第6話 第1章 異世界到着 2
「『お兄さん』は気づけば草原で倒れていたんだよ。 さっきも言ったけど、それ以前の記憶が無くて何をすれば良いのか分からないので、取り合えず人か街を探していたんだよ。」
「へぇ~ だったら転移に失敗したのかもね。」
あまりにも当然のように紡ぎ出された解答に感心しながら質問を続ける。
「転移とはなんだい? 失敗とかは良く起こるものなのかな?」
「転移とはね。村と街を繋ぐ門を転移門と言ってね、村の人は魔石が高いので使わないけど、街から商人や冒険者やお役人やお偉いさんとかが使って転移してくるよ。 転移の失敗は門では起きることはほとんど無いけど、魔導士が偶に失敗することがあるって前に会った冒険者のおっちゃんが言ってたよ。」
なるほど、乗り物が通って無さそうな道なのは乗り物を使うくらいの金を持ってれば転移門使ったほうが早いんだな。 アイテムボックスがあるなら、商人も荷馬車などで移動しないのだろう。 さすが魔法世界だ。
「そうなのか。 少年はすごい勢いで走っていたけど、どうやって走ってるんだい?」
「身体強化に決まってるじゃん。 これはみんな使える魔法だよ。 もしかしておっちゃん使えないの?」
「『お兄ちゃん』は魔法の使い方も忘れてしまったようなんだ。 どうやったら使えるか教えてくれるかな?」
おお、自然に魔法の使い方を訊ねることができたぞ! ここで使えるようになれば時間も短縮でき、色々楽になることに違いない。
「教会に寄付をして、欲しい魔法を司祭様に言ったらもらえるんだよ。 おいらが使ってる生活魔法と呼ばれる魔法は1つの種類が大銅貨1枚で使えるようにしてもらえるから、おっちゃんも何種類か買ったらいいよ。 普通は使えるはずなんだけど、使えないならもう一回使えるようにしてもらったらいいんだよ。」
教会までいかないと魔法は使えないのかと少しガッカリしたが、街着いて教会に行けば魔法を覚えられるのが分かっただけで成果はあったな。 ただ、貨幣価値が話か分からなねぇ~な。 まぁ、村の子供に覚えさせれるくらいなら安いとは思うんだけどな。
「でも、おっちゃん。 今向かってるおいらの村には司祭様は居ないよ。 新年の儀とか成人の儀とか豊穣祭とかじゃないと司祭様は村にいらっしゃらないんだ。」
どれくらいの規模の村だかは分からないが、小さい村だと教会が有るかもしれないが、有ったとしても司祭が常駐してるとかぎらないよな。
「じゃ、少年の向かってる街には司祭様はおられるのかな?」
これで司祭が居ないようなら転移門を使って大きな街へと移動するしかないな。 そう思いながら尋ねてみる。
「うん。おいらが行く街には教会があって、いつでも司祭様がいらっしゃるよ。」
「では、『お兄さん』も街に向かうとするよ。 魔法は使えないので普通に歩いていくよ。 少年の速さでここからどれくらいの時間で街に辿り着けるのかな?」
ガキは 「え~っとここまで、大体1/3刻で村から町までが5/6刻だから‥‥」と呟く。
「あと半刻ってことでいいのかな?」
「そうそう、それで合ってるよ! 多分……」
自信なさげに答えるが、ここはガキを信じるしかないしな。 このガキの速度で30分となれば普通に歩けば7~8時間ってところか。 日が暮れるまでには着きそうだなと思いながらガキに礼を言うと早速歩き始める。
するとガキが
「おっちゃん、魔法が使えないならおいらが背負って運んでやろうか? 偶に長老を背負って街まで往復するけど全然平気だからな、 屋台で何かおごってくれるなら運んでやるよ。」 と話しかけてきた。
「俺は結構重いぞ。 大丈夫なのか?」
「平気だよ。帰りに運ぶ荷物のほうがきっと重いし。」
凄いな魔法。 こんなのが一般市民だとすると人数差はあれど、地球側が勝てる気はまったくしないぞ。 俺はこっち側だから問題ないけどな!
「では、頼むよ。すごく助かる。 高価なものは無理だけどできる範囲でおごってやるよ。」
「じゃ~背負うね~。」
ガキはおれを軽々と背負い、すごい勢いで走り始めた。
ちょ、おま‥‥ 縦揺れが激しく、すぐに気分が悪くなる。 そりゃそうだ背負われて走ったら揺れるよな。 少し考えると分かることだった。 時間短縮とお手軽感の誘惑に負けた罰だとでも言うのか! 少年が話しかけてくれるが、返事も空返事で内容もほとんど聞いていなかった。
「おっちゃん、街が見えてきたよ。」
クソガキが大きな声で俺に呼びかけていたようだ。 あまりの揺れに気分が悪くなりすぎて気を失ってたのかもしれない。 しかし利点もあった。 背負われてからすぐに気を失って一瞬で時が過ぎ去ったので、背中で大惨事を起こすことはなかったようだ。 俺の尊厳は守られたのだ!
前方を見ると街の外壁がドンドン大きくなってくる。 ここまで来ると道の周りには田畑が広がっていて、ポツポツと農作業している姿も確認出来るようになった。
「少年。もう降ろしてくれ。 少し気分がすぐれないので、ここからは気分転換がてら歩いて行きたいんだ。 この距離だと1/6刻ほどで着くだろう。 それくらいの時間の余裕はあるだろ?」
限界は間近だったか、余裕のある振りをしてクソガキに尋ねてみた。
「おっちゃんはだらしないな。 長老は全然平気なんだぜ。」
それ絶対何かの魔法を使ってるだろ! 常人があの揺れに耐えれるとは思えない。
クソガキに降ろしてもらい地面に立とうとするが、ふらついて真っすぐに立てないで千鳥足になってしまう。
「ははは。 おっちゃん、なんだよその変な踊りは。」
腹を抱えて笑われてしまった。 俺は繊細なガラスの心が音を立てて割れていくのを感じながら笑顔で応える。
深呼吸をして、2~3回の屈伸をした後にゆっくりと街へ向かって歩き始めた。
「少年、あの街の名前はなんというのだい?」
俺は当然な疑問を投げかけたはずなのだが、クソガキは何を言ってるんだ、こいつはとでも言うように
「街は街じゃん。 それ以外に呼び方なんてないよ。 村は村だし名前なんてあるわけないじゃん。」
「いや、それはおかしい。 ほかの街や村と区別がつかないじゃないか?」
「なんでほかの村とか街とか関係あるの? うちの村の人のほとんどは自分の村から出ないし、おいらみたいに荷物運びで小遣い稼いでるやつも、この街にしか行かないからね。 確か街の人はうちの村を名前で呼んでたような気がするけど、気にしてなかったよ。」
他の街や村を知らないならそんな事もありえるのか。 街や村の名前は街に着いてから聞けばいいや。 やはり村の子供から情報を得るのは得策じゃないな。 日常会話をしつつ街に向かって歩いていく。
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