第38話 第2章 開戦 5

 何度でも試すことができたので、色々と試した結果、契約日数が短いほど登録者が多く、性別は男性がやや多い程度で、種族は人族が約7割を占め、戦闘位置は運搬が圧倒的に多く、前衛が10%、後衛が5%、補助が1%ほどの割合であった。

 亜人が意外にも多かったことに驚き、後衛でも弓使いが多く、魔法使いが少ないことや、補助の人数が少ないことに納得した。魔法の値段が高いことで資金が多くかかるが、それだけ貴重であるため、大切に扱われているのだろう。また、需要も高いのだと推測できる。

 5年契約には亜人はほぼいなかったが、残念ながらエルフの登録者は1人もいなかった。ラーテイに聞くところによると、亜人は国が公務で派遣している状態であり、重大な犯罪が行われても賠償金を支払って取り戻す条約が結ばれているため、斡旋所には送られないそうだ。重大な犯罪を犯した者は人族の国には再入国ができないとされている。しかし、無銭飲食などの軽犯罪は結構あるらしく、1度目は警告だけで送り返すが、2度目からは罰が与えられるため、一定数は斡旋所にいると言われている。あとは借金をして返す当てがなく斡旋所送りになっている者も多いとのことだ。これは亜人の国の通貨経済が未発達なことによる事故のようなもので、故意ではないことが問題になっているようだ。

 エルフが1人も居ないのは、エルフの国には結界が張ってあり、結界の外に出る国民がいないためである。結界内部には魔獣も居なく、動物が多く存在し、農業も営まれているらしい。人族の国で使われている多くの木製品が、エルフの国で作られた物のようだ。兎人族が商品の流通を独占しており、人族が結界内に入ることはまずないらしい。

 ラーテイもエルフ族を見たことは1度もないらしい。今回は様子見だけで契約する気がなく、時間も良いころになったので斡旋所から出て転移施設に向かうことにした。

 斡旋所から出て転移施設の入り口を見ると、先ほどまでの混雑状況は解消しており、中はどうなっているか分からないがすぐに入れる状態にはなっていた。

 転移施設の入り口から中に入ると、中は混雑してはいたが人の流れが出来ていて、それに乗るように移動して行くと両側に扉が見えてきた。


「あの扉の中には4人まで入ることができます。誰も入ってない部屋か、2人までしか入ってない部屋を選びましょう。何人が中にいるかは扉についているライトの数で判断できます。ちょうどあそこの扉が2つのライトが点灯しているので、あそこの扉に入りましょう。」

 ラーテイはそう言うと扉へと進んで行く。俺も遅れまいと人波をかき分けて向かって行った。ラーテイが扉を開け、俺を先に入るように促してくれた。

 中に入ると3人の人物が立っていた。最後にラーテイが入り、中に居た3人の中の1人に大銅貨を2枚渡した。すると渡された人物が呪文を唱え始めた。 一瞬で視界が部屋の中から岩肌の見える外の空間に変わった。近くには道があり、その両側に転移してきたであろう5人組がポツポツと現れていた。 呪文を唱えた魔法使いと思われる人物が再度呪文を唱えると姿が消えた。一緒に転移してきた2人は道を岩山の方へ歩き出した。


「ここで立っていても仕方ありません。あの2人が向かう方角にダンジョンの入り口がありますので、向かいましょう。」と、ダンジョンの入り口に向かって歩きながら、ラーテイに話しかけた。


「先ほどの魔法使いは転移施設の職員なのか?」

「違います。あの者は普通の冒険者です。施設で登録すると転移部屋の使用権が得られるのです。前日までに部屋の使用許可を取っておくと部屋を使うことができます。」

「だが、一旦転移して戻ろうとすると街の外になるので時間がかかるのではないか?」

「そうですね。一往復して施設に戻るのに20分ほどかかります。ですが、それくらい間を置かないと魔力が回復しないのですよ。」

「部屋の使用効率が悪くならないか?」

「大丈夫です。我々が入った扉の反対側にも扉があったのは覚えておられますか?」

  はっきりとは思い出せないがあった気がする。中に2人しかいないと思っていたのに3人居たことに気を取られていた時に転移が始まったので、他のことに注意を向けていなかったのだ。

「あった気もするが、覚えてないな。」

「その扉の向こうには魔法使いの専用通路があって、中の人が転移すると扉のライトが光って知らせる機能があるのです。魔法使いは通路で待機していて、早い者勝ちで部屋を確保するのです。この制度は魔法使いを金銭的に支援する目的で作られたから、ダンジョンへの転移門建設が進まない理由でもあるのです。転移門の利用料が大銅貨2枚なので、冒険者たちにとっても得になるし、魔法使いも1度の転移で大銅貨2枚の利益が出るのですよ。それを1日で10回から15回繰り返せば大きな利益になりますから、専門にしている魔法使いもいるのですよ。」

 会話の内容から、支援制度で回っているところに転移門なんて作ってしまったら魔法使いたちは育ちにくくなるだろうなと思った。

 帰りも使うことになるだろうから、ダンジョンから出る時間もラーテイと相談した方がいいかもしれない。行きほどは混雑はしないだろうが、鐘の鳴る18刻あたりは混むような気がする。

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