も喜んでいるだろう。店主も教団も貴族も喜ぶ、亜人以外は皆が儲かる仕組みなのだ。

 街での値段を知っているので高く感じるが、これでも地球に比べるとまだかなり安いと思う。購入している亜人たちも知らないので嬉しそうに買っているのだから、俺が文句を言う筋合いでもないだろう。


「こちらのカード差し込み口にカードを差し込んでください。」

  ダンジョンの前にある受付の机の上に、先ほど斡旋所に置いてあったような箱があり、同じようにカードを差し込まなければならないようだ。俺が箱にギルドカードを差し込むと、受付の男性が中に入る許可を出してくれた。横にいるラーテイは顔パスのようだ。


「ラーテイはカードの類は持ってなかったよな?」

「私たち教団関係者は、司祭服が身分証明なのですよ。教団関係者以外が祭服を着ると重罰が科されます。私が着ているキャソックでも3年、礼拝時に着用するアルバなどを無断で着用すると無期懲役が言い渡されます。」

 ラーテイがいつも祭服を着用しているのは身分証明のためでもあるんだな。だけど、そのような服装で戦闘するのは厳しいのではないだろうか。普通の神父ではないのだから、もっと動きやすい祭服を考えた方が良いのではないかと思ってしまう。

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