第36話 第2章 開戦 3

 名前が売れても、それを利用しようとする者や、妬みなどで陥れようとする者などに対処できるだけの知識と実力があってこそ、意味がある。一歩一歩確実に登っていくのが良いだろう。

 チートな能力や、ずば抜けた才能や力があれば、一気にのし上がることも可能だろうが、残念ながら俺にはそうした類のものはない。初期金やアイテムボックスがあるのは、チートとも言えるかもしれないが、無駄に使ったり、無くしたり、奪われてしまえば失ってしまう。何もない状態から始めるよりは恵まれていると実感できているが、ファンタジー小説で呼ばれるような『俺TUEEE系』のような行動を取れるとは思えない。実際、戦闘してみると余裕で高階層まで突破できる可能性もあるかもしれないが、ステータス値を見ると可能性は低そうだ。


「ダンジョンにはどうやって行くんだ?」

「転移施設から転移しますよ。」

「でも、前に転移門はまだ設置されてないって言ってたじゃないか。」

「転移門はありませんが、行ってみればわかると思います。」

  ラーテイは言って、中央エリアへと向かった。大通りに出ると、冒険者らしき人々がたくさんいた。春風館の近くにはあまり見かけなかったが、中央から離れたところにある低ランクの宿に泊まっている冒険者たちのようだった。 銀ランクの冒険者たちは、食事を終えるとすぐにダンジョンに向かったようだ。

 彼らがどこの宿から来たのかはわからないが、俺の部屋の近くの冒険者たちが出発した時間より半刻ほど遅かったようだ。

 ランクを上げるためには、時間を有効に活用することが必要なんだなと実感した。 行動に内容が付いていないと、何も変わらない。春風館に泊まるのにふさわしいランクではないから、他の冒険者たちよりも行動力を上げていかなければならない。

「この時間は春風館の近くには冒険者が少ないけれど、大通りに出ると急に増えたな。この時間帯がダンジョンに挑む冒険者が活動を始める時間なのかな?」

「鉄ランクの多数がこの時間から活動を開始しますね。銅ランクの冒険者の多くは、1刻から2刻後ほどから活動する冒険者が多いです。それに、銅ランクの冒険者で毎日のようにダンジョンに挑むのは、冒険者に成りたての者が多いですね。長期間、鉄ランクの者は宿代と飲食代と提出義務の魔石しか得ようとしないので、毎日は挑みません。」

やはり上位の冒険者ほど、活動時間が早くて多いんだな。


「ここの屋台で食事を買って行きましょう。食事袋は魔法の効果で3種類の食料を3品の計9食を10日間保存することができます。この屋台で9品全部購入されてもよろしいですし、他の店を回ってもよろしいですよ。」 「いや、とりあえずこの屋台で全部買って行くよ。お勧めを教えてくれ。」

「まずは定番の魔豚の甘辛サンドと魔豚の腸詰サンドをお勧めします。残りはユグ様の好みで選ばれたらいかがでしょう。」

「その2品と‥‥‥この串焼きも袋に入れても大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です。一番人気の魔牛の串焼きを選ばれるとは、中々の眼力ですね。」

「この街まで案内してくれた少年に何かを奢ると約束したんだが、門で止められたんだ。そのときに門番にこの街で一番人気の商品と代金を聞いて少年にお小遣いを渡したときに知ったんだよ。」

「そうなのですか。ですが、串焼きは主食というより副植物なのでお勧めはしなかったのです。」

  俺にしたら、この串焼きだけで満腹になるのだろうが、昨日の皆の食べっぷりを見るに、この串焼き程度ではおやつ代わりにしかならないのだろう。 日本人は小食で、アメリカなどでは2〜3倍の量の食事をする人の割合が多いと聞くが、グランガイズは更にその倍くらいは食べているのではないだろうか。このサンドや串焼きにしても、大きさが日本の4〜5倍はある。それなのに全部の品が銅貨2枚だと言う。食料の物価が地球に比べるとすごく安いように感じる。 俺とラーテイはそれぞれ3種9品を買い、大銅貨2枚を払う。銅貨2枚のお釣りを受け取ると、転移施設へ向けて歩き出した。


施設に着くと、入り口に人が集まって混雑していた。罵声が飛び交う中、我先へと中に入ろうとする冒険者で溢れかえっている。それを見ると、日本のように列を作って順番を待つ方が、混雑が解消する速度が速いことが理解できた。

「ラーテイ、この中を俺たちも行かねばならないのか?」

「このような状態が後1刻は続くでしょうから、それ以降に出直すという方法もございますよ。」

「初日から何も分からない状態でこの中に入るのは危険かもしれないな。どこか1刻ほど有意義に時間が潰せる場所はないのかな?」

「ユグ様はあまり気乗りされてないようでしたが、人材斡旋所に寄ってみるというのはいかがでしょうか。道具屋や武器屋も空いてる店はまだないでしょうし、今は夕方より混雑していませんので、様子を見るのは良いのではないでしょうか?」

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