第7話 第1章 異世界到着 3

 街の外壁には門が有り、そこには4人の門番が立っていた。 時間が早いせいか、交通の手段が転移門がメインなのだかは分からないが人の出入りは全く無さそうだった。 門番の1人が俺たちを見つけ声をかけてきた。


「おい小僧、今日は珍しくゆっくりじゃねぇ~か。 それにその兄ちゃんは知り合いか?」

「違うよ。 ここに来る途中に出会ったんだ。 転移の失敗かなんかで記憶をなくしたんだってさ。」

 

 クソガキは小走りになって門のほうへ駆けていく。 俺も遅れまいと全速で追いかけていった。 門に辿り着くと息を切らした俺に向かって門番が囲むようにして話しかけてきた。

「兄ちゃん、悪いが決まりなんで、あそこにある水晶の上に手を置いてくれないか? 別に危害を加える訳じゃねぇ。 街に犯罪者を入れる訳にはいかないんでな。 あの水晶が光らなければ普通に通れる。 赤く光れば犯罪者として捕まえることになる。 青く光れば誰かの探し人なので本人の許可を取って依頼主に連絡することになってる。 兄ちゃんは青く光るかもしれないからな。」

 犯罪者の特定に捜索願いが届けられてる人物を判定できるとはかなり便利なシステムだな。 俺はグランガイズに来たばかりだから犯罪歴もないし、知り合いもいないからと安心して手をかざす。 すると水晶が白色に光り出した。

「白色⁈ おい、誰か白色に光ったときの条件って知ってるか?」

 門番の中でも年長に見える男が慌てたように皆に問いかけている。 残りの3人も「白色なんて聞いたととねぇ~。」

とか、「白色があるなんて初めて知ったよ。」など口々に話している。

 

 意を決したのか年長の門番が話しかけてきた。

「兄ちゃん、悪いな。 水晶が光ったと言うことは何か問題があるってことだ。 犯罪者ではないし、黄色でもなかったので危険人物とは思えねぇ~が、おいらの一存ではどうしようもない。 そこで、兄ちゃんには2つの選択肢がある。 1つはおいらが神殿に確認に行ってる間、この番所の裏にある個室でおとなしく待っていることだ。 もう1つはおいらと一緒に神殿に行くかだ。 逃げようとは思わないことだ。 命の保証はできないからな。」


 俺も突然の出来事に混乱していたが、神殿と言えば司祭様。 魔法を覚えるために訪れようと思っていただけに道案内までしてもらえるとなるとお得なのかもしれないな。 ここは神殿に一緒に行くことを選ぶことにする。


 ふと、隣を見るとクソガキが俺を睨んでいた。 心当たりは‥‥‥ あっ、屋台で何かおごると約束してたんだ。 だが、どれくらい神殿で時間がとられるか分からないし、 このまま約束を反故にするのも、たとえ生意気なガキでも心が痛む。 でも駄賃として硬貨を渡すにしても相場が分からない。 なら、門番に聞くしかないだろう。

「あの、この少年に道案内を頼んだお礼に屋台で何か食べさせてあげると約束したのですが、時間がなさそうなのでお駄賃を渡したいのです。 生憎相場が分からないので教えてもらえませんか?」

 「そうだな。一番人気のある串焼きが1本で銅貨2枚だ。 村の小僧には贅沢な食べものだがな。」


 門番の1人が答えてくれた。 多少高価であっても、一番人気なら一般人が買える金額のはずなので、小遣いとしては範囲内だろう。 俺は巾着に入れていた小袋から銅貨2枚を取り出しクソガキに渡す。


「生憎、俺はこれから神殿に行かねばならないらしい。 一緒に屋台には行けないが、これで好きな物を買って食ってくれ。 ここまで助かった。」

「おっちゃん、ありがとう。 生きて街から出られてうちの村に来ることが有ったら村を案内してやるよ。」

 ガキは物騒なことを言い残し、手を振りながら街の中へゆっくりと走って行った。


「さて兄ちゃん、悪いがこの腕輪をつけてくれないか。 別に危険な物じゃねぇ。 逃走防止のために魔法を封じさせてもらう。 この部屋は魔封じの結界が張ってあるから転移や攻撃は出来ないが、街中だとそうはいかんからな。」

