第8話 第1章 異世界到着 4

「この国の名前を聞きたいのですが……」

「兄ちゃん、この国の名前も忘れちまったんか。 この国の名はエルテルム王国だ。 最近、急成長して結構名前も通ってきているから、国名を聞かれたのは初めてだぁ。」 

「エルテルム王国ですか。 この街の名前も先ほどの少年にも聞いたのですが知らないと言われてしまって困ってたんですよ。 自分の住んでる村や近くの街の名前も知らないとは思いませんでした。 ちゃんと名前はあるのですよね?」

「そりゃあるに決まってるだろ。 この街の名前はアハグトで、坊主の住んでる村はアハグトイミグだな。まぁ、アハグトの13番目の村って意味の名前だ。 村の奴らは滅多に外には出かけないから名前など気にしないんだろうな。 この街の者たちならイミグ村で通じるが、よその街もそれぞれの村を街の名前の後に番号を付けて呼ぶから、そこは気を付けないと混乱することになるぞ。 街や国を行き来する奴なんて商人か冒険者くらいしか居ないから大丈夫だと思うがな。 大抵の街は、その周辺に複数の開拓村を持つんだ。 そこから農作物や畜産品を仕入れて、生活物資や嗜好品を卸して成り立っている。 街の規模が大きくなるにつれ開拓村は増えていくって寸法さ。 アハグトには18の開拓村があるんだよ。」


 開拓村の数で大体の街の規模が分かるのか。 街に入る前に見えた田畑の規模では到底、街の人々の食料を補えるとは思えなかったが、周りに村を作って不足しそうになると村を増やしていくと言う方法は効率的ではある。 土地が潤沢にあるから出来るのだろうけどな。 18と言う村の数が多いのか少ないのかは分からないが、結構大きい気がする。 対面の側面の外壁が見えないので、直径数キロはありそうな感じだ。 地球では在り得ない規模だな。

「18も開発村を持っているってことは結構大きな街なんですね。」

「そうでもないぞ。 ここケルゼン伯領には12個の街があってな、アハグトの街の人口は2万5千人ほどで5番目くらいの規模だったと思うぜ。 ケルゼン伯が治める領都ケルゼンが一番大きくて15万人くらい居るって話だ。 収穫の3割は領主に納めねばならんから、最低でも街に10以上の開拓村がないと街の経営が成り立たん。 村を増やす時は領主様に相談して承認を得られれば、村の建設の予算の半額が与えられ、軍から建設魔法の特化魔導小隊と工兵小隊と輸送小隊が派遣される。 早ければ、1月ほどで村の主要設備や家屋が出来上がるぞ。 今この国は発展期だから、慢性的な順番待ち状態だな。」


 村を作るときのは予算の半分が支給され、村づくりのスペシャリスト部隊も貸してもらえるのか。 軍隊と言うものは平時となるとお荷物みたいなものだから、屯田制にするか工作部隊としての兵站の訓練を兼ねて有効活用すると良いと偉い人が言ってた気がする。 国がまとめて村の建設を差配するのは計画も立てやすいし、人材の無駄も少なくなるのかもしれない。 転移で街と街や街と村の間を移動できるなら全て国有地にしてしまってもいいだろう。 まぁ、封建社会でそのような制度ができるとは思えないがな。 しかし、村1つ作るのに1ヵ月ほどなのか。 1ヵ月と言ってもグランガイズと地球と同じ日数計算なのだろうか。 週とか曜日の概念があるのかも分からないしな。 聞きたいことが増えていく一方だな。


「ケルゼン伯領は王国の中では大きい所領なんでしょうか?」

「エルテルム王国には王都と辺境伯領が4個、伯領が15個の計20の所領があるが、ケルゼン伯領は10~15番目くらいの規模だったと思う。 人口は40万人は超えたという声明が王都で報じられたからな。 最近、急激に人口が増えて順が入れ替わったりするが、確かその辺りだった気がする。 王都が断トツに多く、最近600万人を超えたとか大騒ぎしてたぞ。 後は辺境伯領の人口が多いな。 

 は? 王都だけで600万だと⁈ 10~15番の規模ってことは真ん中より少し下ということだ。 それでで30~50万人くらいと推定してみる。 爺ちゃんから聞いてた人口と全く違うじゃないか。 もしかして、地球の育成にかかった年数の情報が抜けているんじゃないだろうな。 確か‥‥‥1000倍で100年、休憩に楽園パラダイスで100年、100倍で20年とか言ってたな。 合計1120年か。 それだけ年数が進めば平和になった時代なら人口が急増していてもおかしくないな。 爺ちゃんから聞いた情報の歴史以外は参考程度と思ってたほうがいいかもな。


