第12話 第1章 異世界到着 8

「少しお待ち頂きなさい。 キサラギ殿、最後の確認させていただいて宜しいですかな。 貴殿は南井善次郎と言う人物を御存知ですかな?」

 予想していなかった質問に、思わず答えに詰まってしまった。 そうだった、地球時間では40年前だけどグランガイズでは100倍の速度だ。 と言う事はグランガイズは5か月前の出来事じゃないか。 無国籍の前例が一件と聞いた時に予想しておくべきだった。 このクラスの尋問官に一瞬でも躊躇したのはまずかったな。 完全に知ってることはバレたようだ。


「なるほど、御存知なのですね。 彼がどの様な結末を辿ったかは御存知ですかな?」

「はい、知っております。 どのような状況で何をしたのかは知りませんが、処刑されたと聞きました。」

 俺は観念して知ってる情報を素直に話すことにした。 ここで下手に心証を悪くすると後に後悔することになりそうな予感がしたからだ。


「ミケイル枢機卿、こ奴は神聖国でも上層部しか知り得ない事柄を知っておるぞ。 これは大問題ではないかね。 やはり大聖堂に連行して徹底的に身柄を調べるべきではないかね。」

「それには及びませんよ。 教皇からこれを御借りして来て参りました。」

 ミケイル枢機卿はそう言うと、懐からビー玉くらいのガラス玉の様なものを取り出した。 カスはそれを見て驚愕の表情を見せながら

「それは神意球ではないか。 大聖堂から持ち出すことは禁止されていたのではないかね。」

「教皇様が必要になるから持参して行けようにとお達しがあったのですよ。 教皇は持ち出し許可を与える権限が有り、枢機卿は使用者権限が有りますので何の問題もありますまい。 キサラギ殿、私の手に触れて下さい。」

 ミケイル枢機卿は右手に神意玉を持ちながら、左手を俺の方へと差し出してきた。 おれは諦念の状で枢機卿の手を取ると神意玉は光輝き出した。 


「光の神から神意が下されました。 キサラギ殿は大神が連れてこられた迷い人だそうです。 迷い人とは、この世界の理が無い世界からこの世界に送られてきた一般人だそうです。 キサラギ殿に過度に干渉するなと大神から警告があったようですね。 これでキサラギ殿に対する嫌疑は晴れました。」

 そう言ってミハイル枢機卿が微笑みながら席を立ち上がったってドアの方へと歩を進め出した。 それにつられた様にカスもいそいそと追いかけて行く。 リーリアス神父が扉の錠を外し、扉を開放する。


「長司祭リーリアス、 キサラギ殿に王国からの干渉無きように警告せよ。 下手に干渉すると神罰が下ると言っておきなさい。 それと彼はこの地に不慣れな状況でもあります。 案内役に1人、有能と貴方が思う戦闘司祭をお付けしなさい。」

「案内役の件、畏まりました。 早速用意させます。」

 リーリアス神父は目を閉じ瞑想でもしているような状態になった。


「キサラギ殿、私たちが直接干渉出来るのはここまでです。 後は王国の庇護下に入ることになります。 一応、忠告は入れましたが、王国の動きは読めません。 神殿から護衛を付けますのでご自由にお使いください。 神殿の関係者を側に置いておくと王国の連中も無茶な行動も取れないはずですよ。 それに、この世の常識やある程度の高度な知識も得られましょう。 司祭ならば魔法や職業を選択して配付を授けることも出来ますよ。 お布施は頂きますがね。」

 特典付きの警護か。 これは受けておくべきだな。 リーリアスから配付を受け取るよりは気が楽だろう。


「御厚意、有難うございます。」

「何、こちらとしても貴殿とは交友を繋いでおいた方が有益だと思っての事。 警護の者に不満が有れば、この神殿に連絡を入れて掌院ケッセルに申し出ると対応するように命じておきます。 他に何か『思い出した』事があれば気軽に護

衛の司祭に話してくださいね。  私共は貴族とあまり関係を持つことは許されてません。 神殿の内部の視察を行って本国に戻りますので、ここで失礼します。」

 そう俺に告げると、大司教と騎士2人とケッセル神父を率いて廊下を入り口とは逆の方向へと歩いて行った。 ミハイル枢機卿は俺が記憶が無いと言ってることを嘘だと見抜いているようだったな。 結果的に彼がここに来てくれたのは俺にとってとても有益なことになった。 あと、じいちゃん。 何だかんだ言って、光の神に俺の事を頼んでくれていたんだな。  あとはこの街の貴族との話を無事に乗り切れば自由が待ってる‥‥‥はずだよな?


「キサラギ、随行する司祭の用意が出来た。 受付に先に行くように命じてあるので、そこで合流するように。」

「キサラギ様、私が表門までお送り致します。用意が出来たら仰ってください。」

 リーリアス神父が相変わらずの無愛想な表情で俺に指示を出し、シスターマルレシアが玄関まで送ってくれるらしい。 俺は机に乗った短剣の入った鞘を巾着に入れると立ち上がり、準備が整った旨をシスターに伝えた。


 シスターは開いた扉から出て待機し、俺が後に続いて歩き出すのを確認してから玄関へ向けて歩き出した。 突然の本国からの枢機卿の来訪に驚いたらしく、人の気配が薄かった神殿の奥の方が慌ただしく動いている様子が伺える。その気配に背を向けシスターの後に着いて行く。 玄関口に着くと眼前の門は開け放たれており、門の向こうには貴族っぽい男と兵士姿の男が3人に黒い祭服の男が何かを説明している姿が見えた。

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