第29話 第1章 異世界到着 25

 門番や村にいる傭兵はあくまで警戒要員で、実戦部隊はクランハウスで訓練しつつ待機してるのか。 新人研修もしっかりなされてるようだし、エリート集団って感じだな。 街と契約してる傭兵クランは街や村を守ることに徹して、契約してないクランは稼ぎを求めて戦場に行くのか。 傭兵クランの手が回らな範囲を冒険者が警戒することになるんだな。


「正規兵はなにをしてるんですか?」

「街や村にはほとんど正規兵は駐留してない。 領都ケルゼンの騎士団の駐屯所で生活してる。 領都ケルゼンには領主が住んでる城が有ってな、そこに政務機関や軍隊の駐屯所などが併設されてるんだ。 軍隊は座学や設営作業や輜重輸送や単純な訓練が主な仕事で、出世や安定を希望する上級国民がなるような職業だな。 おいらたち一般庶民には縁遠い仕事だよ。」

 正規軍は作戦立案や後方支援に特化して戦闘には重きを置いていないんだな。 やはり長期間戦争が無いと軍隊と言うものは、ただの金食い虫みたいに思われてしまうのだろう。 ただ、魔法が使えるおかげで、村の初期建築作業に使える点は評価されてるのだろう。

「だが、正規軍にも良いとこは有る。 予算が潤沢なので中級の攻撃、防御、補助の魔法を奥の隊員が複数取得しているのだよ。 大隊長クラスともなると上級魔法を取得している人物もいると聞く。 傭兵で上級魔法など高額で取得できないが、やつらは国費で賄うから熟練度さえ足りれば取得するらしい。 長年、戦争などが起きてないから無用の長物だが、昔は上級魔法が使えれば1人で千人以上の活躍をしていたと聞く。 まぁ、出世競争で腕のほどは分からんが上級魔法は使えるだけでも強力な戦力になる。 よほどな馬鹿じゃない限りは大丈夫だろう。」

 おやっさん、それはフラグにしか聞こえないぞ。 魔法の威力がどの程度あるのかサッパリ分からないので凄さは分からないが、一応頼りにはさせてもらおう。 

 発展著しいエルテルム王国でさえそのような人物がいるのだから、もっと昔か発展している東側の国やアリライ神聖国や魔法が盛んと言われているルクサセス魔法国などは大いに期待できるのではないだろうか。

 あとは魔族と呼ばれるだけあって、魔族も魔法が得意な種族が多いだろう。 南井爺ちゃんは魔族は温厚だと言っていたが戦争が起きてしまえば、さすがに行動を起こすはずだ。 人族とは連携は取れないだろうが、亜人を通じて協力を仰げないものだろうか。 俺みたいな一市民が考える事ではないが、ある程度の情報を知ってる身からすると色々考えてしまうな。


「おやっさん所属のクランハウスは街のどの辺りにあるのですか? やはり転移施設に近いエリアにあるのですか?」

「いや、中央エリアは公共施設や商業施設が多いので土地の価格が高い。 傭兵のクランハウスは戦闘訓練場などもあって敷地が広いから地価の安い南西エリアに集中しているぞ。」

「それでは村に何か起きた場合に転移施設まで行くのに時間がかかりませんか?」

「兄ちゃん、盗賊連中も馬鹿じゃない。 奴らは傭兵が来ることを前提に、如何に素早く、如何に多く略奪しようと考える。 そんな時に馬鹿正直に一々転移門を使うはずないだろ。 村の柵際に何カ所にも転移版を埋めてあるのよ。 村の警備員からの情報から、何処から侵入したかによって、撤退経路を予想してクランの転移陣から順次転移していくんだよ。 盗賊も用心して転移版を探して除去しようとするやつもいるが、転移版には感知魔法がかけられていて触れれば警備の者が駆けつけるんだ。 もちろん、犯人が逃走しても村の警備は厳しくなるので、盗賊が押し寄せることはできなくなるからな。 俺たち傭兵は盗賊を捕まえることではなく村を守ることだから予防として町や村でも告知している。」

 確かにそうだよな。 グランガイズの傭兵団の立ち位置は警察ではなく警備会社みたいなものだからな。 警備会社が警察業務もついでにこなしていると言った方が正しいのかもな。


「兄ちゃんの宿は何処にしたんだ?」

「一応、春風館と言う宿に決めましたが、稼ぎによってはランクを落とした宿にするかもしれません。」

「ほう、南東エリアにある春風館か。 南東エリアは中級層の市民や宿が多く軒を連ねるエリアだな。 春風館を選ぶとは兄ちゃんも奮発したな。 銀ランクあたりが定宿に使ってるアハグトでも老舗の宿だ。 お付きの神父さんも数日間は羽を伸ばせるな。」

「私はユグ様が望まれることを実現できるように配慮することが仕事なので、私情は挟みませんよ。」

「ユグ様? 兄ちゃん、そんな名前じゃなかったよな。 キサラギなんたらって名前だったはずだ。」

「おやっさん、そのことは後で話しますんで、ここは流してください。」

「色々と事情が有るんだろうから、詮索はしないでおくぜ。 神殿関係者が認めてることを、一介の傭兵が詮索するのもおかしいからな。」

「理解が早くて、恐縮です。」

 やはり、おやっさんは思考も柔軟で、理解力もある人物と見える。 偶然だがこのような人物とこの世界に来た初期段階で知り合えたのは幸運だったな。 ステータスでも幸運値が高かったのは偶然ではないのだろう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る