第27話 第1章 異世界到着 23

「おう兄ちゃん、無事に出てこられたんだな。 って、監視付きかよ。」

「おやっさん、お世話になりました。 この神父はラーテイといって、監視も兼ねてると思いますが記憶のない俺に助言を与えてくれる貴重な存在でもあるのですよ。 付き合いは短いですが人間性も善良で、見かけ通り取っつきやすい男ですよ。」

「まぁ、兄ちゃんが良いなら、それで良いんだけどな。」


「おやっさん、俺は家に帰ります。」

「俺も帰ります。」

 ゲルタと名も知らぬ門番がおやっさんに声をかけ、家に帰って行った。


「あの2人は世帯持ちだ。 仕事が終わったら寄り道せずに、すぐに帰っちまうんだ。 子供も幼いし、嫁さんを楽させたいんだろう。 おいらも世帯は持ってるが、子供も成人してるし、家に居ても邪魔者扱いだからな。」

 おやっさんはそう言うと豪快に笑った。

 おやっさん以外とは会話してないから、実際居ても居なくてもどっちでも良い。 


「私は帰ってもすることが無いので、ご一緒させていいですか?」

 ライドルが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「別に構わないぞ。 今日の晩飯は俺のおごりだから、おやっさんもラーテイもライドルも遠慮なく食べてくれ。 酒も飲んでも良いが、家に帰れるくらいには抑えるんだぞ。 特にラーテイ、お前が酔っ払って正気をなくすと宿屋に戻れなくなってしまうから気を付けてくれ。」

「私は聖職者です。 人様の前で醜態はみせませんよ。」

 グランガイズの聖職者と言う概念が地球と違う限り、忠告はしておくべきだろう。 性に関して違うのだから、飲酒に関しても違うのかもしれないからな。


「俺はこの街の店なんて分からいので、おやっさんが良いと思う店に案内してください。」

「そうだな‥‥‥ 傭兵や底辺の冒険者が集まる店は兄ちゃんには合わないだろう。 傭兵団の幹部会議で使う店が値段も手ごろで、雰囲気も悪くない。 ライドル、お前は店の場所知ってるだろ。 ひとっ走りして店に空きが有るか見て来い。 個室が空いてれば確保してもらっておけ。」

「はい、行ってきます。」

 そう言うとライドルは走って行った。


「兄ちゃん、結局この街に腰を据えることにしたのか?」

「ほかに行く当ても無いので暫くの間、この街で冒険者をやってみようと思います。」

「ほう、冒険者になるのか。 夕食を奢ってくれると言い、懐は温かいんだな。 それとも、ここの神父さんに借りたのか? 教団から金を借りて返せなくなると斡旋所送りになるから、よく考えて借りるんだぞ。 やつらは貸す時には笑顔だが、集金に来るときは鬼のような面になるからな。」


「そんなことはありませんよ。 借りたものは約束の期間に約束した額を返す。 人としての当たり前の事ができないのですから、多少強引な手段になるのは致し方ないでしょう。 我々も心苦しいのです。 人の道を踏み外してしまった者を正道へと導くのも我らの義務でもあるのですから。」

 いや、貸しかたにも問題あるだろう。 返済計画なんてものがグランガイズにあるか分からないが、上限はあるとは言え、希望金額を貸していたら返せなくなる奴なんて大量に出るだろう。 教団も斡旋所との関係で資金を回収できる仕組みが有るからこそ、そのように気軽に貸せるのだろうけどな。 逆に返せないことを見越して貸してる疑惑すらある。


 今、エルテルム王国全体が発展期を迎えてると言っていたし、その中でもケルゼン伯領は上位に入るらしい。 アハグトの街も開拓村を新たに複数作ることを王国に申請しているらしい。 エルテルム王国全体が好景気だが、単純労働者は人気が無い。 そこで人材斡旋所だ。 契約が為されない者は強制的に単純労働を課せられる。 安い賃金で働かせられる人材が大量に居れば、仕事は捗るはずだ。 借金を返済すれば即釈放となれば、数カ月で返済して退所するものも多くなるはなので、刑期が最短1年になってるのだろう。


「巾着に硬貨入れが入ってまして、結構硬貨が入っていたのです。 1~2年くらいは現在の宿に泊まっても大丈夫なくらいの資金は有ります。 生活魔法全種と召喚魔法、杖術と付随スキルを1つ覚えたので冒険者で稼ぎますよ。」

「それじゃ、一安心だな。 召喚魔法なんて珍しい魔法が使えるのか。 街中では使うなよ。 俺たちの仕事が増えるからな。」

 おやっさんはさらに豪快に笑った。


「門番は正規兵だと思ってたんですけど、傭兵だったんですね。」

「そうだ。 大抵の街の門番や街、村の警備は傭兵が請け負っている。 街の門と街中の警備は、その街の一番古い傭兵クランが任される。 一番最初に登録したクランは街の名前を取って名付けるんだ。 その例に倣って、うちのクランの名前はアハグト傭兵団って言うんだぜ。 アハグトには8つの傭兵クランが有るが、人数や練度は断トツで一番だ。」

「アハグトで一番の傭兵団だったんですか。 正規兵と比べたら、どっちが強いんですか?」

「正規兵は親の後継やコネでなるやつが多いし、戦争はおろか戦闘経験すらないやつらばっかりだ。  そんなやつらが村の警備で野盗なんかと遭遇したら全滅しちまうぜ。 あいつらは土木工事ばっかり上手になって戦闘になんて使えないからな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る