 最年長の門番の男がそう言いつつシンプルな銀色の腕輪を差し出してきた。 日本では手錠とか腰紐で逃走防止をするのだが、さすが異世界魔法さえ封じれ逃走はふせげると言う事なんだな。 俺は受け取った腕輪を左手首に嵌めて繁々と眺めてみた。 普通にデジタル腕時計でもしているような感じに見えるな。


「おい、ゲルタ。 今から神殿にこの兄ちゃんを連れて行くから、長司祭に訪問の連絡を入れておけ。 内容は『水晶が白く光ったので、その人物を連れてくから鑑定を頼む』だ。」

 最年長の門番の男は門番の1人のゲルタと言う男に伝言を頼んでいる。 何だかの通信手段も確立されているのか。 中々侮れないじゃないか、異世界。


「じゃぁ、出かけるぞ。 ライドル、お前は兄ちゃんの前を歩いて神殿へ案内の役だ。 おいらは後ろで警戒しながら付いていく。」

「解りました、おやっさん。 出発するけど兄ちゃんも準備はできてるよな。」

 一番若そうなライドルと呼ばれた門番が俺に確認してきた。 俺の持ち物なんて巾着1つだし、心の準備と言う事ならできている。


「はい、いつでも行けます。」

「歩いて10分もかからない。何か聞きたいことが有ったら質問を受け付ける。答えられる事なら答えてやるから気軽に聞いてくれ。 兄ちゃんは犯罪者って訳じゃないから、そんなに身構えなくていいぞ。」

 おやっさんよ呼ばれた最年長の門番が豪快に笑いながら言ってきた。

 

 これはチャンスかも知れない。 まず知りたいのはこの国の名前と位置、それにこの街の名前と位置と規模だな。 門番クラスになると正規兵だろうし、ある程度の情報は持っているはずだ。 時間はあまりないので重要な情報順に聞いていくことにしよう。 ライドルが部屋の扉を開けて先導して歩き始めた。 おれはそれに続き付いていくことになる。 最後尾におやっさんが扉を閉め辺りを警戒しながら留守をする門番に声をかけた後歩き始めた。 


 番所から出て、街の中へ目を向けると、いかにもファンタジーアニメなどで映し出される一般的な風景が視界に飛び込んできた。 さすがに2階建てまでの建物が多く。稀に、3階建てと思われる建物も点在している。

 そこに、思いもしなかった情景が目に入った。 それは亜人が少数ではあるが居たことだ。 亜人は一目で分かった。 見た目は普通の人間だが、耳がケモ耳なのだ。 人間のような側頭部に人のような耳もない。 よく見ればズボンの後ろから尻尾も出ているじゃないか。 俺は気になり、おやっさんに尋ねてみた。


「亜人との交流も結構あるのですね。」

「そりゃそうだ。この国は位置的に亜人の村と近い。 亜人との交易で大きくなったような国だからな。 国境周辺の街に行くと、もっと亜人の数も増えるぞ。」


 なるほど、この国は人族の国の中でも東部に位置するんだな。 亜人とも友好的な関係らしい。 爺ちゃんからの話ではエルフ、ドワーフと12の獣人だったっけな。 見渡す限りでは3種の獣人しか見当たらない。 ウサ耳とトラ耳と犬耳がひょこひょこと動いて、見てて癒される。 だが、俺はエルフが見てみたい、とてもだ! 

「3種類の亜人しか見当たりませんが、他の種族の方はおられないのですか?」

「この国と接してる亜人村が兎人村と虎人村と犬人村だからな。 兎人と犬人は人族と友好的な種族だ。 虎人は中立ってとこだな。 土竜人や蛇人ってのも居るらしいが、滅多に人族と関りを持とうとしないと聞く。 


 エルフの名前が出てこない。 まあ、14種全部の立ち位置を聞くのも時間がおしいし、何故知ってるのかと聴かれても答える術がないからな。 ここは当初の予定通りの質問に戻ろうか。

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