第13話 第1章 異世界到着 9

「あちらにお見えになられている貴族が、この街の管理を任されているアハグト子爵ですわ。 本国から枢機卿が参られたと聞いて取り急ぎ駆け付けたみたいですね。 その子爵に枢機卿来訪の趣旨を説明しているのが、キサラギ様の護衛を務めることになる神父ラーテイです。」

 え? ここは普通、女神官が来るんじゃないの? 全世界の俺からブーイングが起こるぞ! シスターはラーテイと呼ばれた男の横まで歩を進め、子爵と神父に向けて話しだした。


「アハグト子爵、御来訪いただき御苦労様です。 神父ラーテイ、子爵様の御用件は伺いましたか?」

「アハグト子爵の御用件は、ミケイル枢機卿台下とカステレウス大司教台下の来訪の理由とキサラギ様が水晶の検査で白く光った理由をお聞きになりたいとの事です。」

「解りました。 水晶が白く光った理由についてはステータス表示で国籍と所属地域の登録が為されてなかった事によって起きたとのことです。 犯罪等の容疑が有った訳では御座いませんので御安心ください。 枢機卿台下と大司教台下がいらっしゃった件は聖王国でも半年ほど前に同様な事象が起こったので、その為の確認で来訪されたとの事です。 確認されて、何も問題がないとの事ですので、両台下は当神殿の視察をなされてます。」

「それでは、そちらの男は何の問題も無かったと言う事ですかな。」

 アハグト子爵は俺の方を見ながら、シスターに確認を入れた。


「はい、何の問題も御座いませんでした。 ですが、記憶を失って御困りとの事でしたので、神殿から神父ラーテイを警護役と保護司を兼ねて随行させる事になったのです。 後ほど住民登録の為に役所に登録に同行させる予定でしたのですよ。」

「記憶が無いのですか。 それはお困りでしょうな。 問題が無いとの事ですので我々は引き上げると致しましょう。」 

 そう言うと、アハグト子爵と兵士達は引き返して行った。 拍子抜けするほど素直に引き返して行ったな。 確認の為だけなら配下の者にさせても良かっただろうに。 枢機卿か大司教に直接会えればラッキーくらいの考えで来たのだろうな。 俺はラーテイ神父の側まで歩いて行き、ラーテイ神父を観察していた。 

 ラーテイ神父は黒い祭服を身に纏い、戦闘司祭と言う割には武装しているようには見えず、筋肉粒々なマッチョの体質とは思えない細身な体をしている。 髪は金髪で、年齢は20代くらいの如何にも人の好さそうに見える若者って感じの男だ。  身長は180くらいあるだろうか、俺より高いな。 身長で負けたくらいで悔しいとか思ってないからな!


「戦闘司祭ラーテイと申します。 私の事はラーテイとお呼びください。 拳闘術スキルと補助と治癒の魔法が使えます。 暫くの間御一緒させて頂きますが、御迷惑にならないように助力させて頂きます。 どうぞよろしくお願い致します。 分からないことが有れば、何でもお尋ね下さい。 私の知り得る事であればお答えさせていただきます。」

「俺は如月俊樹だ。  記憶が無くて、常識も全く分からない状態だ。 色々質問するだろうがよろしく頼む。」

 俺はそう言ってラーテイに向けて右手を差し出した。 ラーテイはその手を不思議そうに見つめている。 もしかしてグランガイズには握手と言う文化が無いのだろうか。 こういった地球での常識が無意識で出るのは仕方がないが、誤魔化し方も考えねばなるまい。 俺は何事も無かったように右手を引っ込めシスターに謝意を伝え、ラーテイと今後の予定を話し合うことにした。


