第11話 第1章 異世界到着 7

 ケッセルを筆頭に豪華な赤い祭服を纏った男が後に続き、その後ろには豪華な赤紫の祭服を纏った男が続き、その後ろから鎧を着込んだ2人の騎士っぽい人物が入って来た。 リーリアスは赤い祭服の男が入って来た時に無愛想な顔が一瞬、驚愕の色を浮かべていた。 やはり優秀な司祭でも国の管理を任される大司教と顔を見ることはあまりないのだろうか。 赤と赤紫の豪華な祭服の男2人が俺の対面の席に座り、ケッセルが2人の間の後方で直立している。 騎士2人は机の両側面に待機したようだ。


「お待たせして申し訳ありません。 私は神聖国の大聖堂で大司教をしておりますライウズ・ミケイルと申します。 そこの騎士2人は私の護衛ですのでお気になさらないでください。 国元を出るときには護衛をも共わなければならない決まりがあるのですよ。」

 赤い祭服の男が自己紹介してきた。 あれ? 神聖国から来たって言ったぞ。 しかも、またライウズと名乗ったな。 兄弟なのだろうか。


「私はエルテルム王国の教区を任されているライウズ・カステレウスだ。 本国に連絡を入れた時にミケイル枢機卿が同行されると仰ったので、一緒に来られることになったのだ。」

 この赤紫の祭服の男が、この王国の大神殿の大司教なのか。 こいつもライウズかよ。 ライウズって地球で『聖人』とか付けて呼ぶあれかな。この大司教はミケイルを枢機卿って言ったよな。 確か俺の曖昧な宗教知識と先ほど女司祭から聞いた情報を整理して考えてみた。 日本で例えると教皇が総理、枢機卿が閣僚、大司教が国会議員、司教が県会議員、掌院や典院が市会議員、司祭や輔祭が公務員って感じだよな。


「早速、鑑定をさせてもらうね。 『世界を照らす光の神よ。 我に真実の理を映し出したまえ。鑑定。』」

ミケイル大司教がケッセルと同じ呪文を唱えた。 魔法を使う時には詠唱する文言が決まっているのだろうか。 そうだとすれば面倒だな。

 

「キサラギ殿、掌院ケッセルから聞いておられるでしょうが貴方のステ―タスウィンドウには職業レベルが1と書かれています。 名前欄も(性)キサラギ・(名)トシキ(仮)となっていますね。 貴方が掌院ケッセルにそのように名乗ったのでその様に仮登録されたのですな。 我ら人族の国で性を名乗るのは貴族身分くらいなのですが、各国に神殿を構える我らもキサラギと名乗る性を聞いたことが御座いません。 それに大半の人族の貴族は性は後に名乗るのですよ。貴方は何者ですか?」

「ケッセル神父にも答えたのですが、私には記憶が無いのです。 なので自分が以前に何をしていたかは全く分からないのです。」

 ミケイル枢機卿は俺を興味深そうに見ながら微笑んでいる。


「なるほど。 掌院ケッセルが言った意味が解りました。 私たち聖職者は真偽判定のスキルを所持しており、高位になるほど詳細が解るのです。 それによると、貴方には真偽判定のスキルが反応しないのですよ。 鑑定スキルは反応するのに真偽判定は反応しない。 まぁ、鑑定スキルも完全に反応したかは分かりかねますが…… 何か特殊なプロテクトスキルでもかけてあるのでしょうかね。」

「ミケイル枢機卿、これは異常な事態ですぞ。 こ奴を本国の大聖堂に連行し、そこで尋問するべきではありませぬか?」

 カステレウスと呼ばれた大司教が俺を睨みながらミケイル枢機卿に話しかけた。 おい、これはヤバいかもしれない。 どうやら決定権はミケイル枢機卿が持ってるらしい。 穏便な判断をしてくれよな。


「カステレウス大司教、どのような容疑でキサラギ殿を連行するのだ?」

「このように真偽判定のスキルが通じない危険人物は大聖堂で保護し、世の為にスキル解析の検証体になってもらうのが一番ではないかね。」

 おいおい、どんどんヤバい方向に話が進んでるぞ。 


「そのような曖昧な嫌疑で彼を拘束することはエルテルム王国との関係も悪くなるのではないかね。」

「罪状など作ればよろしい。 真偽判定が出来ないと言う事なら、偽証したと言う事もあり得るのではないかね。 もしかすると、高度なステータス偽造のスキルや判定スキル全般を妨害できるスキルを使っているのかもしれませぬぞ。 何にせよ、一旦本国に送ってから考えても良いのではないかね。」

 おいおいおい、立場が逆じゃね? 神聖国から来た枢機卿が王国との関係を気にして、王国の大司教が関係を気にせず強引に物事を進めようとするとはな。 ミケイル枢機卿が穏便派でカステレウス大司教が過激派ってことなのか。 それか宗教勢力が強く、実際に管理している大司教からすると、王国は気にするに値しない程度の存在と思ってるかだな。 どちらにせよ俺の運命はミケイル枢機卿に託されたわけだ。 


「我々は各国で秩序と法を司る存在としてお役に立っていると自認しております。 一番は神の存在の威光のおかげでありますが、長年の神聖国が培ってきた信用と努力の賜物でもあるのですよ。 だからこそ我々は常に公平で在らねばなりません。 自分が思う公平ではなく、他者から見ての公平です。」

 どうやらミケイル枢機卿は本当に人格者なのかもしれない。 表面だけかもしれないので油断はしてはいけないがな。 カステレウス大司教‥‥ もうカスでいいや。 カスの表情が憤怒に染まって見える。 しかし、自分より上位の存在に正論を言われてしまうと、さすがに反論は出来ないようだ。 


「枢機卿台下、受付に王国のアハグト子爵が参られたとの連絡が御座いましたがいかがいたしましょうか?」

 唐突にリーリアス神父が無表情に戻った顔で報告を入れてきた。 アハグト子爵、名前からするとこの街を統治している貴族なのだろう。 貴族などとも余り関りを持ちたくはないな。 状況によってはこの枢機卿を信用して神聖国を頼らざるを得ない事になるかもしれない。 ここは状況を静観するしかないだろう。

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