「ケルゼン伯領は王国のどの辺りにある所領なんですか?」

「そうだな‥‥‥ 王国の東西南北には辺境伯の伯領があってな、中心と東伯の所領の間に王都がある。 その逆の中心と西伯との所領の間にあるのがケルゼン伯領だ。 王都とうちの領の間には王都と辺境伯領の次に大きいガルデム伯領ってのがあってな、ここのガルデム伯ってのがあまり良い噂を聞かないのよ。 近々、王様か大司教からお咎めがあるんじゃないかと言われてるからな。 隣領なのであまり騒ぎが起こると、こちらまで被害が来るんじゃねぇ~かと皆心配してるのさ。」


 戦争が無くても紛争の火種は燻ってるってことだな。グランガイズにおけるこの国、領土、街、村に関しての初級な基礎知識はある程度得られたのではなかろうか。 地球との『道』の入り口が国のどの領に現れるかは分からないが、ケルゼン伯領に拠点を構えるのも良いかもしれないな。 王都でも良いが、どれくらいの広さに600万人も住んでるのか分からない。 あまり人が多いのは好きではないから、中規模辺りが丁度いいだろう。

 ケルゼン伯の評判を集めて、悪くないなら街の選択だな。 この街の評判も集めて悪くないなら、この街でも良いかもな。 取り合えず『道』の入り口が見つかるまでの拠点だ。おやっさんに評判を聞いてから決めてみようか。


「この街の暮らしは良いですか?」

「漠然とした質問だな。 まぁ、領主のアハグト子伯はお優しい御方だな。 嫡男のリューゲル様も優秀な御方だと聞いている。 リューゲル様も御年30になられるので、そろそろ子伯も代替わりを考えられてるのではと囁かれてるな。 ということで、未来は結構明るい。 亜人との交流が盛んな国で、この街もその影響が大きく発展し、勢いもある。 おいらとしては結構良いと感じてるぜ。」


 アハグトの街を第一候補にしておこう。 ここまで歩いて来ても雰囲気も悪きない気がする。 だが、エルフが多い領があるなら考えを改めねばならないかもしれない。

 そのような考えをしていると、今まで無言だったライドルが話しかけてきた。

「この角を曲がると神殿が見えてきます。 もうすぐ着きますよ。」 


 角を曲がると、大きな門構えの建物が見えてきた。

「神殿にしては、かなり閉鎖的な建物なんですね。」

「普通だろ? 神殿は神聖国の飛び地みたいな場所だから、関係者以外は入れないぞ。 教会と勘違いしてるのではないか。 信徒の礼拝は教会で行うからな。 神殿はあくまで神を祀る場所であって、政治機関としての一面も持ってる。 なので、警戒は厳重になるのは仕方がないだろう。」


 ギリシャ神話でよく描かれる神殿をイメージしてたので、かなりのギャップを感じてしまった。 宗教関係は詳しくないので、あまり深入りしないようにしなければな。 地球より、かなり宗教関係の力が強い感じがする。 神が現存するのだし、仕方ないのかもしれない。 権威だけで中身が腐ってないことを祈ろう。 神様も見てるし大丈夫だと信じたい。


「ライドル、受付に行って先方に到着の報告に行って来い。」

 命を受けたライドルは門の横にある窓の前まで走ってき、中にいる受付の男と話している。 少し話すと受付をしていた男が部屋の奥の扉を開け出て行き、暫くして門の閂らしきものを外す音が聞こえてきた。

 やけに厳重だな。 グランガイズではこれが普通なのだろうか? まぁ~大使館みたいなものと思えば、それほど違和感はないのか。 

「番兵のお二方、案内ご苦労様でした。後のことはこちらで処理致しますので、お引き取り願っても結構です。 ではそこの御方、こちらにいらしてください。」

 受付の男が、おやっさんとライドルに戻るように話して、俺に呼びかけてくる。 ここでおやっさん達と別れ、神殿に残されるは不安が一気に襲ってきた。


「おやっさん、色々有難うございました。 ここを出たら、絶対すぐにお礼に伺います。 なにか美味しい物でもおごりますので、また色々教えてください。 ライドルさんにもお世話になりました。」

「おお、楽しみに待ってるぞ。 遅くなって、おいらが帰った後でも次の番の奴に連絡先を告げておくから、気軽に連絡してくれや。」

 おやっさんは俺の不安を察してくれたのだろう。 豪快に笑いながら手を振って答えてくれた。 俺はその心遣いに感謝しつつ案内役の男の後に着いて行く。

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