第33話 第1章 異世界到着 29

 豚の柔らか煮は肉の塊が20個入っていたが、ライドルが半分、俺が2個、ラーテイとおやっさんとが4個づつ食べた。 シチューもおれとおやっさんが2杯、ライドルとラーテイが3杯食べることになった。 最後に川魚の餡かけが出されたが、アユほどの大きさにの魚だったので、何とか食べ終えることが出来た。


「肉の量が結構多いですが、肉は沢山捕れるのですか?」

「ダンジョンの中階層で魔豚や魔牛を専門に狩る冒険者が多いので肉の流通量は多く、亜人の国や魔族の国に送られてるほどだ。 亜人や魔族の土地は魔獣が出るので、農畜産業には向いてない。 亜人も魔族も人口が増加して常に食糧不足なんだ。 この街で見かけれる亜人の多くは冒険者として、自国に食料を送る役目も負っているんだ。 牧場で育てられた豚や牛は高級品でな、王都や東側の国がほとんど買って行っちまうので出回らないのよ。 魚は海のないエルテルム王国では品薄だ。 川魚でさえ、それほど売られてはいない。 今回のコースの主役は川魚だったようだな。」

 先日まで日本に居た俺には肉料理のインパクトが強すぎて、魚料理はおまけみたいに思えてしまう。

 食べ終えた後はおやっさん達と世間話をして、最後に連絡手段を聞いて店を出た。 ほろ酔い気分になった俺は、ラーテイに先導されて、春風館に戻ってこれた。 自分1人であれば戻ってこれなかっただろう。


「明日の朝食は部屋でお取りになるようですが、何時ごろにお出かけになりますか?」

「朝食は何時ごろに運ばれてくるんだ?」

「朝の鐘が6刻に鳴り、1刻後ほどで運ばれてくると思います。」

「それでは8刻に出かけるとしようか。」

「ダンジョンに行かれるのですね。 私は朝の鍛錬で5刻から7刻あたりまで宿を留守にしていると思います。 必ず戻ってきますので、用件が出来た場合は受付に伝言を伝えお待ちください。」

「解った。 これから師範に連絡をとるのか? 」

「そうですね。 早くしないと、枢機卿台下までつなぎが取れませんからね。」

「それなら、取っておきな情報を渡しておく。 明日の17刻に重大な事件が起こるんだ。 そのことについての情報を少しだけだが持ってると言っておけばつなぎも取れやすくなるはずだ。」

「明日の17時に何か起きるのですか?」

「それは明日になれば分かるよ。 起きた時点で被害が出るようなことでは無いことだけは断言しておこう。 すぐにつなぎが取れなくとも、俺がそのことに関する情報を持ってることだけでも伝えておけば、向こうから俺に連絡を取ってくると思うぞ。」

「解りました。 今日は色々ありお疲れでしょうから、ゆっくり体を休めて下さいね。」

「おう。 それでは、お休みなさいだ。」

 ラーテイは一礼をすると部屋の鍵を開け部屋の中へと入って行った。 俺もカードを差し込み鍵を開け部屋の中に入った。


 部屋に入ると、鍵をかけ巾着の中からスーツケースを取り出す。 スーツケースの中から替えの下着と寝間着と歯ブラシと歯磨き粉と洗面器とフェイスタオルを取り出しスーツケースを巾着に戻した。

 着ている服を脱ぎ、樽からマグカップに水を汲んで歯を磨き始めた。 歯を磨き終え、部屋にある個室に向かい、口をゆすいで口内の水を椅子に空いている穴に吐き出す。 すると一瞬で粉に変わった。 

 粉袋を持って来ていなかったので、粉は穴にたまったままだ。 体も清掃の魔法をかければ綺麗になるそうだが、やっぱり風呂に入りたい。 しかし、無い物は仕方ないので体だけでも拭いておこう。

 個室から出て、洗面器に水を汲んでタオルを濡らして体を拭きて行く。 体を拭き終わり、汚れた水を穴に捨てると、すぐ粉になった。 魔法は一定時間継続するようだ。 

 下着も新しいのに着替え、着終えた服一式と粉袋を持ち個室で清掃の魔法を自分に向かってかける。 どうやら手に持っている品も効果範囲に入るらしく、綺麗になったみたいだ。 穴の中の粉も床に落ち粉も粉袋の中に吸い込まれていく。 それを見ていると魔法の世界に来たのだと実感が湧いてきた。

 椅子を見ると色が白から黒に変わっている。 そう言えば効果が切れたら色が変わるって言ってたな。 椅子に再度、清掃の魔法をかけ、色が白に変わったのを確認して個室から出た。

 そう言えば、着替えの服を2着買ったときにラーテイガ驚いていたのを思い出した。 理由を聞くと、服は替えなどは持たずに1着を着潰すのが普通で、予備は持っても1着だと言っていたな。 お洒落の概念が薄く、清掃や修理の魔法が有れば替えの服なんて要らないと言う言葉も理解できた。 エルテルム王国は気温の寒暖差が少ないらしく、上着も持ってないと聞いた。 大半の国民は寝るときも着替えず、ずっと同じ服を着たまま生活するらしい。 俺もその内、そうした生活になじんでいくのだろうか‥‥‥

   寝間着に着替え、着終わった下着をたたんで袋に入れ、リュックに仕舞い、服とタオルを椅子に掛けてベットに潜り込んだ。


 これだけ色々な出来事を体験して、まだ一日しか経ってないことに驚いた。 日々を惰性で送って来た俺には今日と言う1日だけで、今まで生きてきた期間の出来事より多くの出来事を体験することになった。

 ベットで今日あったことを色々と反芻しながら目を閉じていると、意識が遠のいていくのだった。

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