第32話 第1章 異世界到着 28
「ライドル、エール3杯にワインが1杯だ。」
「解りました。 料金は先払いなので、すいませんが硬貨を渡してもらえませんか? 料理が大銅貨12枚で酒が銅貨11枚です。 心付けを渡せば、料理が出てくるのが早く、少し豪華になると思います。」
「心付けの相場が分からないな。」
「心付けに相場なんてないぞ。 チップを渡さない奴も多いからな。 コースなら料理は運んできてくれるが、それは運び代が料金に含まれているからだ。 酒や単体の料理なら自分で受付まで行って、代金と引き換えに自分で持ってこないといけない。 コースを頼むヤツは心付けを渡すことで、店員の態度や調理人の気分を良くするのが目的だからな。 渡さないことで態度や料理の品質が落ちれば店の評判は落ち、客が減ることになる。 幹部会では銅貨3枚を上乗せしているが、2~3人分のエール代くらい上乗せして置けば上客と判断されるぜ。」
確か昼間の食堂でラーテイが、ワインが銅貨5枚でエールが2枚って言っていたはず。 ここでは違うのかもしれないが、計算上は同じと推測できる。 取り合えず、ライドルには銀貨1枚と大銅貨4枚を渡しておこう。
「ほれ、代金だ。 釣りは心づけとして渡しておいてくれ。」
「ほう、兄ちゃんは計算が早いんだな。 普通ならライドルみたいに硬貨を足すしかできないんだが、演算ができるのか。 おいらは書類仕事もするから分かるがライドルは咄嗟には無理だ。 兄ちゃんは事務仕事でも引く手数多だな。」
「取りあえず、全額渡しておけばいいのですね。 では行ってきます。」
ライドルは硬貨を受け取ると、受付の方へ歩いて行った。
暫くおやっさんと世間話をしていると、ライドルが木製のジョッキを4つ持ちながら戻って来た。
「では、飲もうか。」
そう言うとおやっさんは一気にジョッキのエールを半分くらい飲みほした。 俺もそれに続きエールを一口飲んでみた。
生温い‥‥‥
日本で俺が飲む飲み物と言えば、えてるのかあったかいのが普通なので、常温の飲み物を飲むことは滅多にない。 特にビールなどは冷えてないと違和感を感じる。 西洋の方ではビールは常温で飲むのが普通だと聞いたことはあるが、喉ごしが良くない。 初めて飲んだ感想を言えば、ワインとビールを足して2で割った感じだ。 かすかに漂うフルーティーな香りにコクが口内に広がってくようだ。
「兄ちゃん、微妙な顔になってるが美味くなかったか?」
「いえ味は悪くありませんよ。 俺は冷やして飲むと言うのが普通だったので、少し驚いただけです。」
「冷やして飲むか‥‥‥ なんかルクサセス魔法国から戻って来た傭兵が、冷えたエールのようなものが売っていたって言ってたな。 確かラガーって言ったぞ。」
やはりグランガイズでもラガービールは有るのか。 想像したら飲みたくなってきたな。
そのようなことを話していると料理が運ばれてきた。
最初に運ばれて来た料理は豚の角煮っぽい肉の塊だ。 だが、大きさが俺の知っている角煮の3倍はある。 それが1枚の木製の皿に山積みにされていた。
「今日のコースは魔豚のい柔らか煮と魔牛のシチューと川魚の餡かけでございます。 残りは後ほどお持ちしますのでごゆっくりおくつろぎ下さい。」
そう言っている店員の後から、パンの入った籠が運ばれて来た。 昼間に食べた黒パンと違い、バケットのような形のしたパンだ。 今運ばれてきた料理だけでも4人でなら丁度良い量だと思うのだが、あと2品来ると言う。
ライドルが肉の塊を取り皿に分け各自に配ってくれた。
「暖かいうちに食っちまおうぜ。」
おさっさんがそう言うと、ライドルが素手で肉の塊を掴みかぶりついた。 机の上にはナイフとフォークがあるんだが、素手で食べる料理なのか?
ライドルは肉の塊を食べ終えると机の上に有った布で手を拭き、ジョッキを持ってエールを流し込んだ。
「兄ちゃん、ライドルなんて見てないで料理を食ったらどうだ。」
「いや、若いからか豪快に食べるものだなと見とれてましたよ。 最近は食欲も落ちてきて、あのように食べることが無くなったんで羨ましくなったんです。」
「兄ちゃんはまだ若いじゃね~か。 爺臭いこと言ってないで食っちまおうや。」
おやっさんはナイフとフォークを操りながら料理を口に運んでいる。 俺もそれに見習い肉の塊をナイフで切って口に運ぶ。 日本で食べた豚の角煮より味付けは薄いが、肉そのものが持っている濃厚なうま味が口いっぱいに広がってきた。
おやっさんのジョッキが空になったので、ライドルに大銅貨1枚と銅貨7枚を渡してエールを6杯とワインを1杯買いに行ってこらった。 ラーテイの飲む速度からして、もう一杯で終わるだろうと見込み、俺たちは2杯づつ飲むと計算し、前もって買っておく。 エールは常温なので、先に買っておいても味は落ちないだろう。
ライドルが器用に7つのジョッキを両手に持って戻って来た。 おやっさんは1つのジョッキを受け取るとまた半分くらい一気に口に流し込んだ。 ライドルも勢いを衰えさせずに肉の塊を消費していく。
暫く食事に集中していると、店員が大きな木の器に入ったシチューを運んできた。 具は肉とジャガイモっぽい物と豆が入っていた。 具だくさんで肉の塊が器一杯にあふれんばかりに入っている。 ライドルがそれを匙ですくい、それぞれの器に入れてくれる。 それでも、配り終えた後にも器には半分以上残っていた。
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