「まず、何からすれば良いのかな? 住民登録やらをする為に役所に向かうのが良いのかな?」

「そうですね、何をするにしても住民登録はしておいた方が宜しいと思いますよ。」

「それでは役所まで案内を頼む。」

 ラーテイは了承し、俺を先導して歩き出した。


「なぁ、ラーテイ。 戦闘司祭と司祭って何が違うんだ?」

「まず出発点が違いますね。 戦闘司祭は戦闘修道院に入ります。 司祭は通常の修道院です。 通常の修道院では神に祈り、修行しながら労働し経験や知識を得る事が目的です。 戦闘修道院は祈りと身を鍛え、後に聖騎士となるべく修練するのが目的なのです。 戦闘修道院から聖騎士にならず神官への道を歩む者を戦闘司祭と呼びます。 この街には神殿内に小さな修道院も併設されておりますが、戦闘修道院は領都にある大神殿内にしか御座いません。 戦闘司教まで叙聖される方もおられるのですよ。」

 ラーテイは誇らしげに語ってくるが、宗教に興味がない俺からすれば、司教も司祭も変わらないように感じてしまう。

 

「俺に向いている職業って何があるんだろうな。」

「私は分かりかねますが、要はキサラギ様が何を望まれているかによると思いますよ。 神に仕え、民に奉仕したいなら神職の道へ。 何かを作って自分を表現したいなら生産職の道へ。 戦うことや世界を渡り歩きたいと思われるなら傭兵や冒険者になると言う事も候補にあがるのではないでしょうか。 安定した生活を望むなら役人になると言う道も御座います。 後は‥‥‥その日暮らしで良いと思うのであれば、単純労働者と言う手も御座いますね。」


 自分が何者で何がしたいかなんて考えた事なんてなかったな。 大学時代に暇つぶしで始めた仮想通過取引で儲けを出したのをきっかけに個人トレーダーの道へ進んでいっただけだ。 情報分析が得意だと言う訳でもなく、運の良い男と例えるのが正しいだろう。 俺は数年前からアメリカの某電気自動車や大手IT事業の株に投資して儲けを出して売り抜け、今では細々と趣味で日本の外食関連の株で遊んでいるような状態だ。 趣味は読書程度だし、外出も好まない。 人付き合いも多いほどではないし、散財する要素がない。 多分、今の生活なら50回くらいの人生を繰り返せるほどの資産はあったな。 転移前に住んでいたマンションも俺の名義だし、マンションの家賃収入だけでも俺が余裕をもって何人か暮らせるだけあった。 まぁ、もう無くしたも同然だから意味ないがな。


「キサラギ様がお持ちの資金の状態にもよりますが、資金が多ければ冒険者や傭兵がお勧めですね。」

「ほう、何故資金の多寡で推薦する職業が変わるんだ?」

「例えば神職や生産職や役人や単純労働者はスキルや魔法の所有数ではなく、熟練度が大事になってきます。 冒険者や傭兵も熟練度も大切ですが、所有スキルや所有魔法によってやれる事の範囲が大幅に変わってくるからですよ。 スキルや魔法を会得するには資金が要ります。 特に中位や上位のスキルや属性魔法は結構お高いですからね。」

「傭兵や冒険者と言うのはどのような事をして金を稼いでるんだ?」

「傭兵は傭兵組合ギルドに登録して、組合ギルドに登録しているクランに所属するのが大半です。 傭兵のクランは街の役所と契約して街や村の警護や領内のパトロールを受け持っていますね。 罪を犯して街に入れなくなった連中や、冒険者くずれの連中が野盗となり村を襲うことがあるのです。 それを防ぐのが目的ですね。 この街の門番も傭兵クランが任されているのですよ。」

 おやっさん達はこの街の正規兵ではなく傭兵だったのか。 あ、後でおやっさんにも会いに行かないとな。


「冒険者は冒険者組合ギルドに登録して、個人や組合ギルドの募集で集まった人や特定のパーティを組んだり、クランに所属したりと様々です。 それぞれにメリットやデメリットが御座います。 個人は自分の都合が優先出来ますが、よほどの実力が無いとかなり危険です。 組合で募集をしたり、募集しているグループに参加するのも自分の都合に合わせられるけれど、実力が不釣り合いだったり、信用がどこまでおけるか分からないところがデメリットですね。 特定のパーティを組む場合は自分の都合は優先されないけれど、ある程度信用できる仲間と言う事になるでしょう。 クランに所属すれば組織の一員としての働きを求められますが、一定の所得と新人のときに細やかな指導を得られることです。」

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